第6話 終わらせるための始まり
仲間が一人増えた。増えてしまった、という表現のほうが合っている気がする。協力したいという申し出がどういう意図だったかを確かめる間もなく、アズライトは大喜びで彼女を勧誘した。大学生の髙木さん。教育学部だから、勉強教えられるよと言ったら佐々橋さんは素直に喜んでいた。……良いんだろうか。こんな危ないことにどんどん人を巻き込んで。冷静になると私も巻き込まれてる側ではある。けど、私はまだしも若者を……と思ってしまう。
「そうそう、それで……」
「あ、わかった!できた!」
「やったじゃん!」
「ありがとうございます!」
迷う私の隣で、二人は楽しそうに勉強している。塾講師のバイトをしているとの話だけあって、教えるのが上手い。私は文系だし、そもそもそんなに勉強が出来るわけでもないから、理系をカバーできるのはありがたい。頼りっぱなしになってしまいそう、気を付けないと。そこにこだわりたいわけでも無いけど、唯一の大人なんだから。紅茶を飲み干す。
「鈴藤さん!宿題終わりました!」
「お疲れ様。これで明日は安心?」
「とはいかないですけど。でも……前より、授業もちょっとだけわかるところが出てきたんです。2人のおかげです!」
「それなら良かった」
「ほんとありがとうございます!あ、ちょっとトイレ行ってきますね!」
笑顔が弾ける。元々明るい子だけど、より輝いている気がする。……実際、学校はどうなんだろう。お家はなんかありそうだったけど……。
「鈴藤さん」
「ん?」
「なごみちゃんがいない間に、先にちょっとご相談したいんです。こないだ、今までの戦いのこと聞いたじゃないですか」
「うん」
「それで、敵が徐々に賢く戦うようになってるって」
「所感だけどね」
「いえ、私も聞いている限りそう思います。それで、個人的には、今のうちにちゃんと戦いを終わらせた方が良いのかなって思ったんです」
「……決戦みたいなこと?」
「そうなりますかね。あんまりこのまま延々と続くのもどうかと思うし」
「……危険だけど、正直その通りだと思う。あなた達を巻き込んでしまっているのが心苦しい。出来るだけ早く、安全に終わらせたい」
「鈴藤さん……」
「そんなこと言っといてごめんね、多分私じゃ良い方法が思い付かない。何か考えがあるんだよね?」
「っはい!」
髙木さんがドリンクバーの野菜ジュースを飲み干す。炭酸を混ぜたのか、コップに泡が残った。
髙木さんの考えはシンプルだった。おびきだして、特大のダメージを与えて、帰ってもらう。放っておいても来るんだから、おびき出すのは簡単だろう。全員揃って、アズライトと一緒にいれば良い。
問題は特大のダメージ。戦うメンバーが増えた今、全員の力で思いっきりやったらいけるんじゃないか、3人体制に対応される前に……というのが髙木さんの意見。念のためあとで退却時のパターンも考えておこう、と提案して、それも含めて戻ってきた佐々橋さんに伝えた。
佐々橋さんは意外にもちょっと迷ったみたいだった。うーん、うーんと何度か言って、最後にはやると言った。
「でもあの、もし終わっても……その後もこうやって……集まったりって……」
「勿論、なごみちゃんが良いなら」
「本当ですか!」
ぱっと笑顔が咲く。気にしてたのはそこだったんだ。身の危険よりも、私達との繋がりが切れることへの心配。そういうとこが、私が佐々橋さんを心配する理由の1つなんだけど……。とにかく、万全の体制で挑もう。
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