第14話
自宅に着いた。ペペッとサンダルを脱いで揃えることもなく玄関をあがりリビングのドアを引くと、秋奈がいた。
「おかえり」
「うん、ただいま。今日来てたんだ」
「何かいいことがあったんじゃないかと思って」
僕は冷蔵庫にあった発泡酒と缶チューハイを取り出して、発泡酒を秋奈に渡し乾杯した。
TVをつける。明日には内容を忘れてしまいそうなバラエティ番組が流れている。鉄製のローテーブルの上には珍しく缶のアルコール飲料しか置かれていない。チャンネルを変える。明日には内容を忘れてしまいそうなニュース番組が流れている。近所で70代後半の高齢者男性が20代前半の女子大生を乗用車で跳ねて両腕骨折の重傷を負わせてしまったらしい。勉強机の上に明後日締め切りのレポートの説明資料が置かれているのが目に入る。秋奈だけをソファに残し、レポートに取り掛かる。今日は気分が良いのでパッパと終わらせられそうだ。
予想通り30分ほどでレポートが終了した。秋奈は退屈そうに深夜ドラマを観ている。一服するためベランダに出る。最近は紙巻きたばこの室内喫煙が禁止されている物件が多く僕の住んでいる物件もそうであった。室外機の上に置かれてあったハイライトのソフトを吸う。少し湿っ気ているがうまい。ハルの住んでいるマンションの方を見る。マンションの上空には月のイデアとも言わんばかりの月が浮かんでいる。
秋奈は口には出さないがタバコの煙があまり好きではない。肺の中まで全て吐き出すくらいには念入りに煙を放出して家の中に戻る。彼女はいなくなっていた。秋奈には存在感というものがまるで感じられない。家に帰ってきた時も、そして一服してリビングに戻ったときにも気配が全く感じられなかった。
電源を消されていないTVから秋奈が先ほどまで観ていたであろう深夜ドラマが流れている。数十年前のドラマのようで現代の映像に七掛けしたような解像度だ。小さな町工場を営む夫婦に経営危機が訪れるも、父親が取引先に頭を下げまくり、母親がパートに出まくり、娘はバイトを頑張りまくり、なんとか難所を乗り越えるという筋書きだった。
急に腹が立ってきた。雑にテレビの電源を消し、ソファを強めに殴った後缶チューハイの残りを胃に流し込み、ベットにダイブし、そのまま寝た。
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