第61話 日向パパと愛梨お姉様

 勇気を振り絞り、色んな人に声をかけてみた。

 分かった事と言えば、この子は実体は存在するけど、俺以外には見えていない⋯⋯って感じだ。

 話しかける度に見つめられるあの目は⋯⋯辛かったか。


 軽蔑の眼差しから徐々にキモイ奴を見る目に変わるのは面白かった。

 殆どがこのような反応だ。

 中には、見えない女の子に触れようとした人も居た。


 だが、相手からは触れられなくて(躱されていた)、女の子からは触れられたと言う事が起こった。


 「どうするべきか。俺一人じゃ解決出来ない問題だ」


 記憶喪失のダンジョンに居た女の子なんて怪しすぎる。

 本当に現実世界に居ても良い存在かも怪しい。


 「質問券を使いたいぜ」


 これこそ、神の力を借りたいモノである。


 公園のベンチで一人項垂れる。


 「あ、あのブランコ勝手に動いてるぞ!」

 「やべぇ! 怪奇現象だ!」


 「分かんねぇぞ! あのデブ野郎のスキルかもしれねぇ!」

 「き、聞いてみようぜ」


 「お、お前行けよ」

 「い、嫌だよ」


 ガキ共の会話が聞こえて来る。

 無視で良いだろう。


 「こっれ楽しー!」


 女の子はブランコにご満悦の様子だ。

 ああ見ると、本当にただの女の子なんだよな⋯⋯。


 「あの男、勝手に動くブランコ見て微笑んでるぞ」

 「きもっ、あっち行こうぜ」


 少年共、俺も気持ちは分かるから怒らないでやる。

 俺以外に見えないなら、このまま逃げ帰っても良いんじゃないか?

 ⋯⋯それだと、拾った子を適当な場所に放置した真の最低野郎になるのか。


 「でもなぁ。施設も警察も頼りにならないってなると、どうっすかなぁ」


 そう悩んでいると、女の子が寄って来た。

 足に手を置いてくる。ちっさい手。

 俺の太ももが大きいのか?


 「お腹減った」


 「空腹感もあるのかよ」


 「生きてれば腹も減るよ」


 「ごもっとも」


 とりま家に帰るか。

 なにかあるかな?


 「ただいま」


 「おかえりなさい」


 「なんで君が言うの?」


 「今後、言うかもしれないから、その練習」


 そんな練習は必要ありません。


 誰も居ないのかな?

 いや、愛梨の気配が薄らする。


 「あ、おかえり日向くん。もう少しで晩御飯出来るから手洗って来て」


 「楽しんできた?」


 「うん。すっごく楽しかったよ。⋯⋯って、その子誰?」


 「あぁ、実は⋯⋯見えてるの?」


 愛梨が女の子を指さしながら言って来た。

 え、なんで?


 街歩く人や警察、病院の先生までこの子の姿は見えなかったんだぞ?

 寺まで行ってお坊さんにも診てもらったし、施設まで行った。

 誰一人、この子の姿を見える人が居なかった。


 なのに、愛梨、お前は見えるのか?

 この子が?

 今、お腹が減り過ぎたのか、愛梨の作った晩御飯を凝視しているこの子が!


 「状況を説明したい」


 「う、うん。私も知りたい」


 「お腹減ったよ?」


 女の子と共に手を洗い、椅子に座る。

 女の子は愛梨から許可を貰い、ガツガツ晩御飯を食べだした。


 「で、この子誰なの?」


 「ああ、実は⋯⋯」


 「このハンバーグ美味しい!」


 「ありがと」


 「実はな」


 「このスープもめっちゃ美味しい! 目玉落ちそう」


 「ありがとうね」


 「実は⋯⋯」


 「この⋯⋯」


 「ごめん少し静かに食べてくれ」


 俺がそう言うと、女の子は静かに食べ始めた。

 そして、これまでの経緯を話す。


 「日向くん。ついに⋯⋯」


 「ついになんだ」


 「誘拐犯になったんだね」


 「なってないわ!」


 酷い誤解だ!

 え、待って。

 ついに、ってどう言う事? お前は俺をどー見てんだ。

 誘拐では無い。勝手にこの子がついて来ただけだ。


 「⋯⋯ね」


 「ん?」


 愛梨が女の子に話し始める。


 「お家分かるかな?」


 「ここ!」


 「違うよね? ほら、パパとママと一緒に暮らしている場所だよ?」


 「ん〜わかんない。両親が居るかも分かんない! 保護者的に見たら、二人が両親?」


 「え、つまり私がママで⋯⋯」


 「そんな歳に見えるかよ。バカバカしい」


 愛梨が鋭い眼光を向けて来た。

 なぜに?


 両親などの記憶は無いけど、知識的な事は覚えていると。

 不思議だ。

 記憶喪失ってこんなんなの?


 「お名前は?」


 「ナイトメア!」


 「本当に、それがお名前? 漢字は?」


 「漢字はないよ。ナイトメアだよ! ナイトメアはナイトメアなの!」


 ナイトメアって。

 両親さんはどんな想いや考えで、このような名前をこの子に付けたんだ?

 愛梨も微妙な顔になったじゃないか。


 いや待て。そもそもこの子が日本人って決まった訳じゃない。

 水色の髪だし。藍色の瞳だし。


 そんな人、純日本人にも全然普通に居る!

 愛梨もそうだし。

 神が黒髪だけじゃ地味だよねって言う理由で全世界の人の遺伝子が組み替えられたのだ。

 よって、体毛や瞳の色は遺伝に近いけど、個性溢れる形になった。


 「⋯⋯ん〜美味しい〜」


 ナイトメアの本当に美味そうに食べる姿を見ると、何も考えられなくなるな。

 少しだけほっこりする。


 「なぁ愛梨」


 「ん?」


 「どうしようか。この子」


 「そうだね。他の人が見えないなら⋯⋯保護するしか無いんじゃない? 私の部屋なら誰にも気づかれないよ」


 「嫌! いくらお料理上手のべっぴんさんで、お嫁さんにしたいランキング一位及び殿堂入りしそうな貴女でも! 女侍さんの傍に居るって決めたもん!」


 「女侍言うな」


 「名前知らない」


 「⋯⋯霧外日向、データ世界では日陰だ」


 「日向パパだ」


 「パパ言うな!」


 「私は白金愛梨だよ。よろしくね」


 「愛梨お姉ちゃんだ!」


 パンっ! 机を思っきり叩く。

 静かな殺意をナイトメアに当てる。


 「なんで、日向くんが『パパ』で私が『お姉ちゃん』なのかな〜?」


 「⋯⋯この人怖い」


 分かるぞナイトメア。

 愛梨は良く分からないタイミングで怒るからな。

 怒ると同時に殺気を向けて来るからな。


 でも、一度Vになるとすごく推せるんだ。

 おっと違った。愛梨とリイアは別人だった。


 「あ、愛梨⋯⋯お姉様?」


 「ちっがーう!」


 俺達も晩御飯を食べ、帰って来た両親も食べ終えた。

 テレビを見ているナイトメア。


 「なぁ二人とも。見て見ぬふりも出来ないだろうから聞くけどさ、その子誰?」


 「ナイトメアだよ!」


 「元気の良い子だね〜日向、俺も付き添うから自首しよう」


 「私の息子がロリコンの誘拐犯だなんて⋯⋯うぅ」


 「待って二人とも!」


 俺は必死に説明した。

 信じて貰えなかった。

 幼馴染の愛梨よりも、俺を信じてくれない両親それ如何に。


 信じて貰うために、俺は近くに犬の散歩をしている人に向かって、ナイトメアを歩かせた。

 ナイトメアが犬に触るが、気づくのは犬だけだった。


 犬は見えるようだ。


 「ね?」


 「不思議だな〜それでも誘拐には変わりないだろ」


 「そうね」


 「二人はもっと俺を擁護してよ」


 愛梨含む家族会議が行われ、ナイトメアが一時的にうちで保護する事に決まった。

 医療の知識がある訳では無いので、記憶を戻す方法も分からない。


 「アイテムを買ってやりたいけど⋯⋯結構高額なんだよな〜」


 「そうだね。これを一瞬で揃える事は出来ないよ。オークションする?」


 「ん〜止めとこう。高頻度で沢山も世間に流せない」

 

 記憶を取り戻させるアイテムはかなり高額で簡単には購入出来ないレベルだった。

 気長に待つか。


 「日向〜お風呂!」


 「確かに沸いたな〜」


 ナイトメアに押される。


 「ストップ! 流石にそれは色々とまずいから、私と入ろうか」


 「えーそんなに幼くないよ」


 「じゃあ一人で入れる?」


 「日向〜」


 結果、俺はドア一枚越しで待機で妥協して貰った。

 監視のため、愛梨とナイトメアは一緒に入るらしい。


 これはこれで色々と問題な気もするけど、仕方ない。

 エゴサして時間を潰そう。


 「愛梨お姉様、身体綺麗!」


 反響したような声で聞こえて来る。


 「ありがと。お姉様は止めて」


 「おっぱいでかくて頭に当たる〜」


 「母からの遺伝だの。ごめんね」


 「あ、でも日向の方が大きいかも」


 そのまでは無いぞ?

 お腹なら俺の方が上だがな。


 「流石に⋯⋯いや、どうだろ」


 否定してくれ。


 「日陰だっけ? そっちの方が大きい〜」


 「ほんとよね〜スキルの説明文的に越えられる事は無いはずなのに」


 確かに。

 今の体よりも胸のサイズ大きいんだよな、日陰。

 よくよく考えたら意味が分からん。


 「って、平然と会話しているけど、これって日向くん聞いてるんだよね!」


 「大丈夫。俺が気にするような男じゃないのは知ってるだろ」


 「⋯⋯なんか、そうだね。うん」


 「愛梨お姉様が愛梨お姉ちゃんになった」


 リビングに戻ったら、ニマニマして何かを期待している両親が居た。

 その事を風呂上がりに愛梨から聞いた。




【あとがき】

12上段くらいにもう一話あります

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