テバイ本陣総司令官天幕 3 *
ごつくてがっしりとした長兄ペロピダスとも、巨漢の三弟ダリウスとも、その下にいる四弟五弟とも、ひとりだけ全く似ていない
兄弟の中でネリウスだけは、
だが、
美少年はもちろん、美しい男とみれば次々と手を出す、
ペロピダスはこの時、この腹違いの次弟が、実は父親の
弟ダリウスの
「しかし
「うむ、まあそれは確からしい」
「これだけの厳重な包囲網の中を、そんな大怪我をした者が、誰の手助けもなしに
「どういう意味だ? それは」
ネリウスは、ずる賢い
「ふふふふ、ですから私が思うには、ですね。
戦場にいる、とても権力ある誰かが、 手助けして逃がすとか
「とても権力ある誰かが、手助けして逃がす?
まさか裏切り者がいるとでも……」
言葉の途中で、ペロピダスの顔がこわばった。
「そうだ、同盟軍アテナイ総司令官フレイウス。
あいつなら裏切るかもしれん。
そうだ、きっとあいつだっ!」
ペロピダスは両手を
「あいつだ! そうだ、裏切ったのはあいつだ。あいつにきまってる!
あいつはスパルタでも、俺とアフロディア姫の、あっつーい恋仲を邪魔したんだからなっ。
あいつが
そういえば同盟軍のくせに
くっそーっ、やられたっ。
フレイウスめ、許せん、許せんっ、もう許せんぞ!」
かんかんに怒る兄を見て、ネリウスの笑いがいっそう意地悪く深まる。
「
疑わしい同盟軍は、アテナイだけではありませんぞ。
もうひとつ、同盟軍コリントスもお忘れなくぅ――」
「いいや、裏切ったのは、アテナイのフレイウスに決まっとる。
奴だ、奴が絶対、犯人だ。氷の剣士が俺の姫をまた横取りしやがった!
そうだ、奴も平和会議のとき、スパルタでアフロディア姫に惚れて、自分の嫁にしようとしているのかもしれん。
あいつも、威勢のいい可愛い女が好きなタイプなんだろう。
ちくしょーっ、姫は俺の嫁になるんだ!
俺のかわいい姫は、必ず取り戻すぞっ」
ひとりぎめして叫ぶと、ネリウスを押しのけて、ペロピダスは天幕の外に飛び出していった。
「エパミノンダスっ、エパミノンダスはどこだ? アテナイが裏切ったぞっ。
フレイウスの野郎が俺の姫をさらいやがった!
おいエパミノンダスっ、大体おまえが、万が一のため、とかいってアテナイなんぞと同盟を組んだりするから、フレイウスに姫を取られてしまったりするんだ。
なにっ、今、忙しいだと?
ちょっとまてっ、俺の話を先に聞いたらどうなんだ。おいこらっ……」
怒鳴る声が、段々遠ざかってゆく。
この隙にとダリウスが、こそこそ逃げ出していく。
総司令官天幕にひとり残されたネリウスが、クククククッ、とこらえきれぬ笑いをもらした。
――――――――――――――――*
人物紹介
● ペロピダス(32歳)……レウクトラ戦線、テバイ軍総司令官。女好き。
スパルタのアフロディア姫に熱を上げている。
● ネリウス(29歳)……ペロピダスの腹違いの次弟。非常識で見境のない同性愛者。別名『テバイのタンポポ頭』
● ダリウス(28歳)……ペロピダスの三弟。熊のような巨漢。『レウクトラの戦い』で、スパルタのクレオンブロトス王に右腕を斬り落とされ、隻腕。
● エパミノンダス(30代?)……テバイ軍の参謀長。野心が強く、頭がいい。
『斜線陣』『神聖隊』をつくり、スパルタ軍に勝利した。
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