第59話 ま、普通に楽しいよね

 「日陰さん、リイアさん、まずはアレに行きましょう!」


 「なんだあれ、たっか」


 「おー」


 俺達が見上げたのは、空にまで続いていそうな何かだった。

 横から伸びている棒的にウォータースライダーだとは思う。


 「落ちたら即死だな」


 「一生味わいたくない体験が出来るね」


 流石に階段とかは無く、転移で行けるようだった。

 凄く便利だ。エスカレーターやエレベーターと言う便利な物が世界にはある。

 しかし、ここではテレポートで一瞬で終わる。


 「化学の敗北だな」


 「流石に魔法には勝てないね〜」


 人気だと思うのだが、人はあまり見なかった。

 人気だと言えど、他にも遊べるような場所が沢山あるから、ここに集中していないだけか。


 お、注意事項がある。


 『心臓が弱い方でも問題なし! 完全防御されてるので、落ちる心配もないよ!』


 データ世界なら、病で歩けない人でも存分に歩けたりする。

 今どき、それもスキルやアイテムで解決しそうな事だけど。

 それでも、治せない病気は存在したりする。


 「大きな浮き輪が無料で使えるらしいですよ! 三人で行きませんか!」


 神楽って⋯⋯何歳なんだろう。

 この中で一番はしゃいでいる。

 俺も神楽並にはしゃぎたいけど、キャラがな〜。


 「ぷっ」


 「笑うなよ。⋯⋯そうだね。私は賛成」


 「良いね」


 浮き輪を置いて、三人で乗る。

 神楽が薄ら笑った気がした。


 「わーきついなーほらほらーもう少しよってくださいー(棒)」


 「ちょ、神楽! 全然大丈夫だと思うんだけど?!」


 「〜〜〜っ!」


 愛梨が顔を赤らめ、神楽に向かって親指を立てていた。

 なんか、通じあっている。


 でも、狭いから少し離れよう。


 「行きます!」


 「あ、ちょ」


 ボタンが押されて、水が強く噴射する。


 「うわああああ!」


 くっそはぇぇぇぇ!!


 現実だったら一瞬で酔ってるぞ。

 ジェットコースター並のスピードも出せるって、書いてあったし恐ろしいな。

 青空がしっかり見える。アレも作り物か。すげーな。


 「これから10分は流れますね」


 「人が少ない理由がなんとなく分かったわ」


 長い。


 まず初めに来ましたは回転ゾーンでした。

 目が回らないシステムが組み込まれており、存分に叫びました。


 「まじで落ちないのすげー!」


 「日陰さんのキャラがブレた!」


 しまった!

 愛梨はずっと沈黙して笑ってるよ。ニヤけてる?


 次は⋯⋯急速落下だ!


 「風が凄いですね」


 「ほんとね。絶叫マシンだわ」


 ぶっちゃけ、凄い怖い。

 足が少しだけ震えているんだよ。

 種類によるけど、ジェットコースターの方がまだ、怖くないよ。

 そんぐらいには急降下してる。


 「ウォータースライダーで出しちゃダメなやつ!」


 しかも、ジャンプがあった。

 道が切れてるんだ。

 怖い。


 その後、様々な仕組みがあったりして、かなり楽しかった。

 絶叫マシンを全て味わった気がする。浮き輪の上で。


 「楽しかったですね!」


 「ええ」


 「うん」


 愛梨がようやく言葉を発した。

 疲労感はあるのか。

 少し休む。


 「あ、アイス屋さんがありますね」


 「ほんとだ。メニューはっと」


 スマホを翳して撮影する。すると、詳細が見られる。

 メニューを確認する。

 スマホはどこにあるかって? 念じたら出て来る。

 谷間に入れる事は無い。入れたら粉々になってどっか行った。


 「疲労回復とか、そんな効果あるのかよ。しかも五十円」


 「半分慈善事業ですね」


 「そうだね。ここで稼いだ金は養護施設などの教育に回されるって言うし、夢の国とかよりも人は簡単に集まるし、すげーわ」


 「流石に自重されてますよね。全、アトラクションコピーしたらここだけで十分ですから」


 「ほんとそれ」


 「二人だけで会話してる⋯⋯」


 愛梨が少し拗ねた。

 各々ソフトクリームを購入し、俺が取りに向かった。

 俺はバニラアンドチョコ、愛梨が抹茶、神楽はいちごだ。


 「日陰さん。一口貰って良いですか?」


 「もちろん」


 俺は差し出す。

 スプーンを使って食べていたので、イベント的な意味合いは無い。


 「うん! 美味しいです! こっちもどうぞです」


 「ありがと。そんじゃ遠慮なく」


 俺も一口貰った。

 前髪が邪魔になり、結びたいと強く思った。

 慣れてない仕草をしてしまった。


 髪を結ぶくらい、許してくれたら良いのに。

 装備に髪飾りがあるんだからさ。


 「髪を結ぶと髪型変更に引っかかり、アバター設定に引っかかる。まじで意味わからん」


 「ん?」


 愛梨が凄く、殺意をみなぎらしていたので、神楽と同じような事をした。

 ご満悦の様子。


 「分かりやすいな〜」


 「何が?」


 「あ〜なんでもないっす」


 演技?

 神楽と愛梨も一口交換をしていた。

 見る分では最高である。


 「あ、あの!」


 「ん?」


 そんな俺達の前に男が数人集まった。

 ここはデータ世界だ。ネカマっぽい人も居るだろうに。

 正直者達だ。純粋に恥ずかしいのかもしれない。


 「俺、ファンなんです! 写真良いですか!」


 権利を持ってないのか、カメラを向けている。

 ちなみにこの人達は俺達全員好きらしい。

 ごめんね。ほんと。

 そう言う純粋無垢な心が日陰を殺すんだよ。


 俺は正直めちゃくちゃ嫌だった。

 昔から集合写真って嫌いなんだよね。

 まぁでも、これも配信者の嗜みってやつかね。


 「僕は良いっすよ」


 「私も」


 「じゃあ、どうぞ」


 「あ、一応データ貰って良いっすか?」


 「もちろんです!」


 SNS用に、写真を撮ろうとか、この後神楽が言って来そうだな。

 つーか、なんで俺が中心?


 「あ、日陰さんパーカーは脱ぎましょうっす!」


 「え、いやそれは!」


 「ファンサですよ!」


 「む、無理だから! このパーカーは魂に封印した大悪魔が⋯⋯」


 「良いでは無いか〜良いでは無いか〜」


 もう、ヤダ。


 ちなみにその後、SNS用を撮影してから場所を移動した。

 水族館に来ました。

 ここには魚は居らず、古代の生物が居る。


 例えば、目の前を泳いでいるモササウルスとか。

 水族館と言ったが、具体的に言うと、古代の生物が泳いでいる海の中を探索出来る場所だ。


 「あんなのが昔には居たんですね。怖い」


 「今なら、再現しようとしたら再現出来そうだけどね」


 「恐竜パニックだね。そう言う映画、良く見てたよね〜」


 愛梨と俺がリアルの話をすると神楽はついていけない。

 なるべくしないように気をつけているけど、気が緩むとこうなる。

 まぁ、当の本人は興味津々だ。


 あまりリアルの話をしない理由はもう一つある。

 リアルの俺は男だからだ。


 次に昔の海を体験する。

 ゴミが沢山ある。

 環境汚染が問題となっていた時期である。


 「昔の海ってだいぶ、汚いですね」


 「そうだね」


 神楽と愛梨が会話をする。

 水中のゴミを水中生物が食べる。

 昔の話だ。


 神が地球に現れた時、誰もがその存在を信じなかった。

 宗教に入っている人は偽物の神と言い、神を信じない者は鼻で笑ったと言う。

 そこで神は手っ取り早い方法で力を示した。


 地球温暖化、気候変動、などと言った『完全な害』だけを全て取り除いたのだ。

 神でしか出来ない事。

 誰もがその力を信じた。信じ負えなくなった。


 核の処理、世界平和条約、神を中心に世界は平和に近づいた。

 しかし、人間に眠る闘争本能は衰えず、寧ろ増した。

 それがデータに現れている。


 少子化も解決されたりしている。

 治療不可能、回復しない、そんな病気から回復した人も出る。

 経済回復、仕事の他にも遊び感覚に稼げるダンジョン。

 今の時代がどれだけ凄いのか、その偉大さを完璧に分かる人は居ない。


 「そんじゃ、次はどこ行く?」


 「流れるプール!」


 「良いね。行こ」


 愛梨も随分楽しんでいる。

 俺も嬉しいな。


 それから昼まで全力で遊び、体力は食べ物を購入して回復。

 昼食もしっかり食べた。


 そして夜、温泉に来ていた。

 ちなみにまだ、全てを回って遊んだ訳では無い。

 流石に並ぶ事が無くとも、広すぎて全ては回れん。


 「にしても温泉か」


 合法的に覗きが出来てしまう事に喜ぶべきか、或いは聖人ぶって止めるべきか。

 はたまた、自分も女の体だと再認識させられて絶望するのか。


 「あ、アバター性別推奨の為、水着着用はそのままみたいですね」


 「⋯⋯」


 「しかも性欲抑制とか、感情を抑制する効果もあるみたいです」


 「良かったね、日陰さん」


 愛梨の笑顔になんとも言えない気持ちになる。


 俺が女子風呂に行ける利点とか理由とか、なんも無いじゃん。

 いや待て!

 同じ中身男が居るかもしれない!


 「貸切状態ですね〜」


 「そうだな」


 「そうね」


 「日陰さん、なんか落ち込んでないです?」


 「気のせい」


 アバターの体は汚れる事も無いらしく、そのまま入浴オーケーだった。

 気持ち的にかけ湯はした。

 温泉も広い。人も居ないで泳げる。


 プールで散々泳いだし、ゆっくりするけど。


 「さすが神運営って感じの場所でしたね」


 「神ってすげー」


 「リアルのプールの利用者減りそうね」


 実際は、データとリアルでは違うので、そこまで利用者が減る事は無かったらしい。

 もしかしたら、楽しんだ感情とかもセーブされている可能性があるかもしれない。

 ま、楽しんでいる分際でとやかく言う事はない。


 俺はリアルでプールも海も行かないし。



【あとがき】

今日は19時くらいにも投稿いたします!

是非来てください!

それと次回から三章部分に入り、新キャラが登場します!

日本ギルド本部との交わりも?!

神の主催する新たなイベントとは──?

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