アテナイ本陣総司令官天幕 4 *
「そうだ、
状況によっては、ティリオンさまの動きを封じるためなら、少しくらい怪我をさせてもかまわん。
弓上手のおまえたちの腕を、私は信頼している」
激しく首を振る、双子。
「そんな! ティリオンさまに弓を引くなど、私にはとうていできません!」
「私もです! ティリオンさまを傷つけるなんて、そんな事はできません!」
フレイウスが
「ティリオンさまのためと思ってやるんだ、ふたりとも!
スパルタ兵に追われて傷つけられたように、他国の者に負傷させられるくらいなら、我々が急所を
フレイウスの言葉を聞いても、19歳の双子は泣きそうな顔だ。
「でもっ、そ、そんなことは、考えただけで震えが来てしまって……
これではまともに狙いがつけられません!」
「そうです! こんな状態で万が一、狙いと違う所にでも当ててしまったら……
た、大変な事になってしまいますっ!」
フレイウスはため息をついた。
手を上げてふたりを呼び、おずおずと双子が近くに寄って来ると、ふたりの後ろに回って両腕を広げ、
耳元で
「いいか、落ち着け。 びくついている場合じゃないんだ。
おまえたちの気持ちはわかるが、ここは心を鬼にして、やるべき事を冷静にやるんだ。
おまえたちの腕なら大丈夫だ。狙いを外したりしない。
きっとうまくやれる、自信を持て。
それに、軍医のマイアンも連れていって待機させておく。
あいつは、我らアンティオキス家の中で一番の弱虫だが、医師としての腕は悪くない。
仕事は几帳面で、丁寧だった。この私の体で、実証済みだ。
ただ……」
フレイウスは、むすっとした顔になった。
「あいつめ、私の手術の最中、何度か気を失いかけやがった。
手術に立ち会ってくださったランベル将軍に、しっかりしろ! と揺すられたり、『
ったく、手術を受けているのはこっちだというのに、医者のほうが気絶してどうする、チッ!」
いまいましげに舌打ちする、フレイウス。
双子がクスッと笑い、緊張が少しほぐれる。
フレイウスもフッ、と軽く笑ってから、真面目な顔に戻って、続けた。
「怪我をさせてしまったら、完治するまでマイアンにきっちり治療させるから、心配するな。
アテナイでのティリオンさまの事件は、あいつにも重大な落ち度があったわけだし、本人も責任を十分に自覚している。
だからあの弱虫が覚悟を決めて、志願して、軍医として従軍してきたんだ。
この際、役にたってもらうとも。
私も、無傷で捕らえようなどという甘い考えは、捨てる!
弓でも剣でも、使う覚悟で行く。
そして、もし見つけたら、今度こそは必ず捕らえる!
絶対にアテナイに連れ戻す!
スパルタでのように、死んだ、などと騙されて、あんな気持ちを味あわされるのは二度とごめんだ。
おまえたちもそうだろう?」
――――――――――――――――*
人物紹介
● フレイウス(26歳)……レウクトラ戦線、アテナイ軍総司令官。
『アテナイの氷の剣士』と異名をとる剣の達人。ティリオンの『第一の近臣』
ティリオンを保護するために追っているが、ティリオンのほうは、フレイウスが処刑をするために追ってきている、と誤解している。
● ギルフィとアルヴィ(19歳)……双子でフレイウスの部下。アテナイ軍士官。
アテナイでは、ティリオンの近臣だった。
● マイアン(27歳)……アテナイ軍の軍医。心配性で気が弱い。
アテナイでは、ティリオンの近臣だった。
● ティリオン(19歳)……かつて、自分の父親の
命をとりとめた父親とアテナイ側の意志で、事件はもみ消されているが、本人は知らない。
スパルタ王女アフロディア姫と恋に落ち、『レウクトラの戦い』でスパルタが敗戦したため、姫を連れて逃げている。
【※アテナイ・ストラデゴスとは、アテナイの将軍長、という意味の、役職名です】
● ランベル将軍(43歳)……アテナイの10人の
アテナイの氷の剣士フレイウスがかつて師として仰いだ、ただひとりの男。
● メノス(30代?)……高級服飾店『
【※マイアンとランベル将軍とメノスは『ギリシャ物語 外伝~旅のはじまり~』で登場したキャラクターです】
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