第55話 VSモコモコ

 『今日は頑張ってください!』


 神楽から応援メッセージを貰い、俺は再び覚悟を固める。

 データ世界に入り、モコモコに指定された場所に向かう事にする。


 「日向くん」


 「愛梨? どうした」


 「頑張って」


 愛梨が手を伸ばしてくれる。

 俺は最高の幼馴染を持っているようだ。


 「ああ、俺は負けない」


 愛梨にそう伝えて、空を飛べるモンスターを召喚する。

 ノーマルガチャも回しているので、そのようなモンスターも手に入れている。


 「見ててくれ」


 既に世間ではモコモコが仕組んだ事だと、噂が広がっている。

 そんな疑われている状態のモコモコに今日、決定的な瞬間を作り出す。


 場所はデータ世界の東京タワーと言う、とても目立つ場所だ。

 なぜなら、ここは人間の視力の限界なんて関係なく、どこからでも見える様になっているからだ。

 その高さは宇宙まで伸びている。


 そんな巨大な党の下に、桃桜のクラン総出で囲まれているモコモコが居た。

 他の野次馬達もだ。


 愛梨について来て貰わなくて正解だな。

 流石に人が多すぎる。


 「それじゃ、早速始めようか」


 「もう、私の無実は証明された様なモノですけどね。これで名実共に無実だと証明する」


 「そうですか」


 俺達は決闘のフィールドに移動する。

 場所は⋯⋯コロッセオのような、典型的な場所だった。

 観客席には人がびっしり、敷き詰められている。


 「それじゃあ、始めようか!」


 モコモコがそう言うと同時に、モンスターが四体召喚された。


 「全て一級だよ! さぁ、君の公式チートのモンスターを使って!」


 「メイは⋯⋯使わない」


 これはまだ想定通り。メイを召喚してもすぐに倒される。

 この状況で全員に襲われたら、俺は勝てない。

 どうやって勝つか、凄く考えていた。


 でも、愛梨のお陰で戦い方が決まった。

 愛梨の想いも背負って、俺は勝つ。


 「なんだ?」


 俺のイメージカラーとはかけ離れている純白の鞘に入った刀。

 俺はそれを抜き取る。


 「なっ!」


 「嘘だろ!」「あれって!」


 観客も騒ぎ経つ。

 それはそうだろう。

 なぜなら、俺が取り出した刀は『虐滅刀』なのだから。


 「悪を倒し、弱者を守る⋯⋯使わせて貰うぜ」


 俺は小声でそう言う。


 「は、はん! それがどうした! この数と質の前に、単身で勝てる訳ないだろ! 行け! モンスター達!」


 「モコモコ、貴女のレベルは432、対して私のレベルは43、十倍もの差がある」


 モンスターが迫って来る。


 「虐滅刀は敵が自分よりも強ければ強いほど、数が多ければ多いほど、その性能を上げる」


 これほどまでのレベル差が存在すると、使用者のステータスにも影響を与える。

 今の俺は、レベル四百代にも届く身体能力と一級のモンスター相手にも引けを取らない火力を出せる。


 弱い人が使えば使うほど、虐滅刀は輝くんだ。

 愛梨と俺の流儀は同じ、日陰の状態なら尚更一緒だ。


 「はっ!」


 俺は複数の斬撃を浴びせながら、モコモコに接近する。

 あれだけではモンスターは倒せなかったか。

 素のスキルが足りずに、やはり愛梨クラスまでは火力は上がらない。

 逆に言えば、そのおかげで身体能力向上率が上がっている。


 モコモコに一太刀入れられる距離まであと少しだ。


 「なっ! そんなの、卑怯だろ!」


 モコモコが取り出したのは鞭だ。

 それを放って来る。


 鞭相手に戦った事は無いが、柔らかい物を弾く感覚は知っている。

 鞭の攻撃を弾く。

 さらに加速して間合いを詰める。


 「舐めるなよ! 〈高速連打〉」


 「もちろん、ずっと警戒しているさ!」


 数は⋯⋯六か。

 かなり多い。

 それでも、俺には届かない。


 少しだけ、身体能力は相手の方が上か。

 モンスターが迫って来る。


 モンスターを使っても良いが、そうすると虐滅刀の性能が下がる。

 火力が下がると、俺自身も弱くなってしまう。

 しかも、使うモンスターの性能によっては、身体能力まで下がる可能性がある。


 だから、なるべくモンスターは使いたくない。

 先にモンスターを倒すべきか?


 「余所見するな!」


 「土魔法!」


 情報収集は怠ったつもりは無いが、知らなかったぞ。

 魔法を使えるのは知っていたけど、土は知らない。


 土の壁が周囲に出来上がり、俺の退路を塞ぐ。

 しかも、上からは鞭が伸びてくる始末だ。

 あんな動き、普通はできないぞ!


 「データだから普通なのか」


 まぁ良い。

 俺は元々、虐滅刀を持っても愛梨ほどに手数は増えないと思っていた。

 連撃系のスキルが足りないから。


 連撃系のスキルがないから、攻撃数が減り、手数が少ない。

 ならばどうすれば良いか。

 移動中考えた。


 簡単だった。

 手数が少ないなら増やせば良い。

 俺の手は二本ある。


 「新たな日陰のお披露目だ」


 俺は普段使っている黒い刀を取り出した。

 そして壁をよじ登る。

 リザードマンのダンジョンのお陰で、壁を歩く感覚が最近染み付いている。


 「使わせて貰うぜ!」


 刀と足を駆使して、鞭を足場としてモンスターに向かって加速する。

 一体のモンスターに集中する。


 大きな鷹のようなモンスターだ。


 「陰式二刀流、影爪えいそう


 俺はクロス斬りのような形で翼に攻撃を浴びせる。ぶっちゃけそれだけ。

 すぐさま怯んだモンスターの背中に乗り、強く蹴りながら跳躍する。


 「なんだあれ!」「二本の刀持ってるぞ!」「二刀流か!」


 外野がうるさいな。

 モコモコも驚いている。

 なら、案外良い成果なのかもしれない。


 まずはモコモコだ。

 お前をバトル的に追い込む。


 「二本になったからって、なんだって言うんだ! そらっ!」


 すごい動きで鞭が伸びて来る。

 なんでドリルのように回転しながら、本数が六本に増えて、様々な方向から来るんだよ。

 ずりぃだろ。


 「だけど、それならまだ行ける。陰式二刀流、影縫い!」


 高速で複数の突きを繰り出すだけの技。

 そもそも陰式流は俺の我流であり、日陰アレンジを加えたモノだ。

 霧外流の派生と考えているので、本質は一緒。


 気配を殺し、暗殺するための技術。

 今の状態では、流儀関係ない、ただの高速の突き技だ。


 霧外流の極地、振るう刃すら霧のように認識させない⋯⋯は出来ない。

 それはリアルでも一緒。そこまで技術は上達してない。

 免許皆伝レベルだ。


 「全て弾かれた!」


 「虐滅刀が無かったら、ここまでのパフォーマンスはでになかったな」


 元々は違う方法を考えていたが、出来るかは怪しかった。

 って、空中にずっと居るとやばいか。


 『ぐええええ!』


 「来るよな」


 さっき翼を攻撃したが、切り落とせてはいなかった。

 そのせいでご立腹だ。

 厄介なのは、ここからだよな。


 「〈攻撃補助〉〈舞えよ強化の桜ダンス・キルシュバオム〉」


 桜の花びらがフィールドに撒き散らされる。

 この花びらは味方の全パラメータを強化する力がある⋯⋯って動画で言ってた。

 パラメータと言うシステムが目視では確認出来ない。

 なので、正確には身体能力が上がるのだろう。


 それを証明するように、鷹のスピードが急激に上がった。

 しかも、攻撃力が上がるバフも貰っている。


 モコモコの役職はバッファーだ。

 バフを味方に配るのを得意とし、本来タイマンをするような戦闘スタイルじゃない。


 しかし、彼女は別だ。

 広範囲に平等の強力なバフを配れるし、エリア型なので自分にもバフは適応される。

 バッファーとしてとても優秀であり、一級モンスターが加わればそれは、価値はさらに上がる。


 メイと組ませたら、どれだけの化け物軍団が登場するのか、想像もしたくない。

 だけど、メイだけでは意味が無い。


 もしかしたら、彼女の狙いはメイか?


 「考えている場合じゃないか。悪いが、それならまだ対処できる範囲だぞ!」


 グルンと前周りで回避して、相手の背中を切り付けた。

 身体能力が上がっているおかげで、黒い刀でも傷を与えられた。

 しかし、虐滅刀よりも深くは無い。


 「甘いな!」


 「なっ!」


 回避したタイミングで足を鞭に掴まれた。


 「〈オーラ付与〉」


 「それは前線で戦うような人が使うスキルだろ」


 〈オーラ〉〈覇気〉と言ったスキル達は物理攻撃でモンスターを倒し続けて、100レベルに到達すると手に入る。

 購入不可。

 俺が今、欲しいスキル。カッコイイから。


 性能も良いしね。


 「落ちろ!」


 地面に向かって叩きつけられる。

 瞬時にクロス斬りで地面を叩き、衝撃は和らげた。


 「邪魔だよ!」


 斬ろうとしたら逃げられた。


 「しまっ!」


 俺の背後に大きな熊の影が現れる。

 モコモコ本人が所持しているモンスターだ。

 そして、無防備の俺に巨大な手が振り下ろされる。

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