災難の夏(フレイウスの回想) 4
フレイウスは胸に飛び込んできた最愛の
しがみつくティリオンは、真っ青な顔でぶるぶると全身を震わせていて、15歳の近頃にないうろたえ方とおびえ方だった。
一見、負傷して出血などはしているように見えなかったが、目は涙目で、唇の色は完全に失せ、ただごとではなかった。
フレイウスは
「どこかお怪我をされましたか? ティリオンさま」
ティリオンはフレイウスを見上げ、血の気のない唇を開いて何か訴えようとした。
ところが、急に恥ずかしげな表情になると、口を閉じ、フレイウスの胸に顔を埋めて無言で首を横に振った。
ティリオンのかわりに、双子が口々に言った。
「海からいきなり、あの怪物が現れて!」
「ティリオンさまに、襲いかかったんです!」
海に目をやると、それほど遠くない沖に小舟が一艘浮かんでいて、数人の人影があわてた様子で
ザバアァァァッ!! と激しい水音がして、緑色の怪物が復活して立ち上がった。
はっとして、ティリオンを背中にまわして庇い、身構えるフレイウス。
双子も怖い顔になって、両手を
そんな皆の見る前で、緑色のビラビラしたものに覆われた怪物の頭が、ずるり、と下にずれた。
ばちゃっ! と水しぶきを飛ばして、ビラビラは落ちた。
落ちた緑のビラビラは、波の間にぶわっとひろがり、単なる長い
そして、落ちた
昨日の、あのテバイ
愕然とするフレイウス。
ぬめぬめした紅い口からは、ねばり気のある
その上ネリウスは、真っ裸のようだった。
ただ体には、まだ何本もの長い
おぞましさ全開のその顔その姿に、ヒッ! と小さく悲鳴を上げ、ティリオンと双子があとじさり、
そんなことにはお構いなく、ネリウスは、自分勝手な考えを熱っぽくまくし立てはじめた。
「すごい、すごいですぅ。
かっこいい『アテナイの氷の剣士』さまにもう一度、サプライズでお会いしようとご訪問したら、こんなすごい美形が他に三人もいるなんて!
しかもひとりは、この世のものとも思えぬ美しさ。
まさに神の手による芸術品。
その子……その銀髪の天使を私に渡してください!
その子は、天が私のために遣わされた子なんです。すぐわかりました。
私のために創られた、銀の天使。
愛の詩人、情熱の
その子は天が定めた私のものだけど、買えというなら、
「なっ!!!!」
あまりに
ティリオンの身元を知らないからの発言だとしても、信じられない非常識さだった。
ネリウスは、
「氷の剣士さま……フレイウスさまとおっしゃるそうですね。
その子、あなたの恋人ってわけじゃないでしょ。
あきらかに手付かずですもんね。
だったらかまわないでしょ。天の
その子が
間違いありません。
運命の恋人である私が、その子に
その子を愛の世界へ導いて、色んなこと、教えてあげます」
それからネリウスは首をのばし、フレイウスと双子の後ろで、裸の体を隠すように両手を回し、縮こまって怯えた目を向けているティリオンをのぞき見た。
にまぁーっ、と好色な笑みをうかべると、左の手の平を、べろり、と意味深長に
「ちょーっと握っただけで、あんなにびっくりして新鮮な反応をしてくれちゃって、ホント、かわいくってたまんなーい。
引っ張れちゃったのは、双子ちゃんが無理にはがそうとしたからですよー。私のせいじゃないでーす。
こっちいらっしゃい。引っ張れて痛かった大事なとこ、撫で撫でしてあげるからぁ」
瞬間、ティリオンが何をされたかを知ったフレイウスは、目がくらむほど激怒した。
凄まじい殺意の放射を受けて、比類なき
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