第63話 ジャックリベンジ、必殺技

 「それじゃジャック、やろうか」


 「ああ。いつでも来い」


 俺は木刀を構えて、進んだ。


 ジャックの戦い方は何回も言うようだが、様々な武術を複合した形だ。

 木刀を持ちながら、扱いは体術、剣術、棒術など多岐に渡る武芸を感じさせる。


 そんな相手にどう対策するか、そんなのは俺には無い。

 剣術だけで叩きのめせるなら問題ないのだろうが、そこまでの技術は両親にしか無い。

 俺にはそのような技術は無い。


 だから俺は、真正面から『ジャック流』を打ち砕く。

 分かりやすく簡潔に言えば、ゴリ押しだ。

 ジャックも単体の技術だけで見たら、達人とまではいかない。


 複数が合わせっているから強く思えるんだ。


 「霧外流、夜霧!」


 「ふんっ」


 剣術と棒術の合わせ技で受け流し、体の動かしは体術か。

 しかし、それでは俺の剣は流せない。


 いや、寧ろそれを利用させて貰うぞ。

 受け流された勢いを振るった勢いに上乗せさせる。


 故に完成する加速する刃。


 「ぬっお」


 「それじゃ、本気を出すまでもないな」


 「言ったな?」


 「日向すごーい! がんばれー!」


 ジャックが数歩下がる。

 刹那、ステップを踏みながら迫り来る。


 「縮地! 歩行術も使えるよね、そりゃあ」


 ジャックの動きとスピードが合わないけど、それも武術の一環なら分かる。

 突きを繰り出される。


 この突きは受けてはいけない。

 想像以上の火力があるからだ。

 突きを避けてら薙が飛んで来るが、これは受け流しながら勢いを殺し、避ける。


 考えながら行動しては遅い。

 少しでも早く、動作から動きを導き出して最善策を掴み取る。


 「ラプラスみたい」


 「ラプラス?」


 俺とジャックが格闘している間に愛梨とナイトメアの会話が少し聞こえて来る。

 集中して無い訳ではないが、何故かナイトメアの言葉は良く耳に入る。


 「ラプラスの悪魔ってやつ? 日向は相手の一挙一動から次の動きを予測しているんだよ。それを感覚的に行っている。完璧とは言えないけどラプラスに近いよ」


 「ナイトメアちゃん。それは違うよ。あれはほぼほぼ勘だよ。戦闘を何回も経験していると、相手の動きがおおよそ分かってくる。そして戦士は最善動きを無意識にする」


 「だからそれを⋯⋯」


 「選択肢は一つしか見つけられないんだよ」


 「⋯⋯ッ!」


 「ナイトメアちゃんの知っているラプラスの僅かな力でも使えたら、きっと選択肢は一つに絞られない」


 「それでも、そこそこ近い」


 そんな会話が俺達の耳に届く。

 いや、俺だけにしか聞こえてないのかな? ジャックはずっとこっちを気にしている。

 俺もジャックしか見てないが、頭に残る会話だ。


 「前の瞬発力を見せてみろ! じゃないと、俺は倒せんぞ!」


 「速いなっ!」

 

 「さっきの発言はどこに言った! この程度なら、もっとギアは上げられるぞ!」


 運動エネルギーを放出する技は一回しか使えないのに、負荷が大きい。

 性能に対して代償が似合ってないのだ。

 だから、こんな挑発に俺は乗らない。


 しかし、このままではジリ貧だ。

 ジャックは技術も異質だが、強さの底も見えなさすぎる。

 かなりの体力があるぞ。


 細長く詰まった筋肉も相当なモノだ。

 簡単に貫けるモノじゃない。


 「このままやっても体力を失うのは俺か」


 「さて、日向よどうする? 勝つんじゃなかったのか?」


 「言ってくれるねぇ」


 俺は負けるつもりないよ。

 本当なら勝てるつもりでいた。

 まさか、あの必殺技を使わないと勝てない程にジャックが底を隠していたとは⋯⋯。


 やれやれ、あの発言や言動から考えられない程に頭がキレるやつだな。

 伊達にアメリカ代表探索者はやってない訳だ。


 「今から俺の必殺技を見せてやるよ」


 「ほう。期待して、良いんだな?」


 「勿論だ」


 俺は大きく息を吸って、吐いた。

 筋肉を限界まで絞り、骨を引き締める。

 ミシミシと骨を折ろうとする嫌な音が耳を掠め、悲鳴を上げ始める。


 「何を?」


 ジャックが戦慄する。

 今の俺の状態が非常に意味の分からない事になっているのだろう。


 俺の中にある筋肉をひたすら圧縮する。

 ただそれだけ。

 それだけの事だが、非常に難しく負荷がある。


 父と共に作り出した俺の必殺技。


 名前は無い。


 ただ、全盛期の肉体に戻り、圧縮された筋肉により昔の俺よりも強いだけだ。


 「日向くん。⋯⋯あの頃の日向くんだ」


 「愛梨お姉ちゃんが感動のあまり涙を⋯⋯」


 ふぅ。終わったか。


 「ジャック、俺の全力を受けろ」


 「面白い」


 ジャックが防御の構えを取り出した。

 俺は⋯⋯動いた。


 一瞬でジャックの背後を取ったのだ。

 目を見開き、笑みを崩さない様で木刀を振るう。


 楽しいんだよなジャック。

 俺も楽しいよ。


 「今の俺はスピードもパワーもある」


 どれだけ異質だろうがな、脳筋のゴリ押しに対応出来る程じゃない。

 複数使えても、中途半端だから止められない。

 純粋な肉弾戦でジャックの弱い点は、なにも考えずのゴリ押しにめっぽう弱いところだ。


 力の加え方、流し方が、愛梨よりも下手。

 だから俺が利用出来るんだ。


 「ッ!」


 「まだまだ行くぞ!」


 木刀を強打して弾き、ジャックの体勢を後方に崩させる。

 逃がす事はさせない。後ろに動かす事もさせない。

 追い込む。追いかける。踏み込む。


 一歩でも多く、一秒でも早く。

 ジャックは少しの時間があれば、どんな体勢からでも重心を整えて万全となる。


 俺達のような足が地面などに着いていないとダメ、そんなルールは無い。

 例えば手。

 手だけでも地面に着いたら立て直される。


 そんな事はさせない。

 少しでも浮いているなら、重心は直せない。

 無理矢理振るったとしても、大した力にはならない。


 「くっ」


 「防げると思うなよ!」


 木刀で防御しても、俺の力はそれを突破する。

 吹き飛んだジャックに瞬時に追いつく。

 俺は執拗いぜ。


 「甘いぞ!」


 「そうでも無いな!」


 「なんっ!」


 ジャックが攻撃した時には既に俺はジャックの背後に居る。

 霧外流の本質を忘れたか?

 自分の本能もここまでスピード戦に持ち込まれると、機能しなくるのかね。


 何はともあれ、貰ったぞジャック。


 「甘いと言ったろ!」


 「何っ!」


 木刀の先端を床に着け、強引に重心を整えやがった。

 こんなのありかよ。

 空中に居て、木刀を支えにしているだけで、臨戦態勢に戻る。


 俺の突き出した木刀にジャックの脚が絡む。

 強引にへし折るつもりか。


 武器のみの模擬戦と言う前提も、既に無くなった。

 ならば、俺も同様の事をするまでだ。


 この場には常識もスポーツマンシップも公正さも無い。

 ただ相手に勝ちたい、その思いだけで動けば良い。


 「そら」


 「んなっ!」


 俺はジャックが支えにしていた木刀を蹴り飛ばした。

 流石に、中心としていた木刀を強く蹴られたら、手から離すようだ。


 木刀から離れたジャック。

 その瞬間を狙って俺はジャックの持っていた木刀を手に取る。


 「今の状態だと俺の方が速いみたいだな」


 挑発のような笑みを浮かべながら、二刀流の構えをする。


 「陰式二刀流、陰爪」


 「来い!」


 ジャック、お前の長所は混沌とした武術だ。

 それを捨てて体術のみにした。


 その時点で勝敗は決した。


 「くっ⋯⋯面白い」


 「俺の勝ちだ」


 挟み込む様な形でジャックの首を捉えた。

 俺の勝ちだ。


 「日向の勝ちだ!」


 ナイトメアの叫びと共に俺は倒れた。

 意識が朦朧とする。


 「日向!」


 「日向くん!」


 「日向先輩!」


 「おいおいさっきまでの威勢はどうした?」


 反動が襲って来た。


 「少し、寝るかも⋯⋯ジャック、引き分けが嫌なら、また来い。いつでも勝ってやる、次は⋯⋯ジャックが、負け成績⋯⋯ぁ」


 「言ってくれる。面白い。互いに初見殺しは終わった。次は手の内を知っている状態で手合わせだ。期待していろ、俺はアメリカ代表だ。約束は守る。だから約束しよう、次もまた、苦渋を飲ましてやる」


 そう言い、ジャックは帰った。

 その時にはもう、俺の意識はなかった。

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