第66話 配信者らしい事

 「配信者らしい事をやってみたい!」


 そう切り出した俺に神楽と愛梨(リイア)がキョトンとしている。


 ここはデータ世界のカフェテリアのベランダである。

 ちなみに俺の膝にはメアが座って、フルーツ盛り合わせを食べている。

 注文したらテーブルに商品は召喚される仕組みだ。


 「そうですね。ホラゲーとか夏イベント的なゲーム実況や耐久配信が良くありますよね」


 「そうそうそんな感じ。調べてみたけどさ、意外とピンッと来るのがなかったんだよね」


 「まぁ、季節イベントなんてダンジョンにはないですからね。データ世界を動画にしてもつまらないですし」


 季節イベントなら俺のスキルに存在したりするが、神楽にはまだ言えない。

 しかし、困ったモノだ。


 最近メアに付きっきりで撮影が出来ず、日陰失踪問題が囁かれている。

 そろそろ更新しないと、モコモコに更なるヘイトの追撃が起こってしまう。

 だけど特別なネタが思いつかない。


 クランに所属した配信者がモンカドを借りて俺と似たような事を始めているし。

 ま、コンセプトを作れる程に種類が豊富とは思えないけどね。


 「探索者は耐久配信、タイムアタックなどがありますね。コラボもありますよ。本来はライバル通しのクランメンバーで集まってコラボして、実は結構人気なんですよ。この人とこの人がペアになったら強い! って言う考察のネタもありますしね」


 「なるほど」


 本来は協力しない人がチームを組んで共に戦う⋯⋯愛梨と俺はそれらしい事をしたと広まっている。

 神楽とは前にコラボもした。


 特別感はそれでもあるな。

 しかしそうなると相手だ。

 神楽しか頭に浮かばん。


 「あ、なら私とする? この三人でさ」


 愛梨が意見を出す。

 俺達は時々こうして会ったりするので、世間では仲良し三人組と言われ出している。

 クランに所属してないって言う共通点もあるし。


 「いやダメ。リイアとはまだかなりの格差があるし⋯⋯コラボしても」


 「世間は甘えだと思うでしょうね⋯⋯正式にコラボしたらリイアファンが数万人は流れ込みますよ」


 「そうそう。こっちは並んで立ってコラボしてもおかしいとか思われない存在になりたいから、やっぱりダメだな」


 「そっか」


 それに、三人ではレベル差がありすぎて調節が難しい。

 この中では愛梨が飛び抜けて高く、神楽も上級者、俺はかなり下だ。だいぶ下。


 メアが新たにフルーツを頼んだ。

 今更だが、メアは自分のスマホを持っていない。

 ならばどうやって入れているのか。


 それは、神への信仰である。

 神へ祈りを毎日欠かさず捧げる事により、俗に言う『ステータスプレート』が与えられる。

 その内容は『異世界データ』の機能が使えるだけだ。


 ただ、そのおかげでスマホを持っておらずとも、ダンジョンなどには入れるのだ。

 予想外なのは、メアもデータ世界に入れたと言う事。

 この権利は十億支払う必要がある。


 これも不思議な点だな。


 「今更なんですけど、その子はどちら様?」


 「メアはね、ナイトメアって言うの! よろしく神楽!」


 「あ、うん。よろしく」


 神楽にもメアは見えているようである。

 さて、コラボがダメとなると何をしようか。


 「データ世界に家とかを購入して、それを開拓するってのはどうですか? まだ八月には入ってませんし、一ヶ月でどこまで変わるのか、それが出来ると思いますよ」


 「なるほど⋯⋯金がないな」


 「だね」


 データ世界で何かを購入するのは高いのだ。食品などは別とする。

 それに買ってもそこまで使い道がない。


 神楽とこうやって会話するなら、わざわざ専用な場所なくて、この場所のような店で良いのだ。

 女子アピールにも繋がるし⋯⋯はは(乾いた笑い)。


 「ん〜夏休み企画で一気に人気になる人もいますからね〜」


 「神楽は何するの?」


 いっそ神楽とのコラボで新たな企画を考えるべきだと、俺は思う。


 「僕は、他の精霊魔法士達の企画がありますね。⋯⋯すみません」


 「⋯⋯神楽ってフレンド多い?」


 「神楽さん⋯⋯」


 「お二人が僕の事をどう思っていたかは分かりました。フレンド⋯⋯ってよりも同じ配信者って感じです。精霊魔法を使える人って少ないですしね」


 確かにそうだ。

 精霊魔法のメリットは強力なところだが、デメリットとして精霊が確実に必要となる。

 つまり、モンスターカードで精霊のカードが必要なのだ。


 しかも精霊がやられるとかなり弱体化する。

 神楽のような十級から育てた為に普通の魔法も高レベルで扱える人はそう居ない。

 俺も少しだけ精霊カードは持っている。


 かと言って、戦闘などで使えるやつらでは無い。


 「⋯⋯あ、そういや製作系のスキルが使えるモンスター居たな。それで武器とか造るの、ありじゃね?」


 「それはダメね」


 愛梨にダメだしを受けた。


 「な、なんで?」


 「製作系は場所を必要とするからよ。だから、製作クランって数少ないの」


 製作スキル持ちってそこそこ居そうだな。

 でも、場所を必要とするのか⋯⋯モンスターでも?


 「数が少ないら再生数は取れそうな気がするけど」


 「そうなると、日陰さんの方針⋯⋯いや、モンスターコレクターとしてはありかもですね。製作系の動画は地味で伸びにくいんですけど、技量、見せ方などで大きく変わります」


 「何かが出来る過程って、ハマっちゃうとずっと見ちゃうんだよね」


 分かる。

 俺も手作りフィギュアの動画見たりするもん。

 真似して失敗するまでがセット。


 つーか、モンスターコレクターってもう定着している感じ?

 モンスター⋯⋯コレクター⋯⋯。


 「それだ!」


 「「っ!」」


 「決めたよ! おーーわ、私の夏休みスペシャル企画を!」


 多種多様なモンスターをガチャで手に入れる俺の最大の利点。

 そして、そんなモンスターカード製造機と仲良くしたい人は沢山居るだろう。

 俺を利用したい輩は多い。


 だから利用されてやろう。代わりに俺も利用する。

 仲良く行こうぜ。


 「そ、それは一体⋯⋯」


 「くふふ、題して──!」


 翌日から俺は許可を貰ったクランに向けて飛んでいた。

 なんかメアもついて来た。


 愛梨も来ようとしたけど、今回は配信者として行くので遠慮して貰った。

 撮影したら今日は剣の修行で終えるつもりだ。


 移動用のモンスターなので、飛んでいるが安定感がある。

 課題を進める事にした。


 このデータ世界、学生に優しい。

 課題なら現実世界から持って来れるのだ。

 『宿題から逃げるな!』と言う親御さんの感情が見えて来るようだ。


 到着したらメアと降りる。


 「さて、まずはアポを⋯⋯すぐに取れそうだな」


 クラマスが現れた。

 今回来たクランは『クラフティングシーカー』である。

 数少ない製作をメインにする探索者(?)の集まり。


 「今日は撮影の許可を頂きありがとうございます」


 「いえ。こちらこそ、興味深い内容だったので」


 製作クランは基本モンスターよりも素材や設計図を欲する。

 俺が出せるのはモンスターカード。


 じゃあなぜ、ここまで快く受け入れてくれたか。

 製作スキルを持つモンスターが滅多に居ないからだ。

 それが一級とも成れば、興味が出るのだろう。


 日本最大の製作クランの撮影許可が降りた。

 それだけでも価値はある。

 ノーマルガチャで出た。


 「それじゃ、撮影しますね」


 権利を使う。

 人前でやるのは少し恥ずかしいけど、これも配信者の嗜みだ。


 「こんにちは、あるいはこんばんわ。日陰です。今日は夏休み特別企画、モンスター出張です!」


 俺の利点、強みはモンスターだ。

 モンスターコレクターなんだから、様々なモンスターが居る。

 神楽からヒントを得た。


 「この企画は様々なクランにお邪魔して、様々なモンスターと交流して貰う、そんな企画です。ダンジョンの探索だけでは見られない、モンスターがいっぱいいますよ!」


 それだけで興味は唆るだろう。


 「初の企画協力クランは⋯⋯ジャラジャラじゃん!」


 「日本最大製作クラン、クラフティングシーカーです!」


 「あ、ちょっとメア!」


 俺の見せ場!

 つーか、撮影中に出て来ないでよ。

 言っておくべきだったか。


 「やり直すか」


 「なぁ、その子は誰なんだ?」


 「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え、見えるんですか?」


 このクラマス、俺の知り合い?

 いやいや。だってここ、大阪だぜ?

 大阪の知り合いは居ない。


 「何言ってるんだ? ゴースト系のモンスターか? おめぇらも見えるよな?」


 クラマスが近くに居た人達に聞く。

 すると、みんな見えるらしい。


 「まさか⋯⋯」


 データ世界だとメアがみんなに見えるのか?

 そういや、動物園で撮った写真でもメアは見れた。

 もしかして⋯⋯ライブや配信でもメアは見られるのか?


 本当は編集でサクサクやってみたかったが。

 ここは実験も兼ねて、やってみるか?


 「あの、急遽変更して、生配信にしても良いですか?」


 「構わない。データ世界で造ってる場合、スキル依存が強い。特許技術とか秘密技術とかは少ないし、そもそも教えない」


 「ありがとうございます!」


 俺はお礼をして、ライブを告知する。

 三十分後に始める。それまでに練習しておこ。

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