第3話 世界の99%を下さるなら、仲間になってもよろしくてよ

「どうかしら?そちらの方で魅力的な報酬を提示できるなら、交渉してもよろしくてよ」

「え?………うーん。この国の半分をやるとか?」

「あまり欲しくありませんわ」


 魔王が提示した条件に、いちおうこの世界をすくために呼ばれた吉弘嬢はダメ出しをする。


「………おまえ等、国王を無視して勝手に交渉するでない」

 いつの間にか蚊帳の外に置かれた人間の王が口を挟む。

「だいたい、電気とか電波も存在しないような世界でしょう?半分貰った所で扱いに困りますわ」

「電気?電波?なんだそれは?」

 人王を完全に無視して話は進められる。

「ふむ。だったら、なぜ貴様はこの世界の99%なら欲しいのだ?」

「他の人に売る時に便利だからですわ」

魔族たにんの世界を転売しようとするな!」

「お主はこの世界を救う勇者じゃろうが!!!」

 とんでもない存在を呼び寄せたな。と言いたげに魔王は人の王を見る。

 人の王も、彼女を選んだ賢者をにらみつける。

 賢者はそれを承認した神に恨み言を吐いていた。


「だいたい、この世界がまるで無価値のように語っておるが、貴様の世界とはどのような世界なのだ?」

 魔王の影はうんざりしたような声で問いかけると、食料に困ることはなく、水を外に汲みに行かなくても飲めるし、歩かなくても移動可能なように道が整った世界であり、この世界の規模なら100回は壊せそうな武器がある世界だと語った。

「はっ!そのような世界、存在するわけがなかろう」

 嘘をつくならもっとましな嘘をつけ、と魔王は鼻で笑う。

「あ、ごめんなさい…………この程度の国も侵略できてない時点で、そちらの国力も察して差し上げるべきでしたわね」

「あやまるなぁ!!!心底悪かったって感じであやまるなぁ!!!」

「この程度の国とはなんじゃ!この程度の国とは!!!」

 故郷をけなされて怒る一王と一魔王。

 いくら選ばれし勇者とはいえここまでの暴言は聞き逃せなかった。


「よーし!分かった!!!」


魔王はぶちきれて叫んだ。

「こんな国、どうでもよかったが、全勢力を投入して滅ぼしてやる!!!このクソ女が後悔するくらい徹底的にやってやる!!!」

「そうだ!この生意気な小娘に天誅を…………って、なんてことしてくれとんじゃ!!!お主!!!」

魔王の言葉に、最初は同意していた王様は真っ青になった。だが

「あら。私はこの国との交渉は決裂しましたの。ですので、この国がどうなろうと関係ないのだけど、魔王様は頭脳に何か深刻な欠陥でもお持ちなのかしら?」


 よろしかったら、ウチのかかりつけ医を紹介しましょうかしら?

 そう、挑発する吉弘嬢に、実態を持たないはずの魔王の影の血管が切れた音が聞こえた気がした。

「だったら、予と貴様とで条件を結んでやろう!!!貴様が勝利したらこの世界の99%だな!では予が勝った暁には、この世界だけでなく、貴様の世界も頂こうではないか!!!」

「では、契約成立ですわね」

 あっさりと全人類も賭けの対象とする勇者。

 その言葉に、人の王だけでなく魔王も、人間とは明らかに違う何かを見るような目で吉弘嬢を見た。


「あとは、勝敗の判定ですが」

「どちらかが死ぬまでで十分だろう」

「それだと、魔王様が万が一命乞いをしたくなった時に助けて差し上げられませんわ」

 ブチン。

 怒りのあまり血管が切れた音が向こうから聞こえた気がするが、吉弘嬢は構わずに続ける。

「ですから、『参った』『降参する』『助けてくれ』これらの言葉を私に伝えた場合も決着がついた事にしてさしあげます」

 私の方は結構ですわ。と強者の余裕を見せつける。

 それに対し魔王は

「予は貴様の命乞いなど許さんぞ!!!必ずその減らず口を叩いたことを後悔させてやろう!!!」

 同条件にしていざとなれば命だけは助かろうと考えていたのだろうが、甘かったな。と言いたげな顔で魔王は告げる。だが

「ええ、私無駄な殺生は嫌いですの。条件を受け入れてくださって感謝いたしますわ」

 と、余裕で返されてさらに血圧が上がるだけだった。


「では、正々堂々この世界をかけて戦いましょう」

「その言葉後悔させてやろう!!!」


 こうして、魔王と非常に口の悪い勇者の間で世界を賭けた戦いは始まった。

 人類支配を企む魔族の王と、ナチュラルに失礼な勇者との戦いであった。





「あの、ワシの意志は…」


 人間の王が、居心地悪そうに口を挟む。

「あら?まだ居ましたの?」

「そういえばいたな…。この小娘の次は貴様だ。せいぜい首を洗って待っておれ」

「ものすごい理不尽ではないか!?それは!」

 こうして、世界を賭けた戦いは始まったのである。


 そして、魔王が姿を消した後

「これで、王様は全力で私を応援するしか方法が無くなりましたわね」

 と、ぽんと肩を叩いていたずらっぽく吉弘嬢は笑った。

 まるで『使い捨ての兵士にする予定だったのでしょうけど、そうはいきませんわ』

『死にたくなかったら、全力で支援をしなさいな』

 そんな、血も凍るような声が聞こえた気もした。


 どちらにせよ、吉弘嬢は自分の戦いを全人類の存亡をかけた戦いに吊り上げ、人類側の全面的なバックアップを取り付ける事に成功したのである。最悪だ。

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