ひとつの出発 5 *
ソリムを産み、産後の肥立ちが悪くて死んだ母親を、当時6歳だったレジナはおぼろげにしか憶えていない。
一年前に亡くなった、
神託の都。聖なるデルポイ、と呼ばれているデルポイ・ポリス。
予言の神アポロンの神殿を有し「大地のへそ(世界の中心)」とも呼ばれたこの都市国家は、
デルポイの雄大な自然の中、巨大な神殿での神秘的なセレモニー。
神殿の地下に作られた聖域の入り口には、ギリシャ賢人の格言が刻まれ、知的な雰囲気と聖なる気配が漂っている。
ピューティアと呼ばれる
巫女は、岩の裂け目から漏れ出る蒸気を吸って、月桂樹の葉を噛みながら
トランス状態になり、時には狂ったようにに頭や体を振りながら発せられる、巫女の予言や暗示的な言葉。
1980年代の地質学研究で、どうやら
酸素欠乏症になって、夢と
ここで忘れてはならないのは、当時における
将軍たちは戦略について
デルポイで下された
デルポイはある意味、国家の運命を託されるほどの場所だった。
レジナは、母の紫の
おぼろな母の面影をのがすまいとするように。
「あたしの母ちゃんが、デルポイの巫女。
アポロン神さまの
すごい、すごいよ母ちゃん。
あたしの母ちゃんは、すごく偉い人だったんだ!
そしてあたしは、すごく偉い人の娘なんだね!」
レジナがら数歩離れてティリオンは、複雑な表情で、感動して喜ぶ少女を見つめていた。
実は、ティリオンの実家のアルクメオン家は、デルポイのアポロン神殿とはかなり深い関わりがあった。
過去、紀元前548年に神殿が火災で焼失したとき、新たに建設されたアポロン神殿の費用は、アテナイ貴族アルクメオン家の財力によるところが大きかった。
そのため、このアポロン神殿は、アルクメオン神殿とも呼ばれたくらいである。
紀元前373年に、大地震によりまた神殿が破壊されてしまったが。紀元前371年の今、神殿が徐々に再建されているのにも、アルクメオン家は力を貸していた。
アテナイ・ストラデゴス子息として高度な特殊教育を受けたティリオン・アルクメオンにとって、アポロン神殿の
けれどもその内容は、かなり違うものを持っていた。
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【※スキタイ人とは、前8世紀頃から前3世紀頃にかけ、黒海北岸からカスピ海北岸のヴォルガ川までの草原地帯で活動した、遊牧騎馬民族です。
高い騎馬技術と金属器文化を持っていました。
黒海沿岸のギリシャ植民都市と交易があり、傭兵としても活躍しました】
【※アテナイ・ストラデゴスとは、アテナイの将軍長、という意味の、役職名です】
人物紹介
● レジナ(16歳)……テバイ
ティリオンに一目惚れをして、危険を冒して
自分の母が、デルポイのアポロン神の
● ソリム(10歳)……レジナの弟。気が弱くおとなしいが、頭はいい。
● ティリオン(19歳)……
スパルタ王女アフロディア姫と恋に落ち、『レウクトラの戦い』でスパルタが敗戦したため、姫を連れて逃げている。
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