第十一章 災難の夏(フレイウスの回想)
災難の夏(フレイウスの回想) 1
まぶしい太陽。白い砂浜。
エメラルドグリーンとサファイアブルーの海。
エーゲ海の夏、アテナイの夏。
『レウクトラの戦い』からさかのぼること4年と少し前。
ここは、アルクメオン家の
21歳のフレイウスは、浜に敷いた麻布の上で、木にもたれて木陰で座っている。
彼は、ティリオンと双子が波と
当時は、水着などというものはもちろんない。
なので、15歳の育ちざかり元気いっぱいの、ティリオン、ギルフィ、アルヴィ、の男子三人組は、小さな腰布を巻いただけのほぼ素っ裸である。
若さと健康にあふれた体を
特にティリオンは、高い柵に囲まれた
フレイウスは、ゆったりとした夏の薄物の長衣をまとい、楽しく遊ぶ三人の声を心地よく聞きつつ、珍しく、うとうとしていた。
疲れていたのである。
きのうまで三日間、アテナイの夏祭りがあった。
軍組織は警察組織も兼ねているので、祭りの開催で市内警備の人員の足りない分は、例年通り、フレイウスも警備に加勢することになった。
酔っ払いが喧嘩したり、祭りを妨害するのを止めたり、人ごみで
祭りの露天の場所を争う商人の仲裁をし、芸を失敗して火だるまになった大道芸人に水をかけて、診療所に搬送する。
人波ではぐれた迷子を親の元に送り届け、祭りに出かけた
浮かれて海に飛び込んだ若者集団をすくい上げ、無理やり路地に連れ込まれそうになった娘を助ける。
ほとんど休憩もなしで激務をこなしていた。
なかでも、とりわけ彼を疲れさせたのは、祭りの最終日だった。
テバイから来た、という
祭り最終日の、昼前。
路上で数人の部下に警備の指示を出していたフレイウスは、背後から忍び寄ってくる人の気配に気づき、一瞬のうちに振り向いて剣に手をおいていた。
そこには、金のかかった派手な身なりの、ひょろりとした、黄色いタンポポ色をしたもしゃもしゃと細かい巻き毛の男が立っていた。
フレイウスのあまりに素早い動きに、こっそり忍び寄っていたその男は、茶色の目を丸くして立ち止まった。
けれどすぐに、なま白く鼻筋の長いのっぺりした顔の、横に大きな紅い唇で、にへらぁ、と気色の悪い笑みを浮かべた。
「エヘッ、エヘエへエヘッ。
素敵ぃっ! かっこいいですぅー。
近くでみるとますますいい男ですねぇ。
お祭りの、警備のかたですかぁ?」
「なんだおまえは」
と、フレイウス。
喋り方まで気色の悪いタンポポ頭の男は、自分の体を抱くように腕を回し、くねくねっ、といっそう気色悪く身をくねらせた。
「わたぁし、重要人物で追われているのですぅ。
なーのーでぇ、あなたに守ってほしいですぅ。あなたがいい。
あなたの警護を
「なんだと?」
「あああ、その逞しい腕で私を抱いて、守ってくださーい!」
そう言うと、男はいきなり両手を広げて抱きついてこようとした。
「!!」
フレイウスは驚いたが、当然、抱きつかれるようなヘマはしなかった。
ひらりと体をかわし、男の片腕を取って背中にねじり上げる。
「あたっ、あいたたたたっ!」
「酔っているわけでもないようだが……
変なマネをすると、
そこへどやどやと、男のあとを追ってきたらしい一団がやって来た。
フレイウスも顔を知っている、アテナイ外交担当の某貴族とその部下たちだった。
ころっと小太りで小柄で、小指を立てる癖のある、外交担当の某貴族が言う。
「困りますなぁ、ネリウスさま。勝手に動きまわられては」
某貴族から話を聞いてみると、この変な男、ネリウスは、テバイから来た
フレイウスは、ねじり上げていた テバイ
政治的にアテナイとテバイの友好関係が深まっているなか、テバイの有力豪族の子息であるネリウスは、彼の
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