第60話 謎の女の子に懐かれた

 「そいっと!」


 リザードンマンの背後を取り、倒すのも大分上達した。

 まだ、複数相手は出来ないが、一体相手なら余裕で勝てると言える。


 レアエネミーとは出会ってないので、そこだけが注意だ。

 まぁしかし、モンスター軍にかかれば問題ないと思う。


 「しっかし海王、使い道が無いな〜」


 大きすぎてダンジョンの中だと召喚出来なかった。

 もっと広いダンジョンか、エリア型と呼ばれる広大なフィールドのダンジョンなら召喚出来るだろう。

 海王の全力を出せるような、水場があるかは不明だけどね。


 シークレットなのに、使える機会が限りになく少ない。

 撮影も終えて、趣味及びAランクダンジョン攻略の目標の為、レベリングをしている。


 「水中移動のスキルを持った靴でも買おうかな?」


 そしたらリザードマンのようなスピードが出せる事だろう。

 そんな事を考えながら歩いていると、目を疑う光景に出くわす。


 「少女が一人?」


 あまりちびっ子体型のアバターを使う人が居ないので、かなり珍しいと言える。

 と言うか、それ以前に一人ってのが怪しい。


 低めランクとは言え、一人で来るような場所じゃないと思う。

 俺のような例外はさて置き。


 まぁ、一人の探索者だろうから、横を通る事にしよう。

 壁にもたれて、何を知っているのやら。

 目立った物は⋯⋯ペンダントくらいか。

 武器はないのか? 魔法を得意とするのかな?


 少しだけ気になるが、無視だ無視。

 俺が進もうとした目先、少女に向かってリザードマンが接近する。


 さすがに反撃するよな?

 なんか動かなくない?


 あ、リザードマンに気づいた。

 こっちに向かって走って来た! 戦わないの!

 ど、どうしよう?


 他人の獲物を横取りするとか、マナー違反だしな。

 でも、ただ襲われて逃げている感じしかしないし、獲物って表現もおかしいか?

 あ、コケた。


 「たすけ、て」


 「⋯⋯ッ!」


 声まで少女かよっ!

 なんでこんなところに一人でいやがる!

 保護者とか友達とか居ないのかよ!


 俺は駆け出した。


 中身も見た目も少女で、戦う意思がないなら、問題ないだろ。

 まずは初撃を弾く。


 「リザードマンの狩りは慣れたんだよ!」


 弾くタイミングに合わせて強く押して相手の体勢を崩す。

 その隙に壁キックを利用して相手の背後に回り込む。

 両手で握り、背中を袈裟斬りで抉る。


 反撃に転じるリザードマンの首を最後に攻撃する。

 これで倒せる。

 慣れた、そう言ったろ。


 「耐久ありそうなのに、案外脆いのがリザードマンの特徴ってね」


 俺は座り込む少女に近づく。


 「大丈夫?」


 「あ、ありがとうございます。女侍さん」


 服装はコートのようなローブを着てたりで、かなり洋風寄りなんだけど⋯⋯。

 ま、良いか。


 「それじゃ、こっちはもう行くね?」


 「ま、待って! 一緒に行きたい!」


 「え、それは困るよ。知らない相手だしさ。親子さんは? それともお友達は?」


 「⋯⋯分からない。何も、分からない!」


 ひし形のペンダントを力強く握り締めながら、そう言って来る。

 嘘と疑いたくないが、疑いながら相手の目を凝視する。

 嘘は⋯⋯言ってないな。


 記憶喪失?

 記憶を失っても、ダンジョンに入れる知識は覚えていたのか?

 そんなバカな。


 記憶を思い出させるアイテムってあったけ?

 あっても高そうだな〜。

 どうしよう?


 本当にどうしよう。

 警察に届けるにしても、リアルと違うから問題が発生する。

 来てもらうか?

 それが一番良い方法か。


 メッセージや電話は異世界データの方じゃないと無理だから、一度外に出る必要があるか。

 愛梨に伝えて貰う事も出来る⋯⋯友達と遊び中だし迷惑はかけたくないな。

 ここは一旦待って貰い、すぐに外に出て状況を説明し、警察に来て貰うのが良いか。


 「ね、お嬢ちゃん」


 「ん?」


 「ここで少し待ってくれるかな?」


 「やだ!」


 「迷いなき即答!」


 さて、どうするべきか?

 そもそもこの女の子、本当に探索者なのか?

 あの怯え様はまるで、この世界で生きている人みたいだったぞ。


 色々と怪しいし、あまり関わりたくない。

 もう、さっさと警察呼んで終わるか。


 「少し消えるね」


 俺は退出して、警察を呼ぶ事にした。


 「なんで置いてくの?」


 「なんでついて来るの⋯⋯って、なんで?」


 女の子は俺の後を追うようにダンジョンから出て来て、大根のように太い腕を掴んできた。

 日陰じゃない俺を一瞬で見抜いたのか?


 何者だ⋯⋯この子。


 「ね、なんで置いて行くの?」


 「なんの事かな〜」


 「むー女侍さん!」


 俺は静かにするようにお願いした。

 こんな場面をあまり人に見られたくない。

 さっさと交番に行こう。

 電話していても、邪魔されそうだし。


 交番に人の怪訝な目をくぐり抜けて、到着した。


 「すみません」


 「ん? どうしたのかな?」


 「この子が記憶喪失及び迷子のようでしたので⋯⋯」


 俺は女の子を指さしながら、ありのままを説明した。

 説明する度に警察の人は怒りの目をする。


 俺、もしかして誘拐犯とか思われてる?

 さすがにそれは無いぜ。

 それだったらわざわざ交番に来ない。


 一生懸命伝える。

 すると、怒りに満ちていた警察の顔は青ざめ始める。


 「君、霊体か何かを見れる体質だったりする? 或いはスキルが使えたりとか」


 「そんなスキルも体質もないですよ? どうしたんですか?」


 「いや。君が指を向けている所に、誰も居ないんだよ。さっきから」


 「え⋯⋯」


 俺は女の子を見る。すると、彼女も見つめ返して来た。

 次に明るい満面の笑みを浮かべる。無邪気だ。


 俺は心の中で謝りながら、頭に触れた。

 なでなで⋯⋯触れてる。

 び、びっくりしたああ。

 霊体かと思った。


 「どったの?」


 「あ、ごめん。⋯⋯ちゃんと居るじゃないですか。きちんと触れたし」


 「⋯⋯」


 「あ、あの?」


 本当にその目は何?

 まじで見えてないの?


 「このおじさんどうしたのかな?」


 「さ、さぁ? もしかしておつかれですか?」


 「いや。退屈過ぎて眠たくなってたくらいだ。一瞬で目が覚めた。その、病院に行ってみたら? 失礼だと思うけど、これは真剣なんだ」


 「えー」


 嘘、この人本当に見えてないの?


 「もしかして、認識されてないけい?」


 女の子も気づいたのか、悪い笑みを浮かべた。

 机に置いてあったお茶を持って、少しだけ中身を飲みやがった。


 「き、君。エスパーだったりする? それともそう言うスキルが⋯⋯」


 「ないです」


 「あ、あの。もう。帰ってください」


 「なんか、すみませんでした」


 俺は交番を出ると、女の子もついて来た。

 怖い怖い怖い。

 え、なに?

 もしかして俺だけ見えるなにかだったりするの?


 いやでも、道歩く人がこちらを見て来るし、きちんと問題ないと思うけど。

 もしかして、回りも見えてなくて、俺が一人で会話しているように見えて、見てきたとか?


 ありえない話では無い。

 そう言う系のラノベも一人で会話したせいで周りから変な目で見られるんだ。


 「ありえる⋯⋯」


 「女侍さん。さっきから一人でブツブツ何言ってるの? ヤバいよ?」


 「今この状況の方が非常にヤバいんだよ。後、その呼び方は止めて」


 「なら、なんて言えば良いの?」


 「まずは帰る!」


 もしも俺にしか見えない女の子だったどうしよう。

 記憶がない、実体は普通にあるし、意味が分からないよ。


 現実の人かも怪しい。

 俺を一瞬で日陰と同一視したんだから。

 すぐに出て来た、他の大人ですら俺が日陰だとは誰も思わなかったんだ。

 純粋無垢な子供でもあっても、例外では無いだろう。


 寧ろ、純粋だからこそ、俺の正体は分からないはず。

 色々考えながら、帰路に着いた。


 「誘拐じゃない。誘拐じゃない。これは誘拐じゃなくて一時的な保護だから」


 「本当にヤバいよ?」




【あとがき】

六十話、来ましたあああああ!

この気に★や♥をいただけると励みに繋がります。

多分、この子が一番設定濃いです。

まだギルマスの設定を一つ言えてない⋯⋯うぅ、言いたい。

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