踊り子 6
剣を失ってみると、すばしこいアルヴィにとって、振りが大きく次の攻撃までやや
だがこのままでは、自分は逃げられても、ティリオンを救うことが出来ない。
自分が目を離して、その間に、ティリオンを美女だと勘違いしているダリウスに連れていかれてしまったら、何をされるかどうなる事かわからない。
アルヴィは攻撃をかわしながら、飛ばされた剣を拾う隙をうかがった。
ところが剣は、運悪く、倒れているティリオンのすぐそばに落ちてしまっている。
下手に取りに近づけは、範囲の広いダリウスの攻撃に、ティリオンも巻き添えにしてしまう恐れがあった。
(ああ、フレイウスさまや、ギルが来てくれれば!)
何とかふたりに知らせる方法はないものかと、必死で考え始める、アルヴィ。
(アテナイ兵の誰かが、この事態を見て主賓天幕に知らせてくれないものか……
ああっ、そうだった! あいつらに、大いに酒を飲んで騒げ、と伝令した直後から、大喜びで酒をがぶ飲みしてたから、今頃はすっかり酔っぱらってしまってる!)
それでも、たとえ酔っ払い兵でも役に立たないか、と味方のアテナイ兵の姿を求めて、円陣の兵たちにちらちらと視線を飛ばした。
つい注意が散漫になり、その足が、先に踊り子に向かって投げつけられて落ちていた果物を踏んだ。
滑って体勢が崩れる。
攻撃の剣はぎりぎりのところで避けたものの、次に、予想外に放たれてきた蹴りをかわすことができなかった。
「ぐうっ!!」
ダリウスの巨足を腹に受け、アルヴィは遠く吹き飛ばされて、
アルヴィが倒され、勝負あった、とみて見物していた兵士たちから、
ワアァァァ――――ッ!! という大きな歓声が上がる。
気絶したアルヴィにのしのしと歩み寄り、ダリウスは凶暴に笑った。
「俺に挑戦するにゃ、百年早すぎたな、
勝利と酒に酔っているダリウスは、アルヴィを倒しただけでは足りずに、血に飢えた、とどめの刃を振り上げた。
が、唐突に、背中に熱く鋭い痛みを感じ、びっくりして振り向く。
「なにっ?!」
そこには、右腕をだらりと垂らし、左手でアルヴィの剣を構えた踊り子、ティリオンの姿があった。
ダリウスは、剣を握ったままの左腕を背中に回した。
戻した手に血がべっとりと付いているのを、信じられぬ目で眺める。
おもむろに事態を理解するにつれ、激怒で顔が赤くふくれ上がった。
「この、クソアマ――――っ!!」
背中を斬られたダリウスは、怒り狂って猛牛のごとく、踊り子に向かって突進した。
ティリオンの瞳に、殺気が走った。
踊り子の細い胴を
大振りし空振りしたダリウスの、目の前の自分の腕に、とんっ、と重みがかかる。
丸太のような腕に、膝を曲げて乗っている踊り子と目が合った。
ふっと幻のように相手を見失った時、ダリウスのにぶい頭にもやっと、踊り子の恐るべき
空気を切り裂くかすかな音。
戦慄に全身の毛を逆立て、上を向いたダリウスの頭上に影が落ちる。
あおのいた喉元に、一瞬にして銀条が吸い込まれた。
凍りつく数瞬。
そののち……
突き刺した剣はそのまま、二メートルを越える巨漢ダリウスの両肩に乗ったティリオンの足が、岩盤のようなその肩を蹴って後ろへ跳ぶ。
すたっ、と地上に降り立つが、右肩負傷と疲労のゆえに、かくっと片膝をつく。
その間もこの巨漢は、喉元に深々と剣を突きたてられたまま、まだ大きく足を開いて立っていた。
しばしのち、右肩を押さえてふらふらと立ち上がったティリオンの口から、小さな声。
「クレオンブロトスさま……」
途端、剣を突き立てられたダリウスの喉から、ザアァァァッ!! と凄まじく鮮血が噴き出した。
そして、
ぐらり……ズシ――――――ン!!
血の
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