第58話 水着は観賞に限り最高の品である

 モコモコが謝罪をしていた。

 自分の嫉妬から起こした問題だと認め、真実をクラメンの二人と共に謝罪をした。

 しかし、日陰に向いていた世間の風はモコモコに傾き、強さを上げた。


 「活動休止、再開未定⋯⋯か」


 「当然だよ。それくらいの事はしてる。一人の探索者でもあり配信者を追い込んでいるんだからさ」


 愛梨がプンプンと怒っている。

 たしかにその通りかもしれない。


 だけど⋯⋯俺は少しだけ同情してしまう。


 「さっきから何見てるの?」


 「このアカウントの人さ、俺を擁護しながらモコモコ責めてるけど、最初は俺を責めてたんだよね」


 見事な手のひら返しだ。

 トレンドにあやがり、その場で注目を浴びれるような耳のいい言葉だけを選ぶ。

 きっと、そのような人がこの場には沢山いるんだろう。


 ちらほら、手のひら返しをしている人を見かける。

 心の奥底から怒りをぶつけている人がこの中にどれだけ居るのか、いまいち分からない。


 「いずれ、コラボ出来たら良いな」


 「え!」


 「俺の目標はリイアたんの隣に並ぶ事だぞ? 段階的にはおかしくない」


 「でも、追い込んで来たんだよ? 流石に、甘いよ」


 「神楽だって、最初はそんな感じだろ。後は仲良くなるだけ。それにさ、結局ねちっこくモコモコを叩くのは、数字稼ぎの奴らしかいないんだから」


 モコモコの炎上を餌にするための解説動画が沢山ある。

 炎上に便乗すれば、それだけである程度の再生回数は取れる。

 コメント欄もその解説動画に賛同する意見ばかり。


 次に来るのが人格否定だ。

 その個人を叩くだけで数字が取れるから、やるんだ。


 「なんともスッキリしないな。これが世界か」


 「嫌な現実を知っちゃったね」


 「そういや、リイアたんってあまりコラボしないよね」


 「実力差がありすぎて難しいんだよ⋯⋯あ、そろそろ時間だから行かないと」


 「そうだな」


 今日は終業式だ。

 一学期の終わりを告げられる。


 「長い校長の話を寝ずに耐えられるかな〜」


 「日向くん、凄く綺麗に寝てるよね。寝ているのにも気づかない」


 「無意識に気配消してるって、母さんに言われた事あるな」


 そんな事を呟きながら俺達は校門を通過した。

 愛梨と並んでも俺はモブなのか、誰も気に止めずに愛梨に視線が注がれる。


 ラノベだと、「あいつなんで隣に⋯⋯」なんて展開になる。

 しかし、俺の場合はかけ離れすぎて、知り合い関係だとも思われてない。

 ある種の凄みがある。


 他人でも、少し手を伸ばせば繋げそうな位置に居るのはおかしいだろうに。

 校門もそこまで狭くない。


 「平和な学校生活⋯⋯ボッチの学校生活。なんとも言えないな。退学しようかな」


 「そしたら容赦なく、毎日しごかれるね」


 「ははは。笑えねぇ」


 校長の長い話は気づいたら終わっており、11時には帰れるようになった。

 愛梨を校門前で待つ事にする。

 一人で帰っても良かったが、既に約束している。

 約束を破ったら、俺は当分ご飯抜きだ。


 「あ、日向くん! おまたせ」


 友達に別れを告げたのか、後ろに三人の女子グループが見えた。

 あの三人は俺よりも、データ世界では強いんだよな。

 日陰とバレる可能性もあるし、あまり関わりたくないな。


 「良いのかよ。俺と帰って」


 「大丈夫! 三人とも応援してくれてるから!」


 「は?」


 何を?


 今日は特に何かをする気にもなれず、適当な店で昼食を取る事にした。


 「なんか、デートみたいだね」


 「そうか? いまいち分からんな。どうでも良いけどさ」


 「⋯⋯良くは無いでしょうに」


 明日は神楽との約束がある。

 神楽の予定が変わり、急遽明日遊ぶ事になった。

 予定の都合が基本的に変えられる俺は問題なく、愛梨も友達とは違う日に遊ぶらしく問題ない。

 と言うを訳で明日は神が運営している巨大プールに行く。


 「プール、か」


 どんな感じなんだろうか。

 少しだけ、楽しみである。


 そんな訳で当日となりました。

 早速愛梨と共に、スマホを操作して入場する。

 データ世界の権利を使って、入る必要は無い。

 直接、その場所に入れるのだ。


 なので、三百円払う必要がある。

 中に入ると、まずは水着選択を迫られる。

 最初に目に入ったのは、スク水だ。


 「結構色々な種類があるんだな〜」


 歩き回り色々と見ているも、ビキニもある。

 紐もある。


 「うん。分かってたよ。このアバター設定、一応女になってるもんね。分かってたよ! はぁ。流石に女性物って意識すると辛いな⋯⋯」


 見ている分には最高に良いのだが、自分が着るとなったら精神的なダメージがある。

 無難にスク水にしておくか。


 「⋯⋯あかんあかん」


 何も想像するな。

 一番露出面の少ない水着を選ぶんだ。

 当たり前だろ?


 「女の子は好きな人の為に、露出させるのかね。はぁ、なんで着ないといけないんだよ。いつもの装備で良いじゃんか。データ世界なんだしさ、神の作った代物なんだしさ、ちきしょう」


 パーカーあるし、これも買っておこう。

 パーカーを上から羽織って、フード被ればある程度、ダメージは減る筈だ。


 「うっし、決定!」


 刹那、俺の目の前に半透明のパネルが現れる。

 その画面は神楽からのメッセージ通知だった。


 『これ似合っていると思います!』


 きっと、純粋な気持ちからこの写真を送って来ているのだろう。

 俺だって、自分の事を考えずに日陰アバターで考えて、その水着なら良いかもしれないと思うよ。

 でもさ、中身が俺なんだよなぁ。


 「神楽、騙しててごめん。俺、男なんだよ」


 神楽の友達としての優しさと言うか接し方が、時に辛い。

 神楽が言ったんだ。着ないのは失礼だろう。


 「はは。これが愛梨に見られるの? やべぇ。死にそう」


 もう、心を無にしよう。


 俺はそれを選んだ。


 視界が変わると、目の前に巨大なプールや高いウォータースライダーなどが見えた。

 くっそ広くて、奥が見えない。

 人の数も多いが、サーバーで分けられているので、もっと人は居るんだろう。


 「パーカーは流石に、必要だよね」


 フード被ってよ。


 「あ、日陰さーん!」


 神楽の声が聞こえたので振り向くと、髪色と合わせて、紅色の水着をしていた。

 俺よりも露出面積は少ないが、それでも多い方だ。

 ラノベやゲームだったら超絶叫あげてる。


 ルックス重視のアバターの破壊力は素晴らしい。

 俺が俺だったら、今頃⋯⋯。

 今は日陰だ。女性らしく、振舞おう。


 「お、おはよう」


 「え、なんで隠しているんですか?」


 「え、いや、だって、ね?」


 「大丈夫ですよ恥ずかしがる必要は無いです! どうせアバターなんですから!」


 アバターでも恥ずかしいモノは恥ずかしいの!

 割り切りたいけど、無理なの!

 お願い察して! 男だって気づかれるから、やっぱ無し!


 「全く。いつもの雰囲気はどうしたのよ」


 「あーーリイアさん」


 「あーーって何よ」


 愛梨⋯⋯ではなくリイアがやって来た。

 リイアのアバターの体型は愛梨から余り変わっていない。変えてないと言うべきか。

 剣術などのブレが嫌なのだろう。顔を少し変えているだけだ。


 こっそり撮影。⋯⋯あ、許可貰わないと弾かれるのか。

 プライベートがしっかりしてるよ。

 リイアオタクとして、辛い。


 水色の水着である。

 誰もスク水は選ばないか。


 「⋯⋯なんか、言う事ないの?」


 愛梨がモジモジしながら聞いてくる。


 「写真撮って良い」


 俺が本音をぶつける。


 「⋯⋯良いけど」


 不貞腐れたように許可をくれた。

 やったぜ!


 こっそりと神楽が愛梨に近づく。


 「こんな事聞いたらアレなんですけど、リイアさんって、女性がタイプなんですか?」


 「誰がそんな事言ってるのよ。違うわよ! あ、でも今はそうかもしれない」


 「ん?」


 撮影が終わったので、遊ぼうと躍起になると、二人に肩を掴まれた。

 あー怖いよ。二人の顔が。


 「はやく見せて下さいよ!」


 「そうね。私達だけってのも!」


 「や、やめへ〜!」


 俺の声は虚しく空に散った。

 ちくしょう。


 「日陰さん綺麗ですよ!」


 「アバターだけどね」


 「⋯⋯なんか、複雑」


 「私の意見だよねそれ!」


 愛梨が複雑になってどうすんねん!

 俺の水着は髪色に合わせて黒ビキニだ。


 「やっぱクール系は黒ですね!」


 神楽と俺の好みが一緒なのは分かった。


 「⋯⋯もう嫌」


 なんか、凄く恥ずかしい。

 世の女性は良くこれで遊んだり泳いだり出来るね。

 へそとか、丸見えじゃん。


 「⋯⋯日陰さんって、刀使うのに、私よりも大きくしてますよね」


 「そうかもね。おかげで足元が見にくい」


 「なんで変えないんですか」


 変えられたら、こんな胸⋯⋯どころか性別を変えてるよ!


 「あ、私は現実の体との齟齬が嫌だからって理由ね」


 「リイアさん、リアルでもスタイル良いんですね。絶対に美人さん⋯⋯日陰さんも?」


 「そうだったら、きっと私は私じゃないね」


 「ん?」


 そして、俺はモヤモヤを抱えたまま、歩き出した神楽の後を追う。隣には愛梨が居る。


 「日向くん、綺麗だよ(笑)」


 「るっせ」




【あとがき】

世界観の垂れ流し回です。次回もそうです。

次回終われば、三章に突入し、早速新キャラも出る予定です!

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