第4話 勇者と愉快な仲間たち

 最低限の戦いのルールを決める事もなく、勝者の条件だけを決めて、勇者と魔王は再戦を期し別れる事となった。

 そして、


「あー、勇者よ。お主には3人の御目付役…もとい仲間をつけてやろう」

 この10分で10年は年を取ったかのように憔悴した王が言う。


 王様は魔王以上に厄介な生物を追いだそうと『勇者と3人のお供が魔王を倒す』という言い伝えに従って、用意していた3人の仲間を紹介する。

「彼らは賢者のソーカに、ホビットのキスミ、ドワーフのアキツラである。旅の供に連れていくがよい」


○賢者(女性) ソーカ=ヨシオカ

 地球に2年ほど滞在し、世界を救うのに適した人材を捜していた……のに何故か彼女を選んだポンコツ。

 ニートの様な生活をしていたため日本の常識とマンガなどにやけに詳しい。

 

○ホビット(女性) キスミ=ウス

 気むずかしいシーフ。罠の解除や鍵開けを得意とする。


○ドワーフ(女性) アキツラ

 まだ髭も生えないドワーフとしては若い部類に入るが歴戦の戦士。この地方の地形や天候、魔物に詳しい。


「あら?キスミさんやアキツラさんはともかく、ソーカさんは戦い慣れしているようには見えないのですけど?」

 吉弘嬢が王様に尋ねる。

「お主に必要なのは、戦いの仲間よりも常識的を教える案内役の方が必要だと思ってな」

 皮肉たっぷりに王様が言う。

 だが、これは非常に正しいと宮廷で一部始終を見ていた誰もが思った。


  ※



『この女、アホか?』


 城から旅に出て5分。

 ホビットでシーフのキスミは思った。


 ここは草原を通る一本の道。

 広い広いふつうの道。魔物が隠れて襲撃するにはうってつけの場所である。


 その中を軽快に移動する間抜けな一団がいた。

 勇者の一行である。


 キスミの視線に気が付いたのか

「我が吉弘家は元々武家の一族ですから、徒歩で移動しても万全の態勢で戦えます」

 そういうと吉弘綾香は、疲れた様子もなくしっかりとした足取りで歩いている。

「いや、問題はそこじゃねぇんだがな…」

 シーフとして危険な旅に何度も出ていたキスミは呆れたように言う。


 たしかにこの嬢ちゃん、移動ペースは常人よりも早く、しかも安定している。

 これなら戦闘になってもバテたりはしないだろう。

 だが、彼女の体つきを見ると筋肉もついてないし、魔力もほとんど感じられない。

 ステータスを見ても、ただのLV1の新人だった。


 つまりは、こちらに呼ばれたばかりのひよっこだ。


 そうベテラン冒険者である彼女は思っていた。

 整った道は見晴らしがよく、移動には適しているが、発見される可能性も非常に高い。

 仮に敵に見つかって大軍で襲いかかられたら、隠れ場も逃げ場もない。


 そして、予想通り、小さな矢が放たれた。


「あら」


 お嬢様は危なげなく矢をかわす。

 そして、矢の飛来した方を見ると魔物の姿が現れた。


 草原でも草むらに身を隠し、襲撃するのに適した小さな体躯の持ち主。

 ゴブリンである。


 その数、5匹。

「囲まれてるぞ!!!」

 前と左右を取り囲まれている事に気がつくパーティー。

 これだけの数が一斉に矢を放ってきたら、重装備の戦士でもやっかいだ。

 ましてやパーティー会場から抜け出したような軽装のお嬢様ではちょうどよい的にしかならない。

「クッソ!だから心配だったんだよ!!!」

 悪態をつきながら、冷酷にこの素人を見捨てるかの判断をしていると


「ソコノ人間!!!何シニ ココニ来タ!!!」

 ゴブリンが問いかける。

「あら、あなたたちが魔王さんのおっしゃってた魔物さんたちですのね」

 珍しい動物を見つけたように綾香が言う。

 逆にゴブリンも綾香が珍しいのか、よだれを垂らして

「オマエ、少シ臭イガ、上等ナ餌ノニオイガスル。ウシロノ3匹ヨリウマソ…」


 ぱぁん


 間の抜けた銃声があたりに響くと、ゴブリンはパタリと倒れた。


 いつの間にか突きつけていた散弾銃の弾が、前方に立ちふさがる3体のゴブリンに深々めりこんだためだ。

「………………」

「………………」

 剣で斬られたのと違い、散弾銃という面を抉りとる攻撃によって、原型をとどめない死体となったゴブリン(モザイク処理済み)を見て仲間二匹は、言葉を失った。

 いや、思考が停止していた。

「淑女に向かって『臭い』だなんてひどいですわ」

 傷ついたように香水の香りを漂わせた吉弘嬢は言う。


 いや、魔物を即殺したお前ほどでは…。と、ホビットのキスミが心の中でツッコミを入れていると、


 じゃこん


 聞きなれない不吉な音がした。

 2匹のゴブリンはリロードの音など聞いたこともなかったし、仲間のゴブリンがなぜこのような悲惨な状態になったのかも理解ができなかったが、それがなにか良くない音であることは生存本能から理解できた。

 そして、このままだと次にこの悲惨な死体になるのは自分たちである事も。


「さて、次はどなたの番かしら?」

 

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ゴブリンにとって必死の鬼ごっこの始まりである。

 

  ※


 ふたたび あの『じゃこん』という不吉な音が聞こえる。


「「「%#’#)RJRPIRッッッッッ!!!!」」」


 綾香たちを取り囲んでいたゴブリン達2匹が声にならない声を挙げる。


 5対4。


 数の上では勝っていたはずの自分達が、気が付けばあっさりと少数になっていた。

 

 何故、このような事になったのか?

 何故、仲間がいきなり死んだのか?


 訳が分からないままゴブリン達は走る。

 魔物なら通る事のない整備された道を。

 魔物なら身を隠すために飛びこむ草原を無視して2匹のゴブリンは作戦通り、まっすぐに逃げていた。


 ぱぁん


 銃声が鳴り響き、4匹目のゴブリンが倒れる。

「お前、可愛い顔して容赦ねぇな」

「やるじゃねぇか。と言いたいとこじゃが、ここまで無残な死体だと褒めて良いのか悩むのう」

 ホビットとドワーフが複雑な表情で次々と倒れるゴブリンを見ながら、吉弘嬢の後を付いていく。

 そのはるか後ろを賢者が息を切らして歩いている。

「賢者様はだらしねぇなぁ。」

「勇者様の方がしっかりしているぞ」

 インドア派に厳しい2人。


 だが、賢者の口を見て表情を変える。


 賢者の口が、『罠です。敵が待ち伏せてます』と言っていたからだ。


「やばい!おい勇者どのいったん止まれ!!!」

 慌てて叫ぶホビットのキスミ。

 そこで初めて50を超えるゴブリンの大軍に囲まれている事に気が付いた。

「おい!どうするんだ!いくらアンタに特別な力が有っても、これだけの数に襲われたら危ないぞ!!!」

 ゴブリンの群れはタダの小鬼から体躯の大きなホブにメイジまでさまざまな種類がいる。単純に逃げただけではすぐに包囲されるだろう。


 相手との距離を見ながら、何体倒せるか計算する。

 勇者が使う、あの不思議な呪文でも全て倒すには5分は必要だろう。


 そのあいだに左右に展開されて毒矢を打たれれば、あの勇者はかわせるだろうか?

 被害を無視してゴブリンが群れて襲ってきたらどうするか?


 そんな事を考えていると

「これは、スキルと吉弘流護身術の出番ですわね」

 と、気合いを入れて綾香嬢は言った。

 そして、柔道の様な構えを取ると右腕を天高く掲げ、吉弘は透き通るような声で


「【スキル;私物取寄!】&吉弘流護身術、その10!ですわ!!」


 と高らかに叫ぶと、お嬢様は片手を高く上げ、与えられた能力で自分の私物を取り寄せた。

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