第2話 魔王退治はギャンブル

「戦闘とは、生きるか死ぬか。全てを賭けたギャンブルですのよ。金を惜しんでは勝てる戦いも勝てませんわ。」


 吉弘嬢から、世界を救う費用として要求された金額を聞いて、王様は即座に「無理じゃ!」と答えたところ、このような返答が返って来た。


 そして、国民の一人一人が勝つために武器を生産し、効率的に前線に兵士を送るためのインフラ整備の重要性。そして新兵を一から熟練兵に育てるための方法を説くのだった。


 なお国と国同士が全ての資源を投入して戦う『総力戦』が地球で行われたのは1914年の第一次世界大戦からである。


 この世界では人類の存亡をかけてはいるが、兵農分離も未発達な、まだまだ牧歌的な状態だった。

 そんな王様にとって『互いに絶滅するまで殺し合うのを想定した戦い』を唱える彼女は、魔王よりも恐ろしい戦闘狂に見えた。

 ゆえに


『何故、このような者を連れて来たのだ…』


 と王様は彼女を召喚した賢者を怨みがましい目で見るのであった。

 そして

「我が国は困っているのだ、それを助けないとは貴女には人の心というものがないのか?」

 どうしても払えない金額に王様は哀れさを装って、情に訴えかけた。

「確かに、貧しい者、困っている領民を助けるのは領主の勤めですわね」

 吉弘嬢は、うんうんとうなずいた。だが

「でも、国を代表する者や人の上に立つ者が人を呼びだして、無償の奉仕を要求するのはいかがなものかしら?」

 次の機会に生かせるから、今回の仕事は無料タダでやってくれ。

 世の中にはそんな言葉を平気で吐ける金持ちがたくさんいるが、そんな言葉は幼いころからビジネスの世界にいる彼女には通じない。


「払える対価をもっているにも関わらず、無料の成果を求めるのは物乞以下の精神ですわ。そのような方との取引はお断りしてますの」


 相手が王様でもきっぱりと言った。

 

 だが、彼女も鬼では無い。

「例えば、貴重な鉱石がでる鉱山を割譲するとか、こちらにとって未知の技術を提供するとか、いかがかしら?」

「ふむう。鉱山か…」

 王はものすごい渋い顔をしながらいくつかの鉱山を提示したが

「こちらの世界ではちょっと価値がないものばかりですわね…」

 と、あっさりと価値を見捨てられた。


「仕方ありませんわね。だったら、、技術援助をして差し上げましょうか?」


「魔王でもないのに国を乗っ取ろうとしてきた!!!」


 数百万の家族の生活を守る予定の彼女は、ビジネスに関しては鬼よりも冷血だった。


「だって国を救うために、たったこれだけしか資金を出せないのでしょう?この国の財政は大丈夫なのか不安ですもの。」

 だったら自分が国政を切り盛りした方がこの国の為にも良いだろうと、吉弘嬢は全くの悪意無く、事実として宣言した。


 異世界から呼び出した自分の娘どころか孫のような年齢の少女から、ナチュラルに見下され王は耳を疑った。

 そして、なんとかこの口の減らない小娘、もとい勇者サマを言いくるめるための材料がないか思い返し

「そ、そうじゃ!お主はこの世界に来る際に、神より【スキル】を授かったじゃろう!」

 伝説では、他の世界から来る人間は神より一つ特別な力を与えられると言う。

 すると、目の前の少女は

「ああ、スキルとはこの【私物取寄しぶつとりよせ】の事ですか?」

 そういうと、少女の掌からティーカップとポットが現れた。

 それは非常に美しい青磁の食器で、たいへん高価なものだと分かる。

 

「これは、仕事をするために必要な道具であって、必要経費は別途必要でしてよ」

 大工でも特別な仕事をする場合、道具は別途支給される。

 それに材料や仕事代は別途必要であるし、家を建てる場合には『着工金』『中途金』『完了金』の三回に分けて支給される。

 公共工事の場合でも500万を超えたら、ケチ…でなくてお金にきっちりしている県でも着工金くらいは用意してくれる。

「特に、わたくしの【私物取寄】は、私自身の私物を取り寄せるだけの能力ですもの。資金がないとすぐに使いものになりませんの」

 と、自身の能力について説明する。

 これを聞いて王様も少し納得できたようだが、

「それでも、この世界の9割以上を要求すると言うのは暴利すぎるじゃろ」

 と、不平を漏らす。

 こうして、世界を救うための報酬でもめていると、周囲が暗く暗転した。


 すると、

「ふふふ、貴様が勇者か…」

 禍々しい声とともに、不気味な影が現れる。

「我が名は魔王。ヒトの敵にして滅びの存在である。このような小娘が予に挑むとは身の程知ら…「いえ、交渉は決裂しましたわ」………は?」

 宣戦布告をしようとしていた魔王は虚をつかれた。

「だって、この国何もないんですもの。世界の99%をくれるなら協力すると提案しましたのに、同意いただけないんですのよ」

 いや、お前。それは人間としてどうなのよ?

 ていうか、99%ってボリすぎだろ?

 と魔王は思ったが、そもそも自分が攻め込んでるのだから何も言えなかった。

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