第七章 獅子の行方
獅子の行方 1
なだめるティリオンに
その気持ちは
「だめです! 外に出ればすぐに捕まってしまいます。
外には敵軍の兵が、まだかなりいるのですよ」
肩をいからせて、アフロディアが言い返す。
「いいや! 敵兵がいようがいまいが、私は兄上さまを捜しに行く!
ティリオン、おまえも見ただろう? 兄上さまはあんなひどいお怪我をなさっていたのだぞ。
今もどこかに隠れて、痛みに苦しんでおられるかもしれない。
一刻も早く兄上さまをお捜して、お
おまえもそう思うだろう?
おまえは医者でもあるのだから!」
「それは……」
つらい表情になって視線を逸らせたティリオンの、身長の高い脇の下をするり、とくぐり抜け、アフロディアはすばしこく台所から裏口へ走ろうとした。
「あっ、だめですっ」
ティリオンは大あわてで後を追い、裏口の手前でかろうじて彼女の腕をとらえると、ぐいと引き戻して、自分の体で裏口をふさぐように
少女の二の腕を両側からしっかりつかんで、
「お願いですから、無茶なことはやめてください。
おわかりでしょう? 今、お捜しするのは無理です、危険すぎます。
もうしばらく時間をくだされば、何か良い手段を考えます。
そしてこの私が、機会をうかがってお捜ししますから」
けれども激情にかられているアフロディアは、ティリオンの手から
「機会をうかがう、など、そんな
すぐだっ! 今すぐ兄上さまを捜して
そしてあのフォイビダスの裏切り者め! 必ず命で
アゲシラオス王とても決して許しはせぬぞ、復讐してやる!!」
ふたりの争う声と音を耳にして、レジナとソリムが居間のほうからやってきた。
「わかりました、わかりました。
お望みならそのこともいずれ決着をつけますから、どうか落ち着いてください。
こんなところで大きな声を出さないで」
しかし、興奮したまま首を振ってアフロディアは
「いやだ、いやだーっ! 私は今すぐ兄上さまを
はなせっ、ティリオン!」
「だめです、どうか聞き分けてください」
「ええぃ、はなせっ! はなせというのが聞こえぬかっ」
抱きしめられたまま、アフロディアは怒ってのけぞって暴れ、足をばたばたさせてティリオンを蹴ったり、
それを見たレジナの顔が、たちまち険しくなる。
ソリムは怯えて、姉の腰にしがみついた。
レジナとソリムの
「私は行く、絶対に行くぞ! はなせっ、ティリオン!」
「だめですっ、行かせません!」
「こいつ、こいつっ。はなせっ! はなさんかっ!」
「だめです! どうか我慢してください、ひ…」
つい姫、と言ってしまいそうになるティリオンが、ぐっと言葉をのむ。
だがアフロディアの方は、兄王の身を案ずるあまり完全に逆上していた。
王女をやめる、とまで言った事すらすっかり忘れて、怒鳴り散らす。
「えええい、はなせ、はなせっ、この
きさまのような
ぱしっ!
短く鋭い音がして、アフロディアの声が途切れた。
レジナとソリムが、ぎょっと目を剥く。
アフロディアから体をはなし、彼女の頬を叩いた自分の右手を、ティリオンはしばし驚愕して見つめていた。
つかの間、沈黙が流れる。
やがてアフロディアの琥珀の目から、ぽろぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。
床にぺたんと座り込むと、体をまるめてうつ伏せになり、両手の甲に顔を押し当て、うわぁぁぁん! と小さな子供のように泣きはじめた。
ティリオンの震える声。
「ごめんなさい、ごめんなさい……アデア、ごめんなさい」
もちろん、
アフロディア自身の口から王女である
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