第65話 メアのペンダントは大切な物なんだ!

 テレビでは、動物園のコマーシャルが流れていた。

 食いつくように見ているメアはとても行きたそうだ。


 課題をやりながら、横目でそれを確認する。

 この後、俺を見ながらきっとこう言うんだ。


 「メア、ここ行きたい!」


 「⋯⋯どうすっかな」


 遊んでばかりもいられない。

 両親が居なくても剣の修行はしないといけないし、夏休みの課題も多大に存在する。

 まぁでも、メアの頼みを断るのもな⋯⋯。


 「しゃーない。今日だけだからな。俺は忙しいんだ」


 そう言って準備を始めると、当然のように愛梨も準備しに向かう。

 愛梨が保護役的なポジションに収まりそうな気がするのは、俺だけだろうか?


 そしていつものメンツでCMで流れていた動物園に向かう。


 「メア、暑いからこれ被っとけよ」


 夏に大人気、被っているだけで冷気空間が自身を包み込んでくれる。

 そんな帽子だ。


 メアの服を買うついでに買っておいたのだ。

 温暖化が無いとは言え、夏は暑い。

 子供なんだし、もっと体調に気を配るべきだ。


 「おほ〜涼しい〜」


 「良かったねメアちゃん」


 「うん!」


 データ世界で移動出来たらどれほど楽ちんか。

 そう思いながらタクシーを使って向かう。

 その方が楽だと思ったからだ。金ならまだ問題ない。


 「ライオンさん、キリンさん」


 ルンルンのメアに愛梨もほっこりしている。

 メアが着た物も見えなくなるのか、服が浮いているようには見えないっぽい。

 手に持っている物は見えるようだが。


 タクシー運転手は驚きもしないで、メアがスマホをいじっている姿をミラー越しに見る。

 つまりは、スマホが宙に浮いて動きているのを、真顔で見ているのだ。


 すげーな。


 「日向くんと行くと、前のを思い出すね」


 「埼玉に追いかけられたやつだな。アイツ、凄い執念で来たもんだよな」


 そんな会話をする。

 タクシー運転手の顔が変わった。


 お前、もしかして独りでに動くスマホよりも、俺と愛梨が親しげにする方が怖いか?


 「えっと、今日向くんが着てる服はメアちゃんと一緒に選んだんだよ?」


 「メア頑張ったぜ!」


 「そっか。ありがとうなメア、愛梨も」


 「もって⋯⋯ふんだ」


 愛梨がそっぽを向いて外を眺め始めた。

 メアの頭を撫でながらお礼を言っていると、目を細めて喜んでくれる。

 近所の犬を撫でているような感覚だ。


 そして目的地に到着した。

 ここにパンダは居ない、

 つーか、ここはかなり独特な場所となっている。


 園長がモンスターと仲良くなるスキルを複数所持して伸ばしているらしく、狼やライオンと言った肉食動物と直で触れ合える場所となっている。

 これもまた、ダンジョンと言う神の力があったからこそ出来た代物だ。


 園長さんの腕前もありそうだけど。

 もちろん、肉食動物以外にも草食動物が居る。

 そのような本来共存しない、多種多様な動物がこの場所にはおり、直で触れ合えるのだ。


 結果として生まれたのが、本来ありえないだろうハイブリッド、肉食と草食が混ざった雑食動物だ。

 それを見たいと好奇心に揺れ動かされて来る人も居るとか居ないとか。


 「そんじゃ、メア行くか」


 「レッツゴー!」


 「元気だね」


 入場料高校生で千円⋯⋯結構高いな。

 幼稚園児以下は無料なんか。この場にそれらしい人物は居ないけど。

 動物でありモンスターじゃないから、食費がかかるんだろうな。

 それに全てが園長のスキルで補われている訳では無いだろうし。


 中に入ると広がっているのは草原やら岩山だったりする。

 基本動物は同じ種族ごとに群れを成して固まっている。


 「ライオンさんだ!」


 メアが走って近づく。

 メアは入場料を払わずとも通れた。


 「一人で動くと迷子になるぞ〜」


 と、言っても俺と一定の範囲は保っているので問題ないと思うが。

 メアは不思議と、俺とそこまでの距離を離れた事が無い。

 きちんと、一定の距離は保っているのだ。


 「ほら、早く早く!」


 「娘が出来たら、こんな感じなのかな?」


 そう言いながら愛梨が手を振り返す。

 あそこまで頭の良い子供は中々現れないと思うけど。

 二進数とか四進数とか十六進数とか、一瞬で覚えられていたし。その変え方も。


 真剣に勉強したら、俺よりも賢くなるぞ。


 転がっているライオンにゆっくりと近づき、触る。


 「わああああ」


 メアがさらに明るくなり、撫で回す。

 ライオンもそれを分かっているかのようにゴロりんと腹を出す。

 気持ちよさそうだ。


 メアは基本人には見えない。

 しかし、動物達には見えているようで、しっかりと認識していた。


 「⋯⋯お、居た」


 「ん? 何が?」


 愛梨も同様にライオンと楽しんでいたが、俺の呟きに反応した。

 指を向ける。


 そこには、何かしらのロボットなのか、そのような動きをしている物体を追いかける狼の群れがあった。


 「好きだね。イヌ科の動物」


 「狼はかっこよさの中に可愛さがあるからな」


 ああやって本能を掻き立てているのか。

 ロボットなのか、はたまたアイテムなのか。

 なんでも良いな。


 しかし、メアから目を離す事も出来ないので、メアが行きたいと思うまで我慢だ。


 次にメアが来たのはキリンと象が近くにたむろしている場所だった。

 水場でカバやワニも共存している。


 「高ーい!」


 「キリンの頭に乗っても大丈夫かね?」


 落ちそうで怖い⋯⋯と言うかキリンもキリンで大丈夫か?

 二重の意味で心配になる。


 「ふふ。本当の父親みたい」


 「ばっおまえ、あんまりそう言うの言うな。⋯⋯変に意識する」


 「夫婦を?」


 「親子を。父子家庭だな」


 愛梨の踵上段回し蹴りが俺の背中に炸裂した。

 オシャレしてスカートなんて履いているので、見えてしまったが、今はそれを意識出来る程余裕はなかった。

 骨、折れてないよね。


 「無事で何より」


 「日向の方がメアは心配だよ」


 無事に降りて来たメアと共に狼の群れを捜索する事に決まった。

 探そうと思えば、すぐに発見する事は出来た。

 他の親子もいる。


 「おお、種類は分からんがシュッとしてるな」


 「そうだね。賢そうだけど、間抜けそう」


 なんて失礼な!

 あ、お腹を見せて撫でて欲しそうにお客さんにアピールしてる。

 可愛い。


 俺も撫でさせて貰おう。

 近づいて手を伸ばすと、弾かれた。


 もう一度、弾かれた。


 メア、愛梨は普通に撫でている。

 メアに関しては背中に乗ってるぞ。


 「なんだあの狼。動きが変じゃないか?」


 「すげー動くな。しかもただダッシュしているだけじゃないぞ!」


 「ま、回ってる?」


 他のお客さんも見ている。

 芸をしている訳ではなく、メアを楽しませようとしてくれているのだ。

 メアが見えない人から見たら芸なのだろう。


 俺は他の子でチャレンジしたが、弾かれた。


 そうかい。

 デブは受け付けないのかよ。

 人間の価値観を狼が持ってちゃいかんでしょ。


 あ、俺と同じような体型の人が頭を撫でてる⋯⋯。


 別に良いもん。

 狼型のモンスターなんて九級を探せばいくらでも居るし。


 「日向嫌われてるね」


 肩に手を置かれた。

 メア、慰めが時に傷を抉る事を知った方が良いよ。


 「他のを見て回ろうか。愛梨はなにかないの?」


 「えーじゃあ⋯⋯」


 ヒョウである。

 愛梨がほんのり笑みを作りながら楽しんでいる。


 「メアは良いの?」


 「うん。もう十分乗ったから!」


 「そ、そう。本当は良くないからな」


 見下げて視界に入る。

 メアと出会った当初から持っていて、肌身離さずのひし形のペンダント。

 これがこの子の家族、あるいは何かしらの過去に関わるのは確かだと思う。


 毎晩歌い、星座の絵を描いている理由も分からない。

 色々と知りたい。


 聞いても、良いんだろうか?

 このまま、なあなあではいてはダメだ。

 このままの時間を、ただ過ごしていては何も解決しない。


 「ん? 日向はこれ、気になる?」


 「あ、うん」


 ペンダントを見せつけながら言って来る。


 「これはね、誰かに言われた事があるんだけど。昔に大暴れしていた、大悪魔を封印する為に使った、大切な物なんだって。絶対に手放しちゃダメって、言われたんだ」


 大悪魔⋯⋯封印。


 「それは誰に?」


 「それはね⋯⋯誰、だっけ? あれ? 誰かに聞いたのは確かなんだよ。ホントなんだよ? でも、あれ? おかしいな。なんで、何も思い出せないんだろう」


 メアが俺を見てくる。

 優しく、抱きしめる。


 「ありがとう教えてくれて。もう、何も振り返らなくて良いよ」


 「う、うん。分かった」


 ⋯⋯何かあるのは事実、か。


 「⋯⋯ロリコン」


 「ちゃうわ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る