弁士登場 2
ペロピダスは突き刺すような目でパシオンを見、視線を移して、様子をうかがう腹を決めたらしく、口をつぐんだフレイウスを睨んだ。
「よぉし、言ってみろっ!」
コリントスのパシオンは動じることなく頷き、証言を始めた。
「ペロピダスさまの三弟ぎみを殺したのは、アテナイ士官のかたではなく、さきほどまでここで舞っていた、踊り子です。
このヴェールをつけていました」
パシオンが差し出した青い薄布のヴェールに、ペロピダスは見覚えがあった。
(井戸のところにいた、あの緑色の目の女だ!)
青いヴェールをひったくったペロピダスが、信じられぬ、という声を出す。
「そんな、そんなっ!
ダリウスが、あの緑色の目の女に……たかが女などに殺されたというのか?!」
それを聞いたパシオンの茶色の目が、キラッといたずらっぽく光り、口角が一瞬、嬉しそうに上がる。
が、青いヴェールを食い入るように見つめていたペロピダスは、全く気づかなかった。
そして、青いヴェールの異国の踊り子のような恰好をした女、というのをペロピダスが井戸端で目撃していたため、パシオンの言葉は信憑性が増すことになった。
真面目な顔に戻ったパシオンが、言う。
「我々コリントスの者が到着いたしましたのは、その踊り子が広場の真ん中で、
踊り子は、素晴らしいという以上に恐るべき舞い手で、その驚嘆すべき剣技と
舞が終わって皆が歓声を上げ、拍手を送っていると、そのアテナイ士官のかたがいきなり中央に出てきて、踊り子を追いかけ、踊り子が逃げだしました」
完全に意識を取り戻し、ギルフィの肩を借りて立ち上がったアルヴィに、パシオンはちらりと視線を投げた。
アルヴィは、自分の微妙な立場をわかってかわからずか、誰かを捜してきょろきょろしている。
おそらく、急に追いかけたくなるほど気に入ったあの美貌の踊り子を捜しているのだろう、と思ったパシオンは、ちょっと肩をすくめた。
それから証言を続けた。
「そのアテナイ士官のかたに追いかけられて、踊り子が人垣の外に出ようとした時、ペロピダスさまの三弟ぎみが……ダリウス小隊長、でしたか?
ダリウス小隊長が踊り子を捕らえ、右腕をねじって負傷させ気絶させて、肩に担いでどこかへ連れていこうとしました。
それをアテナイ士官のかたが止めようとして、決闘になりました。
決闘は、ダリウス小隊長が優勢でした。
最終的には、アテナイ士官のかたがダリウス小隊長に蹴り飛ばされて、気を失い、剣でとどめをさされようとしました。
ところがそこへ、気絶からさめた踊り子が、ダリウス小隊長に挑戦をしたのです。
ダリウス小隊長は踊り子の挑戦を、確かにお受けになりました。
そして新たな決闘をし、踊り子に敗れ、亡くなったのです。
そのアテナイ士官のかたは、ダリウス小隊長の死とは、無関係。
踊り子が、そのアテナイ士官かたの剣を借用しただけのこと。
よって
コリントスのパシオンは目撃証言を終えたことをあらわし、軽く
顔を赤くしたペロピダスが、近くにいるテバイ兵に怒鳴った。
「今の話は、確かなのかっ?!」
酒の息を吐きながら、しどろもどろで答える、テバイ兵。
「は……あの、おろりこが、ひきょーにも後ろからダリウスしゃまにきりつけてぇ……それでぇ……」
「まて、それは違うぞ! 」
それを鋭くさえぎったのは、またもやパシオンである。
彼は中央にずいずいと進み出ると、両手を広げ、この場の全員に訴えかけるように言った。
「あの踊り子の、あれだけの凄い
あの踊り子なら、その気があればいくらでも、 後ろからダリウス小隊長の命を取る事ができた。
右腕も負傷していたし、踊り子にとってはその方がずっと簡単だったろう。
しかーしっ、踊り子はそんなことはしなかった!」
パシオンはいっそう声を大きくし、胸のあたりで力強く手を
「
背中の皮膚を浅く斬っただけだ。
それはなぜか?!
あれは明らかに、ダリウス小隊長への挑戦だったからだ!
あの踊り子は、剣士として正々堂々とダリウス小隊長に挑戦をした。
ダリウス小隊長は挑戦を受けた。
そして、ふたりの誇り高き剣士が、死力を尽くして戦ったんだ!
その結果として、
だが勝負そのものは、神聖、かつ、
ここで見ていた全員が、その、凄まじくもあっぱれな真剣勝負の立会人なのだから!!
そうだろう?! 公平で心清く正しい目撃者たちよ!!」
確信に満ちたよく通る声できっぱりと言い切り、共感を求めるパシオン。
実際に
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