川辺にて 2
「わかりました、今夜はテバイ本陣で酒宴でしたね、早めに帰ります」
了解してから、ギルフィは不安そうな顔になって言った。
「それにしても、フレイウスさま……
我々は、ここで捜索していていいのでしょうか?
ティリオンさまは、本当にレウクトラにいらっしゃるのでしょうか?
スパルタに囚われていたティリオンさまが、戦場で行われるはずだった処刑から、
あるいは、もう既に……」
それ以上は言葉にできずに、うつむくギルフィ。
フレイウスは、重い吐息をついた。
「あれだけ調べても、戦場でティリオンさまが処刑される様子も、処刑された
スパルタ本国から、ティリオンさまについて何か言ってきてないか、アテナイにも問い合わせを出した。
返事は「今のところ、スパルタからは何も言ってきていない」だ。
こうなってはあのかたの生死も
わからないのだが、私は……」
フレイウスの左手がそっと、右肩の銀の飾り紐に触れる。
彼の右肩には、マントのかわりの夏用の薄い
かつてスパルタでクラディウスから手に入れた、ティリオンの銀髪で作られた飾り紐だ。
美しい飾り紐に手を触れたまま、フレイウスは顔をあおのけて、天を高く見つめた。
「私は、ティリオンさまが生きてらして、このレウクトラの地にいらっしゃるような気がしてならない。
どうしてそんな気になるのかは、説明できないし、単なる私の思い込みかもしれないが」
「フレイウスさま……」
フレイウスの視線を追って、ギルフィも青い空を見上げた。
ギルフィにもなぜか、
フレイウスは下を向き、汗ばんでいる愛馬の黒い首を柔らかく叩いた。
「さ、イオ、アテナイ陣に戻るぞ」
黒い馬は鼻先を上げてふんふんとうごめかせ、風のにおいをしきりにかいでいた。
勝手に河原の方へ馬体の向きを変え、パカパカと何度か足踏みをする。
それから首を後ろに曲げ、賢そうな黒い目で、主人フレイウスの顔を訴えるように見た。
「どうした、水が飲みたいのか?」
声をかけたあと、かすかに人の気配を感知したフレイウスは、警戒する表情になって河原を見回した。
そして、自分たちが進む予定だった道の先のほうの河原で、川で洗濯をしている赤毛の少女を見つけた。
フレイウスの
「引き上げるのは、少し延期する。
おまえはイオをつれて、あの木の影で隠れて待て」
ギルフィにそう言いおいて、フレイウスはひらりと馬から飛び降りた。
◆◆◆
晴天で絶好の
最近のレジナの毎日は、張り合いがあって充実していた。
ティリオンたちがレジナの家に逃げ込んで来てから、3日がたつ。
ティリオンと一緒に生活し、身の回りの世話を焼くことは、レジナにとってこの上ない喜びとなっていた。
ティリオンの方も、レジナが
それがまた、レジナには嬉しくてならなかった。
好きな人が頼りにしてくれて、ありがとう、と微笑んでくれるのは、
弟のソリムも、手斧で怪我をした腕を何度かティリオンに治療してもらい、そのつど話をするうちに、最初の恐れと警戒はなくなってすっかりなついていた。
知識豊富なティリオンに、何やらいろいろ教わってもいるようだった。
そして、ティリオンの妹だという見事な金色の髪の少女も、徐々に回復してきていると思われた。
回復してきていると思われた、というのは、レジナがまだ、少女と口もきいたことがないからである。
ティリオンは少女の意識が戻ると、かえって異常なくらい警戒して、レジナもソリムも決して少女に近づかせないのだった。
その理由は、アフロディア姫がいわゆる「そなた」とか「~でよいぞ」などの王族言葉を使ったり、うっかりうかつなことを喋ってしまって、正体がバレるのを恐れたからだ。
けれど、もちろんレジナには、そんなことは知る
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます