第十二章 酒宴の始まり
酒宴の始まり 1 *
『レウクトラの戦い』が終わって5日目の、今夜の酒宴をひかえたテバイ本陣。
現在このテバイ本陣には、スパルタ王族捜索とスパルタ
地元だけあって、しっかりとした木柵に囲まれた広い陣地。
その中で、一番立派なつくりのテバイ軍総司令官ペロピダスの天幕。
総司令官のペロピダスは、アテナイ軍総司令官フレイウスの到着をきいて、椅子に座って高々と組んでいた足をほどき、目を丸くした。
「ええっ! フレイウスがもう来たって? やけに早く来たな」
外から司令官天幕に入ってきて、自ら到着を告げたエパミノンダス参謀長は、肩をすくめた。
「なんでも、おまえの次弟がわざわざ迎えにいったらしいぞ」
「ええっ、ネリウスが迎えに行った?
あの野郎っ、また勝手なマネをしやがって、どういうつもりだ?!」
ペロピダスは目の前のテーブルを、どん! と叩いた。
飲み物を入れた水差しと杯が、カ千ャン、と音をたてる。
「ダリウスといい、ネリウスといい、あいつら最近、勝手な行動が多すぎる。
兄の俺をなめてやがるのなら、そのうち、きつい罰を与えてやるからなっ」
そう言って単純に怒るペロピダス。
対照的に、エパミノンダスのほうは考え深そうな顔になっていた。
「迎えに行っただけなら、罰するほどのことはないだろう。
それにしても、あの氷の剣士のフレイウスが、ネリウスなんぞに迎えに来られて、素直に早々とやってきた、というのが妙な話だ。
どうも
憎々しげにペロピダスが主張する。
「だーかーらっ、俺がずっと言ってるじゃないか!
フレイウスの野郎が、
だからあの野郎の行動は、妙で変で怪しげで、
そして机の上の杯を取り、やけ気味にぐいとあおった。
腕組みをして、大きい頭をかしげるエパミノンダス。
「しかしな、フレイウスが
コリントスも同じだ。せっせと捜索隊を出すばかりで、引き上げようとしない。
それで、アテナイとコリントスが、
けれど、両国とも
煙のように消えるはずはない。
絶対おかしい。
これには必ず、裏があるはずだ」
ペロピダスは、ふん、と鼻を鳴らした。
「まあ見てろ。今夜の酒宴でしこたま飲ませて、全部喋らせてやる。
俺のかわいいアフロディア姫は、絶対に取り戻すぞ!」
エパミノンダスは鼻に
「まさかおまえ、もう飲んでるんじゃないだろうな。
酔わせる方のおまえが先に酔ってしまったのでは、話にならんぞ」
「これはただの果汁だ。
俺だってそれくらいの事は分かっている」
と、口をとがらせて、ペロピダス。
エパミノンダスが不安そうに言う。
「頼むぞ、ペロピダス。
俺は
一杯飲んだだけで酔って、逆にこちらの極秘情報をペラペラ喋ってしまうかもしれんからな。それはまずい。
けれども、酒宴を開いて招いた方が、自分は飲みません、では済まされない。
私は留守ということにして、裏で密かに話を聞いているしかない。
つまり、何かあっても口出しできない、というわけだ。
今夜は
俺の教えた通り、しっかりやってくれよ」
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【※下戸とは、お酒が全く飲めない人や、飲めてもごく僅かでお酒に弱い人のことです】
人物紹介
● ペロピダス(32歳)……レウクトラ戦線、テバイ軍総司令官。
とても女好き。特に威勢のいい女が好き。
スパルタのアフロディア姫に熱を上げている。
● エパミノンダス(30代?)……テバイ軍の参謀長。野心が強く、頭がいい。
『斜線陣』『神聖隊』をつくり、スパルタ軍に勝利した。
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