第7話 決戦
世は休日。私達の決戦の日。
相手も何かを考えているのか、この数日は特に何も無かった。丁度良い。
人気のない公園。ひとけ、というか本当に
「随分無防備じゃないか」
「!」
来た。
「こんなところにいたかよ」
「今日こそ倒す!」
「貴方こそ、静かだったじゃない」
今にも戦闘を始めそうな佐々橋さんを制して前に出る。髙木さんと話し合ったこと。無理でも、一回話してみようって。アズライトは多分反対するから、相談していない。
「お願いだから、もうやめない?」
「はあ?」
「あなた達の目的は何なの?」
「だからそいつだって言ってるだろ!」
「アズライトを捕まえてどうするの?」
「ひより!何してるの!?」
アズライトが悲鳴を上げる。気にせずもう一度、彼を見る。
「で、どうするの?」
「……俺達の国はもう滅びかねない。隣国であるこいつらの必要リソースがでかすぎるからだ。だから姫様の1人でも捕まえて、交渉にでも脅迫にでも、実際リソースにしてでも………うまく使わなくちゃいけねえ」
意外と静かに話す。傷だらけの手。ただ瞳だけが爛々と輝いている。
「俺には……俺達には、後が無い。死ぬか殺されるか、奪うかだ!!」
声と共に距離を詰められる。ステッキをかざして光を出し、間を作る。視線を向けるが早いか、髙木さんがすぐに駆けつけてくれた。
「なっ……!?」
「いくよ、せーの!」
「くそ!!」
掛け声の直後、光を出す前に突っ込んで来た。気迫に一瞬怯んだ、それが駄目だった。彼の年季の入った爪が、佐々橋さんを貫いた。
「なごみちゃん!!」
髙木さんの悲鳴が響く。動かなかった思考と身体が、その声に弾かれる。今やらないと、本当に全てが無駄になってしまう!佐々橋さんには髙木さんが行った。私がやるべきこと、やれることは!
「あああああ!!」
渾身の力で、全てを込めるように振り下ろす。この状況に衝撃を受けているのは私たちだけじゃなかった。反応が遅れた獣の心臓辺りに、ステッキの先が刺さり込む。
「う、ううっーー!」
絞り出すような声を残して、光が包み込む。どうにか目を開けて見れば、獣の身体が端から崩れていく。
「クソッ!俺はこんなところで!嫌だあああーー!」
断末魔が消えていく。本当に全ての力を込められたからなのか、すぐに変身が解けた。どっと疲れが押し寄せる。けどそれより今は!
「佐々橋さん!」
「鈴藤さん……なごみちゃんが……」
髙木さんの腕の中で淡く光っている。輪郭が曖昧だ。薄らと、それこそさっきの獣のように、端がもう見えない。佐々橋さんの目が薄く開く。
「佐々橋さん、大丈夫!?今、救急車を……」
「……2人とも……わたしと………ちゃんと話してくれて、ありがとうございました……」
「なごみちゃん喋っちゃだめ!」
「わたし………それでも、こうやって………これで、よかったと思います……」
佐々橋さんが笑う。その些細な身動ぎで、光が崩れる。
「たのしかったなあ……」
「ささ……っ!」
名前を呼ぶ前に、身体が消え去った。冷たい風が吹き抜けて、光を散らしていく。カラン、とあの石が落ちて、つい視線がそちらに向いて、もう一度戻した時には。
「嘘……」
言葉が出ない。心臓がひどく速く動いているのを感じて、私が生きていることが強調されているようだった。
「……ごめんなさい、私のせいだ……。私がこんなこと提案しなかったら……」
髙木さんがぼろぼろと泣き出す。
「ううん、違う、違うよ……」
どうにか彼女を抱き締める。髙木さんのせいじゃない。後悔。もっとうまくやれたら。ううん、せめて、未来ある彼女じゃなくて、私だったら、まだ。
「2人とも、ありがとう!」
場にそぐわないきらきらした声。振り向くと綺麗な身体、綺麗な笑顔。
「これで私はきっともう狙われない。だから、元の国へ帰るわ!」
「……そう」
薄々思っていたけれど、この子とは価値観が違う。きっと彼女に悪気は無いのだろう。それが一番厄介だ。
「あなたは悲しくないの?なごみちゃんはあなたを守るために戦ったんだよ!罪悪感とかないの!?」
髙木さんが叫ぶ。尤もだ。
「どうして?」
「――っ!」
「髙木さん、いいよもう。いいんだよ」
「う、ううう……」
「そうだ!前に言ってたようにそれはあげるわ。それじゃあ、さよなら!」
嘘みたいに目の前からアズライトが消えた。始めから何も無かったみたいに、感傷も未練も残さず、鞄とあの石だけが置かれている。
「鈴藤さん……どうしよう……」
泣き続ける髙木さんに、すっと頭が冷静になる。私が動かなきゃ。彼女達の前では大人でありたいと、そう思って戦って来たんだから。
「……髙木さん、行こう。ここにいても、野次馬が来かねないだけだよ」
抱えるように立たせて、道を外れる。少し進めば、いつものカフェの近く。
「……ちょっと落ち着いてから帰ろう」
「はい……」
ちょうど奥の席が空いている。適当に飲み物を2つ頼む。温かくて甘いものを。髙木さんは明らかに憔悴している。当たり前だ。とりあえず、一旦落ち着かないと。落ち着ける気がしないけど。
「大丈夫?」
「……」
「じゃないよね」
「はい……」
「私は……この鞄を警察に持ってく。落とし物ってことで。佐々橋さんはきっとそのうち、行方不明扱いになると思う。髙木さんの情報は漏らさないつもりだけど、もし何か連絡が来たら……そうだね、ちょっとした友人ってくらいにしてくれるとありがたい」
「はい……」
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