災難の夏(フレイウスの回想) 3 *

 ネリウスに好き勝手なことを想像され言われて、さすがにフレイウスの目つきが物騒になってきたので、あたふたする某貴族。


「こらっ、こらこらっ。彼を怒らせちゃいけません!


  命が惜しくないんですか? ホントに困った人だ。


 さあっ、みんな、ネリウスさまをお連れしなさい!」


 某貴族の命令で、某貴族の部下たちがネリウスを取り囲む。


 それでもネリウスはまだゴネて騒いでいたが、フレイウスは黙ってきびすを返すと、歩き出した。


 軍学校できちんと教育を受けた彼には、外国からの賓客ひんきゃくにろくな挨拶もせず立ち去るのは礼儀に反することだ、とわかっていた。


 それでもなお、こんな不愉快極まりない男とはかかわりたくない、一刻も早く離れたい、という気持ちがまさったのだ。


 さっさと立ち去ろうとするフレイウスの後ろを、この一幕ひとまくに笑いをこらえているフレイウスの部下たちが続く。


 ところが、である。


 どう言いくるめたのか交渉したのか、さらにその後ろから、性懲しょうこりもなくタンポポ頭のネリウスが、トコトコついてきたのだ。


 ネリウスの後ろには、この厄介な男の世話を任された某貴族とその部下たちがついてくる。


 ぞろぞろぞろぞろ……


 フレイウスが止まれば、全員が止まる。


 眉をひそめて振り返れば、にまぁ、と笑ってネリウスが手を振り、某貴族の一団も愛想笑いをする。


 仕事を再開し、部下に指示を出すのをじろじろと見て、事件を解決すればその都度、ネリウスが嬉しそうにパチパチパチパチと拍手した。


 某貴族とその部下まで、パチパチパチパチとそれにならう。


 遅い昼食をとりに店に入れば、続いて入ってきて、店主に袖の下を渡し、近くのテーブルをあけさせて、フレイウスの食事をみんなで見学。


 フレイウスの注文品や食べ方について、あれこれ意見交換しながら自分たちも食事する。


 苛立いらだって全身に殺気を漂わせはじめているフレイウスと、同じテーブルにつこうとはしなかったが…… 某貴族が懸命に止めたのだろう。


 食事を済ませて外に出ると、そこには、日傘ひがさつきの輿こしが数台用意されていた。


 これに乗って、まだあとをついてまわる気でいるらしいことに、フレイウスはどっと脱力した。


 それでも耐えて、輿こしの上からの視線と批評の攻撃を受けながら、黙々と仕事をこなした。


 日が暮れて、『オリオン』が開店する時間になって、やっと説得に成功したらしい某貴族がネリウスを連れて去ったときは、部下が思わず「大丈夫ですか?」と声をかけるほど、仕事のせいではなく苛立ちと我慢のしすぎで、フレイウスは顔色悪く疲れ切っていたのである。


 さて、話は、祭りの終わった翌日の、ティリオンや双子が楽しく遊ぶ、アルクメオン家の私有地の浜プライベート・ビーチに戻る。


 暑い夏の浜は、木陰こかげといえど昼寝をするには不向きだったが、疲れがたまっていたフレイウスは深い睡魔にとらわれようとしていた。


 だから異変に気づいたのは、不覚ふかくにも、ティリオンと双子の悲鳴が上がってからだった。


 ティリオンの尋常じんじょうでない悲鳴が続けざまに耳を打ち、一気に目覚めたフレイウスは、しまった! と熱くなりながら、かたわらの剣をつかんで飛び起きた。


 見ると、緑色の長いビラビラしたものに覆われた怪物が、波打ち際でティリオンを押し倒し、のしかかって抱きついている。


 双子が怒りの叫びを上げながら、ティリオンから怪物をひきはがそうと、勇敢に奮闘していた。


 フレイウスは、現場までかなり距離があるのを歯噛はがみしつつ、砂浜を全速力で走った。


 彼が到着する以前に、双子がふたりがかりで怪物のひきはがしに成功した。


 ひきはがされて、ばしゃん! と後ろ向きに波の中に倒れる、怪物。


 双子がティリオンを助け起こし、三人がこちらへ向かって逃げてくる。


 双子に両側から抱えられて逃げるティリオンは、相当ショックを受けている様子だった。


 足がもつれ、ともすれば転びそうになっている。


 走ってくるフレイウスに気づき、出会うと両手を差し伸べ、


「フレイウス!!」


 と、泣き出しそうな声で叫んで、すぐ胸に飛び込んできた。



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 読者さまは、フレイウスの気分を味わえます。(マジか……


 どうぞよろしくお願いいたします。 m(__)m

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