第64話 今日から君はメアだ

 ナイトメアの服を買う事が決まった。

 ずっと愛梨のお下がりって訳にもいかないので、向かうのだ。

 金は勿論俺が出す。


 「父親になった気分だ」


 「父親と買い物に行く娘は少ないと思うよ日向パパ」


 「ファミリーショッピングだね」


 最後の愛梨の発言に、俺たちはクエスチョンマークを取り出した。

 結果、般若の笑顔を見る事になった。

 怖かったぜ。


 ま、そんなくだらない冗談は置いておいて、早速向かう事にする。

 俺とナイトメアが並んでたら、兄妹にも見えんな。


 愛梨と二人で行ってくれたら良いのだが、ナイトメアは何故か俺に懐いてあまり離れようとしない。

 なので、仕方ないのだ。


 「ついでにアニメイト行こう」


 「そっちが本音じゃないの〜」


 愛梨の鋭いツッコミを避けて、到着した。

 服を買いに向かう。

 スーパーなので、昼頃になったらフードコートに行く予定だ。


 家から一番近くて服のある場所はここになる。


 俺は機能性重視で、二着服があれば問題ないってタイプである。

 愛梨が勝手に選んで来て、買ってくる物を昔は着ていた。

 今はサイズ的に同じ様な服ばかりだ。


 「骨が治って良かったね」


 「そこまで長く使ってないからね」


 昨日は意識が戻った時、既に全身痛くて動けなかった。

 ただ、骨折している訳ではなかったので、ちゃんと寝たら動けるように回復した。


 「あ、これなんてどう?」


 愛梨が一セット選んでナイトメアに試着させる。

 俺に服の善し悪しなんて分からないので、愛梨に丸投げする。

 適材適所。逃げた訳では無い。


 俺は荷物持ちと財布に徹していれば良い。

 そう思っている。


 「日向〜似合ってる〜?」


 試着室のカーテンを豪快に開き、自分が今着ている衣装を見せてくる。

 似合っているのか、似合ってないかも分からない。


 「ああ、良いと思うぞ」


 「「うわテキトー」」


 「じゃあ聞くなよ。愛梨まで言うな」


 知ってるだろ!


 それから数時間の選び作業が入った。

 すごく長くて、ベンチに座って、見て欲しい時に向かう形となった。

 ずっと立っているのはしんどい。


 特に自分の事じゃないし。


 「⋯⋯」


 こうやって遠目で見てみると考えてしまうな。

 もしもナイトメアが本当に俺の娘なら⋯⋯いや、妹か。

 そうだったら、愛梨とあんな風に仲良くなったんだろうと。


 ナイトメアと愛梨が一緒に服を選び、笑いながら談笑する。

 その光景に少しだけほっこりする。


 だけど自覚する。

 こんな時間は長くは続かない⋯⋯と。


 「現状だと、俺との兄妹じゃなくて、愛梨姉妹な気がするな」


 それにしても長い。

 イヤホンを着けていると色々と言われそうで着けれない。

 ⋯⋯そもそも持って来て無いや。


 暇なので、データ通貨を電子マネーに替えておく。


 「あれ?」


 思っていた以上に金が少ない?

 あの時に買ったアイテムも相当な値段だったが、一億は残っていた。

 しかし、変換すると税金が引かれるので一億を切ってしまう。


 オークションを開催するか?


 「ん〜良い時期とか分かんないしな。ギルマスに相談したら、あっちで調整しながら日陰が出したって事に成るだろうし⋯⋯宣伝してみるか」


 俺はこれでも配信者だ。

 だったら、自分のチャンネルで宣伝するのもおかしな話じゃない。


 配信⋯⋯夏スペシャル的なライブをやっている人も居るんだよな。

 リイアたんはしないのかな?

 して欲しいな〜。


 俺もやろうかな?

 せっかくだし。

 でも、何しようかな。


 夏っぽい⋯⋯海とかしか出て来ない。

 あんな大人数の人に、顔も知らないとは言えど、水着姿を見られるのは嫌だなぁ。

 SNSに載せているので今更感は否めないが。


 「なんだよ。恥じらいのある日陰って」


 そんなに俺が恥ずかしがっているように見えるかね。


 「日向〜買ったよ!」


 「お、ようやく決まったか」


 「あとこれ」


 愛梨が俺に紙袋を渡してくる。

 ナイトメアの服とは別だ。中身は男物の服。


 「まさか、俺にも買ったの? わざわざ? てか、支払い! いくら出した? ナイトメアのも。送るよ」


 「いや別に良いよ! 私が買いたくて買ったの。返金されると、お使いみたいじゃん。だからさ、めいいっぱい感謝して、それ着て、どこか行こ。それでチャラ」


 「良いのか?」


 「うん!」


 愛梨⋯⋯金大丈夫なのかな?

 前に虐滅刀の借金が残ってるって⋯⋯。


 俺が知らない間に返済したか⋯⋯それともダンジョンとは関係ないところで金を稼いだか。

 あ、雑談配信のスパチャか。


 「ありがとう。ナイトメアもありがとう言ったか?」


 「うん!」


 「そっか。良かったな、愛梨お姉様が優しくて」


 「ほんと! 愛梨お姉様は学園でも一目置かれるマドンナだよ!」


 「ね、その意味不明な会話に私はなんて言えば良い? 怒れば良い? 喜べば良い? 笑えば良い?」


 「「笑えば良いと思うよ」」


 「ドヤ顔で返さないで」


 その後はブラブラと散歩する事にした。

 すると、少し離れた場所に埼玉の姿が確認出来た。


 「あ、ちょっと先輩見つけたので、話して来て良いですか?」


 「良いよ」


 友達と遊んでいただろうに、断りを入れて俺達の方に歩って寄ってくる。

 埼玉もナイトメアを見えているし、ジャックと闘った日に会っているので驚きはしない。


 「おはよう⋯⋯です。愛梨先輩、日向先輩、ナイトメアちゃんも」


 「おはようなのだ!」


 「おほよっ。友達と居るのに来てよかったの?」


 「目が合ったのに挨拶しない訳にも⋯⋯」


 律儀だな。


 「おはよう茜ちゃん。楽しんでる?」


 「はい!」


 そう言って、埼玉は友達の元に戻ろうとする。


 「あ、一瞬夫婦に見えましたよ」


 最後に埼玉が愛梨にそんな事を言った。

 アホくさ。

 どことなく、愛梨にだけ言っている気がしたけど、なんでだろうか?

 ま、俺が気にする事は出来ない。


 愛梨が親指を上げて埼玉にグッジョブアピールしてるのも、気にしない。

 ナイトメアが密かに笑ってやがる。

 肩車しているので、微かに聞こえる。


 「と、もうすぐ昼か。昼飯にするか」


 「そうだね。どこ行こっか」


 壁に貼られた広告、ダブルチーズバーガーがナイトメアの視界に入る。


 「あれ食べたい!」


 「よし分かった。混まないうちにさっさと行くぜ」


 「レッツゴーだぜ」


 「ほんと、親子みたい」


 年の差的には兄妹が良いな。

 俺ってそんなに老け顔かな?


 今更だが、ナイトメアばかり気にしていたから周りの目を気にしていなかった。

 愛梨が隣に居るのに、誰も愛梨に目を向けてない。

 流石に学校と違い、私生活では周りは気にしないよな。


 ハンバーガーを購入して、席に座る。


 「デカイな」


 ナイトメアの一口ではハンバーガーを包み込む事は出来ない程に大きかった。


 「ミノタウロスの肉を使用した物らしいよ」


 「う、苦い思い出が蘇る」


 ミノタウロスって倒すと肉をドロップするんだよな。

 こんなところでモンスターの肉を扱ってるのか。

 どんな味がするんだろ。俺は普通の動物肉だけど。


 「美味しい〜」


 ナイトメアがホクホク顔でむしゃむしゃ食べている。

 昔と違い、大きめのダブルでも二百円代に収まる。


 「今の方が豊かだって、色んな人が言うよな」


 俺達にとっての普通は昔の人達から見たら豊かなんだ。

 これも神の力⋯⋯。


 もしもナイトメアが神によって造られ、俺に与えられた何かだとしたら⋯⋯絶対に何かある。

 神は一人に肩入れしない。

 する場合は楽しむためだ。


 神は娯楽に飢え、日々模索しているのだろう。

 人間の俺には到底思いつかない何かを。


 そういや、ナイトメアが食べた物って他人から見たらどう見えているんだろ?

 俺達が普通に会話してるけど、周りからはナイトメアは見えないんだよな?


 「ナイトメアって言いにくいな。これから⋯⋯メアって呼んで良いか?」


 「もっちろん!」


 「そっか。じゃあ、これからメアだ」


 ナイトメア改めて、メア。


 「これから、いつまで続くか分からないけど、よろしくなメア」


 「こっちもよろしくね、メアちゃん」


 「うん! 日向、愛梨!」

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