賢いヒロインが知力と資本力で魔王と王と、ついでに神をひねりつぶすお話

黒井丸@旧穀潰

第1話 お嬢様異世界に行く

(※本作はフィクションです。実際の団体、人物、大分とは一切関係ありませんが、島の形は大分県をイメージしていただくと分かりみが深いかもしれません)



  ※


『ミギニマガリマス!!!ゴチュウイクダサイ!!!!』

 猛スピードで迫るトラックが電子的な声で進行方向を告げる。

「$U’%=I)(#’()=#!!!!」

 あわてて右に逃げるゴブリンたち。

 何とか進行方向から外れて一息ついた。


 ……と、見せかけてウインカーをリセット!流れるようなハンドルさばきで左に急カーブ!

 あざやかにゴブリンたちを吹っ飛ばすお嬢様。


 実に自然で、極悪なフェイントだった。


「「「ひでぇ!!!!」」」


 ソーカ・キスミ・ベッキーの仲間3人が声を合わせて勇者の非道を非難する。


「戦いとは騙し合いですわ。命のやりとりをしているのに相手に情けを求めるなんて、ずいぶんと可愛らしい事をおっしゃってますのね」

 先ほどまで『勇者サマは魔物と戦った事なんてないんだろう』と語っていた先輩たちに宣言する。

 そして今度は『ヒダリニマガリマス!!!(ボイスレコーダー改造済み)』と音を出し、その予告通り左に曲がり、そうになりながら直進する。

「ギャアアアアアアアア!!!!」

 あわれなゴブリンは3分の1の確率で次々に跳ね飛ばされていった。


 骨ガ折レタ。

 胸ガ痛イ。

 死ヌ。

 誰カヒトオモイニ殺シテクレ。


 今まで聞いたことのない様々なゴブリンの悲鳴が彼女たちの耳に響く。


『…なんでこんな事になってしまったのだろう』


 そう思いながら、賢者ソーカは勇者をこちらの世界に呼び出した時の事を思い出していた。



   ※ 数時間前。ホトサエ国、王宮



「なるほど、魔王と言う軍団に攻撃されている貴国を助けてほしい。そうおっしゃりたいのですね」

 絹のようにつややかな髪に、宝石のように美しい瞳。

 街を歩けばたいていの人が振り返るような美少女は、美しい声で確認をした。


 この世界では人間と魔族が反目し合い、人間は8つある国の内、7つを占領された状態だった。

 この事態を解消するべく王は伝説に従い、この国の賢者を異世界に遣わし、救世主を探させたのだという。


 そして救世主として召喚されたのが日本人の少女。吉弘綾香(よしひろ あやか)嬢だった。

 高校生である彼女は、その年齢に似合わず落ち着いた様子で説明を聞き、わずかな情報で事態を把握したようだった。


 そして、花のように美しい唇でこう言った。


「で、この国だけではなく他に点在する7国、及び世界中を救うとして、

「は?」


 彼女の言葉に王様は耳を疑った。


 救世主とは、わずかな援助で見返りを求めず世界を救う都合のよい存在だとおもっていた王は、彼女の質問に面食らった。


 そこまで考えていなくても、ここまで露骨に報酬を要求されるとは思ってもみなかったのだ。


 だが、目の前の少女ははっきりと言った。

「旅行中の食費。衣服は着たままだと不衛生ですから、使い捨てになるでしょう?それに、武器の調達もこちらの原始的な武器では話になりませんから、私の私物から消耗品を常に補充する必要がございます」と言いながら、見慣れぬ板を指で弾き、不思議な記号を見せる。

 

『まさか、国を救うという大事業を無料でできるなどと夢物語のような事は考えていませんわよね?』


 にっこりと笑う彼女から、そのような言葉が聞こえた気がした。

『もしかして、呼び出してはいけない者を呼び出してしまったのではないか?』

 この時、王は安易に伝説に頼ったことを後悔するのではないかと、ぼんやりとした不安とともに思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る