第54話 ジャックと取引

 俺は今、Pランクダンジョンに来ている。難易度的には中であり、俺のレベルで来て良い場所では無い。

 ではなぜ、ここに来ているのか。


 理由はポイント集めだ。

 残り僅かな時間でレベルを上げても意味が無いし、間に合わない。

 ならば、一枚でも強いモンスターカードを手に入れるべきだと考えた。


 俺が徒歩で行ける範囲の中で一番ランクの高いダンジョンが、ここだった訳だ。


 「全力でいくぜ!」


 俺はメイを呼び出して、メイド達を召喚して行く。

 追いガチャと言うか、戦力増加のためにガチャを引きまくっていた事もあり、今では一級メイドは百枚を超えている。


 二級以上のメイドが全力でポイント集めに向かう。

 俺がメイドを召喚して使ったら、メイのバフが受けれなくなる。

 そのため、俺はメイ以外のメイドを召喚しない。


 「レベルも少しは上げた方良いんだろうけど⋯⋯」


 上げても付け焼き刃に過ぎない。

 俺の勝ち筋はモンスターに委ねられている。


 夏ガチャの一級を三体召喚し、護衛に配置しておく。

 俺はモコモコとの戦いを考える事に集中する。


 相手は大型クランだ。

 クラマスであるモコモコが一枚、一級を持っていたとして、メンバーも持っている可能性がある。

 その場合、メンバーから借りれば、一級は四枚揃う。


 権利の使用が出来ないだけで、他は縛られてはいない。

 つまり、メイは普通に使えると言う事。

 何かしらの対策はしているだろう。


 メイはぶっちゃけ、召喚途中でも倒せる。

 キューブに括り付けられて出て来るので、その時に攻撃を軽く当てるだけで倒せるのだ。

 その事に気づいている可能性は十分にある。


 それに、メイは動けない。

 護衛をつけないと危ない状態だが、戦闘の衝撃波だけでも死ぬ。


 「メイを使わないと勝てない。だけど、メイを召喚出来るチャンスがあるか⋯⋯」


 何かないかとショップを探る事にした。

 このままでは俺は負ける。その可能性が非常に高い。


 「そもそも、これって意味あるのかよ。結局、やってることは武力行使なんだよな」


 既にモコモコを疑問視する人が増えている。

 完璧に大逆転したい。


 「勝つ⋯⋯必要はあるのか? 目的を見逃してた」


 俺の目的は、自分の潔白を示す事だ。決して、モコモコに勝つ事じゃない。

 そのためにはどうするべきか⋯⋯あれが全て、モコモコが考えて行使した作戦だと、自白させたい。


 「自白剤が効くか? そもそもあるのかな?」


 そんな道具を使ったら、洗脳したと勘違いされる可能性もあるか。

 どうやって、相手の意思で自白させるか⋯⋯それが需要か。


 洗脳か、催眠か、幻覚か、幻聴か、何をすれば自白させられるんだ?


 そして俺は一つのアイテムを見つけられた。


 「⋯⋯高いな」


 金がない。

 どうしようか。


 「見つけたぞ日陰」


 「貴方は⋯⋯ジャック」


 「ほう、俺を知っているのか。さすがはこの俺ジャックだ」


 ジャック⋯⋯リアルとアバターを一切変えてないから、一瞬で分かる。

 前にあった時と声も同じだし、余計に分かる。


 「なんですか?」


 「この俺が来ているんだ。分かるだろ。お前をアメリカにスカウトしに来たんだ」


 「なら、お断りします」


 「俺は知っているぞ。世間を賑わせている、探索者狩りの真相をな。日陰が返り討ちにした事実をもだ。信じる信じないの話では無い、知っているのだ」


 俺の話を信じている訳ではなく、起こった事柄を知っていると。

 ⋯⋯なんで?


 なんで知ってんの?

 あの場に、居なかったのは確かだろう。

 なのに、なぜ知っているんだ?


 「疑問に思うのも無理は無い。その理由も含めて、アメリカに来ると言うなら、教えてやろう。アメリカでの待遇も約束する」


 「お⋯⋯私は英語、喋れない」


 「俺との会話がどうやって成り立っていると思う? スキルだ。言語翻訳スキル。相手が一番聞き取りやすい言語となり伝わる、その逆も然り。20億だが、それはこちらで負担する」


 「アメリカでの待遇⋯⋯ですか」


 ぶっちゃけ興味が無い。

 俺は今に満足しているのだ。


 「衣食住は勿論、望めば女も手に入るさ」


 「いや、私は⋯⋯」


 「お前は女の方を性的な目で見ているだろ」


 「恋愛的な視線って言って。なんでそう思ったんですか?」


 純粋な興味本位。


 「リイアに向ける目が、猿のそれだった!」


 「失敬な! 推しへの愛はそんな薄汚れたモノでは無いわ!」


 あ、素が出た。

 演技演技。


 「それ以外にも、当然金、学歴、頼めば色々と手に入るし改竄できる」


 「その代わり、モンカドを提供しろと?」


 「ああ。それもあるが、情報が欲しい。詳細な情報がな。もちろん、アメリカは秘匿する。クランは俺のクランに入って貰うが、上下関係は気にするな。ダンジョンへの融通も約束しよう。不便な思いはさせないと誓う。配信も続けて良い。今のような事には絶対にならない」


 つまり、悪意を持って炎上させられような、事は無いと。

 アメリカの方が安全安心で最高な生活が送れるから来い⋯⋯と。


 「それでも、私はアメリカには行きません。いくら、貴方の頼みであっても」


 「ほう、またなんで?」


 「私が⋯⋯日本が好きだからです。私はアニメや漫画、二次元的なモノが凄く好きだ。推しが居る日本が好きだから。外国では、最先端のオタ活は出来ない。日本だから、私が私で居られる。だから、どんな理由があろうとも、どんな褒美があろうとも、私は日本に居る」


 「なるほど。その決意、受け取った。今日のところは引き下がろう。だが、我々アメリカは諦めない。その事を忘れな。しかし、約束しよう。無茶はしないとな。関係は良好で行こう」


 そう言って踵を返すジャック。

 こいつには権力があり、探索者としての力もあり、現実でもフィジカル的強さがあり、金がある。

 様々な力を持っている。


 「ジャック」


 「ん?」


 「取引しないか」


 「ほう」


 ジャックが面白いと、言わんばかりに口角を上げる。

 オークションじゃ難しい。知り合いに売りたいとも思わない。

 だから俺は、ジャックに売る。


 こいつなら、問題ない。

 金がある。俺との関係も良好で行きたい。

 だったら、この交渉は絶対に受けてくれる。


 「実は、凄く今お金が必要なんです。モンスターカード、それも私の持つ中でかなり強いカードを四枚まで差し上げます。百億、くれませんか?」


 「四枚を百億で売るのか? 単純計算で二十億の損が生じるぞ?」


 「これが私の示せる覚悟って事です。アメリカに対する⋯⋯良好的に行きたいんですよね?」


 「嘘を言う。これはアメリカとの取引ではなく、俺との取引だろう。国絡みだと、流石に内容が薄い。しかし、それもまた面白い。本当は情報が欲しいが、警戒しているだろ? 支部ギルド長に聞かされているだろうからな」


 シャックのユニークスキルはスキルをコピーして手に入れる力。

 その詳細は不明だけど、情報を求めるならきっと、それが条件となっているのだろう。

 俺のガチャスキルの詳細を知っているのは、俺と愛梨のみ。


 「面白い。何をするかは知らんが、買えると言うなら買おう。メイとか言うメイドを、買わせてくれるのか?」


 「あれは複数のメイドモンスターカードを持ってないといけません。メイだけでは不十分。だから、純粋なモンスターを売ります。メイドは売りません」


 「そうか。まあ良いだろ。この取引が後々、良き方向に行くと祈っておこう」


 俺達はフレンドになり、取引を完了させた。

 資金は揃った。

 後は練習あるのみ。脳内シュミレーションだ。


 「今度こそ、さらばだ日向!」


 「ああ、じゃあなジャック⋯⋯って、ぇぇえええ!」


 ジャックは笑いながら消えやがった。

 しかも俺も最後、素で話たし。

 やばい。追いかけないと⋯⋯追いかけてどうする?

 俺だって証明するようなもんじゃないか。


 「あいつ、いつから俺の正体を掴んだ?」

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