第7話
一段降りた。その感覚を掴んだのは、酒に浸る日々が板につきはじめた頃だった。
仕事中にも関わらず、昼から酒を飲むのが常態化していた。
毎日頭のネジを1本ずつ丹念に緩めてゆくような日々が日常となっていた。
数年ぶりに会う旧友と外で酒を飲んだ。
学生時分の際にいくような安ウマ店を何件も梯子する
端的にいってとても清々しい飲み会だった。
論理はどこまでも飛躍し、みな酩酊し踊るように会話を重ねた。
昨晩の楽しかった記憶とひどい二日酔いが頭の中で行ったり来たりする体調の中
エナジードリンクと天然水とアイスコーヒーを順繰りに摂取しつつ自宅へと車で戻る。事故は起こせない。
朝の高速道路は空いている。オービスの場所さえ把握していれば速度制限なんて
あってないような、私有のオートレース場と化す。
少し窓を開け、空気を入れ替える。二日酔いで鈍くなった頭と弱体化した心身に朝風を通す。そういう時だけ風の色を知覚できる気がする。
自宅最寄りの出口にて高速道路を降りる。通常の道路に戻り、大量に摂取した飲み物の容器を捨てるためにコンビニへ寄る。容器を捨てる。飲料水が陳列されている棚に目が入る。時刻は昼前。朝の集中力ボーナスも切れはじめ、ガブガブと飲んだカフェインも体から抜けはじめ、二日酔いと真っ向から対峙しないといけない時間帯。ごまかしのノンアルコール缶チューハイを買う。
コンビニ近くに川があるので、そこまでたばこを吸いつつ、ノンアルチューハイを飲みつつ散歩をする。民家の外壁には消費税削減を訴える共産党のポスターと地元のスポーツチームを応援するポスターと戦争反対を訴えるポスターが貼ってある。70過ぎのご老人が芝犬の散歩をしている。幅5-6mほどの河川が見える。蝉が鳴いている。
アブラゼミの声が中心。二日酔いの人間の気分など完全に無視し、己のありったけを放出すべく、体を震わせ、いのちを使っている。なんてことのない河川をぼうっと見ながら2本目のたばこを吸う。ちらっと緑亀がライトグレーの丸型の川石の上でたたずんでいるのが伺える。
一段降りた。その瞬間だった。
渾然一体。それを四字熟語でなく、その言語が捉えようとしていたもの/表現しよう、触ろうとしていた概念の一端を言語でなく、自然との通信によって受け取ることができた。
自然と確かに繋がれている。なんてことのない夏の日の、よくある二日酔いの日の午後に、自分から湧き出たとは思えないほどの生命エネルギーが自己にほとばしっているのを感じる。エネルギーの飛来、自己の意思とは関係のない自然との通信により体内に新たなエネルギー体を供される。
川石の上にたたずんでいた緑亀はいつの間にかいなくなっていた。
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