弁士登場 3 *

 共鳴の歓声や拍手がおさまると、パシオンは、愕然としているペロピダスを真っすぐに見て、声のトーンを変え、穏やかにいいきかせるように述べた。


「三弟ぎみの事は、心からお悔やみ申し上げます。


 しかし、真剣勝負に命の危険はつきもの。


 ダリウス小隊長も武人であり剣士であられた以上、それは十分承知の上で、挑戦を受けられたはず。


 何度も申し上げますが、同盟軍兵士でない踊り子には、同盟規約どうめいきやくは通じません。


 ダリウス小隊長は、同盟規約外どうめいきやくがいの挑戦を受けてしまわれたのです。


 これはお互いの命を張った勝負を受けた、ということにほかなりません。


 承知の上で命を張り、正々堂々とふたりの剣士が戦った。


 結果、片方が敗れ、不幸にも命を失ったとしても、そのことで勝った方をとがめられるしょうか?


 聡明かつ公平なるテバイ軍総司令官ペロピダスさまならば、ご裁断さいだんに迷われることはないはず」


 弁論を終えたパシオン小隊長は、再び胸に片手をあて、深くゆっくりと一礼した。


 そして、皆が気をのまれて、しんと静まり返った中を静かに引き下がっていった。


 コリントス軍第101いちまるいち小隊、別名『なんちゃって部隊』の隊長であるパシオンが、このとき内心ガッツポーズをして、


 (おっしゃぁ――っ、弁論誘導も、足止め時間稼ぎも、うまくいったぞ!


 ヘッヘー、やっぱ俺って天才かも。


 こんなところで思いがけず、ダリウスを倒してくれるなんて、どこの誰か知らないがあの踊り子は最高だなっ。


 クレオンブロトス王のかたきのひとりが打ち取れて、ペイレネさまもきっとお喜びだ。


 あとは、うちの部隊の連中が、逃げたふたりをうまく確保して、我々が保護してやれば完璧だ。


 あ、あの踊り子が男だってこと、部隊の連中に言ってないや……ま、なんとかなるっしょ。


 とっさにいい機転をきかせたって、ペイレネさまにすっごく褒めてもらえるぞー。


 俺への好感度も爆上がりだ。ああ、ペイレネさまぁ♡)


 などと考えていたことは、本人しか知らない。


 パシオンの巧みな弁舌に、ついつい聞き入ってしまっていたアルヴィが、はっと我に返った。


 棚から牡丹餅ぼたもち的に事件が終息しそうな様子に、複雑な表情をして立っているフレイウスに飛びつく。


 重大で深刻な事態を……踊り子がティリオンだった事を耳打ちした。


 フレイウスの表情と顔色が、さっと大きく変わった。



―――――――――――――――――――*



 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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 作者はとっておきの良い声で「聡明かつ公平なる読者さまならば、ご裁断さいだんに迷われることはないはず」と 言ったりするでしょう。

 読者さまは共鳴して拍手し、思いっきりポチポチポチと押していただけます(ヲイヲイw


 どうぞよろしくお願いいたします。 m(__)m



人物紹介



● ペロピダス(32歳)……レウクトラ戦線、テバイ軍総司令官。

 女好き。スパルタのアフロディア姫に熱を上げている。


● ダリウス(28歳)……ペロピダスの三弟。熊のような巨漢。『レウクトラの戦い』で、スパルタのクレオンブロトス王に右腕を斬り落とされ、隻腕。

 踊り子ティリオンと対決し、死亡。


● フレイウス(26歳)……レウクトラ戦線、アテナイ軍総司令官。

 『アテナイの氷の剣士』と異名をとる剣の達人。ティリオンの『第一の近臣』


● ギルフィとアルヴィ(19歳)……双子でフレイウスの部下。アテナイ軍士官。

 アテナイでは、ティリオンの近臣だった。


● マイアン(27歳)……アテナイ軍の軍医。心配性で気が弱い。

 アテナイでは、ティリオンの近臣だった。


● プロクテーテス(40代後半?)……レウクトラ戦線、コリントス軍総司令官。

 恐ろしく太っていて、汗かき。食べることと、ハグが大好き。


● ペイレネ(21歳)……レウクトラ戦線、コリントス軍副司令官。

 プロクテーテスの娘。

 かつて、スパルタで人質時代を過ごしたことがあり、クレオンブロトス王と恋仲だった。


● パシオン(28歳)……コリントス軍第101いちまるいち小隊の隊長、別名『なんちゃって部隊』の隊長。

 良い声をしていて、話すのが好きで得意。

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