酒宴の始まり 4 *
「皆さん、どうか今夜はゆっくりくつろいで、酒と料理を存分に楽しんでいってください!」
フレイウス、ギルフィ、マイアンの、アテナイの3人が椅子から立ち上がる。
フレイウスは胸に片手をあてて、軽く一礼した。
「
そして顔をあげ、まっすぐにペロピダスを見る。
対峙したテバイとアテナイの総司令官……若い
全員がそれぞれの席に座り、ペロピダスがぱんぱんと威勢よく手を叩くと、酒と料理を捧げ持った女たちがぞろぞろと入ってきた。
テーブルに酒の壺や杯、大皿に盛った料理が続々と並べられ、一気に宴会らしい雰囲気になる。
手早く、給仕を始める女たち。
ペロピダスがフレイウスたちの方を見て、わざとらしく眉を上げた。
「そちらの白い服のかたは初めてお会いしますな。
ご紹介いただけますか?」
フレイウスが答える。
「はい、この者は我が軍の軍医で、マイアンと申します」
マイアンは、少しびくついた様子でひょこりと頭を下げた。
ペロピダスが唇の端を上げて、嫌味な笑いを浮かべる。
「ほう、軍医どのですか。
フレイウス司令のお連れならば、どのようなかたでも大歓迎だが、まさか
フレイウスは感情のこもらない笑い声をあげた。
「はははは、とんでもない。
同盟軍ペロピダス司令のご誠意を疑う気など、露ほどもありませんよ。
ただ私が、少々風邪ぎみなので、心配性の軍医が取り越し苦労でついて来てしまったのです」
こほん、と軽く咳をしてみせるフレイウス。
義兄でもある軍医マイアンは、ティリオンに怪我をさせてしまったときのために、と連れてきたものだ。
ところがネリウスのせいで先に酒宴に来る羽目になってしまい、弱いマイアンを、酔っぱらうであろう荒っぽい一般テバイ兵どものあいだに放り出すなど、もちろんできない。
フレイウス自身の
探るような顔になる、ペロピダス。
「お風邪ですか……でも、せっかくの酒を付き合っていただけない、というほどではないのでしょうね?」
「ええもちろん、大丈夫です。
軍医がついていてくれるので、心置きなく飲めます」
フレイウスの返事に、ペロピダスは明らかにほっとした様子だった。
「それは良かった!
おいしい酒をたくさん用意しましたので、ぜひご賞味いただきたいですからな。
ところでフレイウス司令、いつものあなたの
「アルヴィは、兵たちに注意を与えに行っています。
あまり飲みすぎるな、とね」
「ハハハハハ、そうでしたか。
しかしまあ、せっかくの酒宴なんですから、たまには兵たちにも羽根をのばさせてやってはいかがですかな」
「私の注意など、どうせ気休めですよ。
少しでも酒が入れば、兵には上官の命令より酒の命令の方が大事になりますからね」
「ハハハハハ、確かに、確かに!
酒のためなら
「どこでも苦労は同じです」
「ハハハハハ、全くですな」
お互い、うわべだけの愛想と嘘と
「ところで噂では、フレイウスどのは大した
今夜はその飲みっぷりをとくと拝見させていただきたいものですな」
薄く笑みを浮かべたフレイウスも、自らの酒杯を掲げる。
「噂は、噂に過ぎませんよ」
―――――――――――――――――――*
人物紹介
● ペロピダス(32歳)……レウクトラ戦線、テバイ軍総司令官。
とても女好き。特に威勢のいい女が好き。
スパルタのアフロディア姫に熱を上げている。
● フレイウス(26歳)……レウクトラ戦線、アテナイ軍総司令官。
『アテナイの氷の剣士』と異名をとる剣の達人。ティリオンの『第一の近臣』
ティリオンを保護するために追っているが、ティリオンのほうは、フレイウスが処刑をするために追ってきている、と誤解している。
● ギルフィとアルヴィ(19歳)……双子でフレイウスの部下。アテナイ軍士官。
アテナイでは、ティリオンの近臣だった。
● マイアン(27歳)……アテナイ軍の軍医。心配性で気が弱い。
アテナイでは、ティリオンの近臣だった。
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