災難の夏(フレイウスの回想) 6
ティリオン自身も、皆が自分を守ろうとしてくれているのだ、ということは理解していた。
もとより乏しかった自由やプライバシーが、外出禁止と厳重な警護によって完全になくなっても、言葉にして文句は言わなかったし、我慢強い性格もあって、じっと耐えようとしていた。
それでも、終わりの見えない息苦しい毎日に、15歳の少年がだんだんしおれていくのはどうにもならなかった。
とうとうある日、ティリオンは朝食を食べたあとすぐ吐いて、そのままぐったりと寝込んでしまった。
フレイウスは、ティリオンが眠るのを見届けてから、アルクメオン家の館の中のオレステス
「
執務室に入って
たったいま、ネリウスからティリオンあてに届いた小包を開けて、男ふたりが
「そうだな。
いくら
何か策はあるか?」
フレイウスが答える。
「はい、ひとつ考えついたことがあります。
一ヶ月ほど前のことですが、コリントスからアテナイ医学アカデミーに留学してきていた学生が、行方不明になりました。
ティリオンさまの二つ年下の知り合いだそうで、ティリオンさまから、心配だから捜してほしい、と頼まれました。
そこで独自に調査したところ、医学アカデミー内の出入りの業者を装って、ティリオンさまに接近しようとしたネリウスを私が放り出したあと、偶然通りかかったその留学生にネリウスが声をかけていた、という目撃情報がありました。
ネリウスはテバイ国の
すると、該当のコリントスの留学生は、ネリウスの所に確かにいたのです。
けれどもあのネリウスに、コリントス留学生のほうから積極的に抱きついて、自ら口づけを求めていた、との話だったのです。
ネリウスに『自由恋愛だ。愛し合っているのだから、ほっておいてくれ』と言われ、引き下がらざるをえなかった、とエミリオス将軍は言っておられました」
オレステスが首肯する。
「うむ、その件に関する報告書は、私もエミリオス将軍から見せてもらったし、覚えている」
フレイウスは続きを語った。
「コリントスの留学生はそのまま医学アカデミーに来なくなり、しかし自由恋愛であるなら、とがめるわけにもいかない、ということで、その一件は立ち消えになりつつありました。
ところが、そのコリントス留学生の父親が、数日前にコリントスからやってきて、
『息子から全く連絡がない。
自分でもあちこち捜してみたが、見つからない。
前に息子がいたという、ネリウスという男の屋敷をもう一度調べてほしい』
と、現在、要請をしてきている、とのことです。
エミリオス将軍は出張中なので、その要請を特例としてこちらで受理し、私にネリウスの屋敷の捜査令状を出していただけないでしょうか。
そうすれば、今から私がネリウスの屋敷に乗り込んで、捜査をしてみます。
コリントス留学生がいれば、親が心配して来ているから、と説得できるし、私が不意打ちすることで、ネリウスをアテナイから追い出せるような犯罪の証拠をつかめるかも知れません」
「よし、わかった。
すぐ手配をして、令状を出す。
エミリオス将軍には、あとで私から事情を説明しておく」
オレステスはフレイウスの策をすぐさま採用し、それから懸念の表情になって尋ねた。
「それで、ティリオンさまのご容態は、どうだ?」
憂慮の声で、フレイウス。
「かなり、まいっておられます。
ここ数日、食欲がない、とおっしゃって、ほとんど食事を召し上がっておられない上の嘔吐です。
以前の『年に一度の食べられなくなる病気』が、ぶり返してしまわれたのではないか、と心配しています。
せっかく、ここ4~5年ほどは症状がおさまっておられたというのに」
ふたりは同時に、重いため息をついた。
ちなみに、ティリオンが10歳ころまで発症していた『年に一度の食べられなくなる病気』とは、現代での、いわゆる自家中毒であったろうと考えられる。
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