第四章 川辺にて
川辺にて 1 *
その道を馬に乗ったふたりの男がゆく。
ひとりは、黒馬にまたがっている男。
彫りの深い
まっすぐに流れる
レウクトラ戦線、若きアテナイ軍総司令官、26歳のフレイウスである。
長身の筋肉質の体に、芸術の都アテナイの上級将校の優美な革鎧を着けていた。
もうひとりは、ゆるやかなウェーブのかかった短い栗色の髪と、濃い茶色の瞳の美青年。
19歳で、アテナイ軍特務小隊長の
双子の兄のほうで、ギルフィという。
ふたりは川沿いの道を、ティリオンの手がかりを捜して、注意深く馬を歩ませていた。
将来、彼らの属する氏族組織を
ここ、レウクトラで
この重大、かつ、奇妙な事態に、テバイ、アテナイ、コリントスの三大ポリス同盟軍は、お互いを疑いつつ、三すくみの状態になってしまっていた。
そのため、捜索兵だけとはいうものの、三軍ともずるずるとレウクトラに居残っていたのである。
と、響いてきた複数の
馬首を、音の聞こえてきた大きな丘のほうに向ける。
斜面に広がるぶどう畑のむこう、遠くに5~6騎のテバイ騎兵の姿。
土煙をあげて走ってゆくテバイ騎兵の目的地は、フレイウスとギルフィが
顔をしかめるギルフィ。
「また、テバイ陣から偵察隊が来たみたいですよ、フレイウスさま。
あいつら、
相変わらず我々アテナイが、クレオンブロトス王やアフロディア姫を隠していると思ってるんでしょうね。
疑い深い奴らだ」
フレイウスも眉をひそめている。
「うっとおしい限りだが、なにせ奴らは地元だ、強気で来る。
同盟軍とはいっても、しょせんこちらは
これ以上、スパルタ王族を隠している、とか、行方を知っているのではないか、と疑いを深められたら、監視や規制が厳しくなってますます動きがとれなくなる」
難しい表情で続ける。
「かといって、疑いが完全に晴れて、とっととレウクトラから引き上げてくれ、と言われても困る。
もっとティリオンさまの捜索をしたいのに、こうも邪魔をされては……」
しばし、悩む様子を見せたフレイウスだったが、やがて決断した。
「仕方ない。私はこれで切り上げて陣に戻り、テバイの報告連絡隊の相手をする。
ギルフィ、おまえも今日は捜索を早目に切り上げて、アテナイ陣に戻ってこい。
今夜、テバイ陣で行われる戦勝の酒宴へは、おまえにもアルヴィにも
むこうはこちらに探りをいれるつもりらしいが、こちらとて同様に、テバイ陣を偵察し、こちらの知らない情報を手に入れられる、いい機会だからな」
――――――――――――――――*
ギリシャの
● アテナイ……民主制国家。学問と芸術が盛ん。エーゲ海に面するピレウス港を持つ海運国。
● テバイ……民主制国家。農耕が盛ん。『レウクトラの戦い』で、エパミノンダスの「神聖隊」「斜線陣」によって、スパルタに勝利した。
● コリントス……
● スパルタ……二王制軍事国家。スパルタ教育で有名。国民皆兵で、鍛えられたスパルタ戦士による強力な軍隊を持っていたが、『レウクトラの戦い』で敗北。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます