第5話 吉弘流護身術
「【スキル;私物取寄!】&吉弘流護身術、その10!ですわ!!」
と高らかに叫ぶと、お嬢様は片手を高く上げ、与えられた能力で自分の私物を取り寄せた。
!!!!!!!!!
まばゆい光と共に召還された物体は
ズゥゥゥゥン………。
そんな重低音が聞こえ、文字通り大地が震えた。
「エ゛?」
急に目の前にあらわれた物体にゴブリンたちが警戒の声を上げる。
或る者は自分の目を疑い、或る者は自分の脳を疑った。
そこには長さ10m、高さ3.8mの鉄の城が光臨していたからだ。
タイヤは巨大な車体を支えるために4つでは足らず24個を必要とし、後ろのコンテナは凶悪な攻撃性を秘めている。
そう、それは武器と言うには余りにも巨大すぎ……………この世界ではデザインが斬新すぎた。
「…こ、これが、異世界の武器……」
「……でけえし変わった形してんな」
ゴクリ。とキスミとアキツラが息をのむ。
「というか、これ10tトラックですよね!!?」
驚愕するホビットとドワーフに対し、吉弘嬢の世界に来た事がある賢者がジト目で彼女を見る。
賢者は勇者捜索の名目でこちらの世界に2年ほど滞在し、ネトゲとアニメで情報収集をしていたのである。
「なんという巨大な物体だ…これは両手で扱いきれるのか?」
感心するドワーフ。
「これは持ち上げて相手を撲殺する武器じゃありませんからね。ていうか持てねえだろ。普通に考えて」
この世界の常識は合っても基本脳筋なドワーフに賢者はツッコミを入れる。
「でも、これを振り回せたらゴブリンなんてイチコロじゃないか?」
「振り回せるわけないでしょ。ていうか武器として使ったら製造メーカーが泣く奴ですからね。いくら敵と言ってもオーバーキルすぎますよ」
そこまで言って、賢者は気がついた。
ここまで大きな物体を見たなら、戦わずに敵が逃げ出すのではないだろうか?
今まで徒歩だったのも、敵から発見されるまではトラックという目立つ移動方法を使うのを我慢していたのではないだろうか?
そして、魔物たちに発見された今、よけいな戦いは避けようと言う優しい心づかいを勇者様はしようと「吉弘流護身術10;『10tトラックで体当たりですわ!』」
「グギャアァアアアア!!!!」
「ヒッヒェッ!!!コッチニクルンジャnグエバッ!!!」
「ナンダコノ化ケ物ハアァアァァァァアアア!!!!」
どうやら違った様だ。
というか、10って番号じゃなくて頭文字かよ。と賢者は思った。
※
それから物語冒頭の虐殺劇を経て、50匹いたゴブリンは半数が姿を消した。
「……すげえ。ゴブリンの群があっと言う間に吹っ飛んだぜ…」
「吹っ飛んだというか地面に押しつぶされて挽き肉になっているますけどね(原文ママ)」
畏怖と感心を込めて解説に回る2人。
(※轢かれた魔物は特殊な訓練を受けています。よい子は絶対にまねしないでください。実写映画の場合はCGでお願いします)
『ヒダリニマガリマス!!!ゴチュウイクダサイ!!!!』
猛スピードで迫るトラックが電子的な声で進行方向を告げる。
『バックシマス!!ゴチュウイクダサイ!!バックシマス!!ゴチュウイクダサイ!!』
はね飛ばされて弱っている魔物に悪魔の宣告が響きわたり、ゆっくりと下に敷かれていく。
その光景は魔物を憎んでいたホビットでさえ
「もう見てらんねぇよ!殺すんなら、さくっと殺してやれよ!!!」
と、叫ぶほどだった。
なお、トラックにはね飛ばされたゴブリン達は別の世界に転生することになり、困った神様が適当なスキルを与えて異世界に飛ばしたら、結構いい感じに世界を救う事になるのだが、それはまた別のお話である。
「吉弘流護身術、極意その1。使えるものは何でも使え!ですわ!」
全てのゴブリンを●殺した吉弘綾香は、護身の成功を告げた。
「護身どころか過剰殺害じゃねーですか」
賢者は疲れたような声で言う。
先ほどから頭の中で『レベルがあがった』という声が響いてうるさい。
下で聞こえる何かが折れる音を多い隠すレベルで…
「だいたい、これどんな状態で使う護身術なんですか」
彼女の生きた世界を知る賢者は純粋な疑問として尋ねる。
「それは国の公共工事で談合…」
「あ、やばそうな話だから良いです」
かつて滞在していた世界の闇部に足をつっこみそうになったので慌てて話を切り上げる。
こうして、お嬢様の初戦闘は大勝利で終了した。
なお勇者の称号に『虐殺者』が加わった。
たった半日で取得したのは、この世界では彼女が初めてである。
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閑話
「日本の法律では大型免許は21歳でないと取得できなかったはずではないですか?」
賢者が言う。
「道路交通法というのは私有地と日本国外では適用されないものなのですわよ」
と未成年の綾香嬢は答える。
これはフィクションだが、建築会社関連の父を持つ友人は8歳の時点で私有地運転を体験しており、免許は比較的容易に取得できたという。
おおらかな時代の都市伝説的フィクションの話であるので良い子のみなさんは道交法を守って車は運転してください。
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