第53話 この流れにしたかったのか?
互いに一歩も引かないまま、平行線の会話は進んでいく。
しかし、野次馬であるライブの視聴者達はコメントで混沌とした会議をしている。
俺が与えた疑問、誰が撮ったのか、なぜ他の写真は無いのか、被害者は誰なのか、様々なところを突いた。
神と言う人間の領域を超えた存在が作り出したモノだ。
ログと言う、素晴らしい機能がある。
俺は一度、ログによって名前を変える事にすごく焦っていた。
苦しめて来た『ログ』と言うシステムを今回、俺は武器にしている。
文面であり、神が作り出したシステムだからこそ信用性は高い、確実なる証拠だ。
なぜ、その被害者を確定する証拠を未だに出さないのか。
被害者本人が「嫌だ」と言っている、設定にしてしまえば確かに、出す必要は無いだろう。
しかし、疑問の炎はそれでは消えない。
何よりも、モコモコのおかしいな所⋯⋯それはギルドに報告しない事だ。
俺は現在、ギルドに所属している。
俺の問題行動はまず、ギルドに報告するのが普通である。
しかし、モコモコはそれをしないでネットに晒し、俺を炎上させた。
理由は具体的に分からない。
自分のような高貴な存在が誘ったにも関わらず、断ったからか。
それとも、純粋に日陰と言う存在が邪魔だったから。
理由はなんでも良いだろう。
とにかく、俺はモコモコに狙われている、それだけだ。
「なぜ、襲ったと言う事実を認めないんですか? 被害者に、悪いと思わないんですか?」
メガネ越しに見える相手の目は、徐々に怒りに染まっている。
「悪い⋯⋯ですか。確かに、壊してしまったのは申し訳ないと思いますよ。謝罪を望むなら、明確に、こちらを攻撃して来た理由を聞いてからですね」
「あくまで正当防衛と言い張るつもりですか」
「言い張る⋯⋯と言うよりも事実ですので。事実を私はそのまま、言っいるのですよ。襲った襲った、壊した壊した、そればかり。探索中なのは、ダンジョンに入っているから、そう言う言葉を使っているに過ぎない⋯⋯ですよね?」
探索中に襲われた⋯⋯もっと詳しく俺がまとめると、こうなる。
日陰を探索中に発見、攻撃を仕掛けて来て、襲うように仕向けた、反撃されてアバターが壊された、襲われた。
そんな感じだろう。
意味が分からないって? 俺も良く分からない。
無理矢理繋げただけだからね。
「壊されたのも襲われたのも事実かもしれません。でも、それは貴女が仕組んだ事だ。その事を認めてください」
「そんな証拠がどこにある? 貴女の言っている事は先程から嘘ばかりだ。なんの証拠もない」
「私の発言が嘘と言える証拠もないですよね? 私の発言を『嘘』だと断言出来る人はこの場に居ない。それは貴女にも私にも言える事」
「こちらは被害者⋯⋯」
「貴女が被害者な訳じゃない。被害者から話を聞いて、管理者として代理人として来ているに過ぎない。あたかも、全てを知っている風に語らないで貰いたい」
コメントが流れていく。
俺をずっと非難していたコメント郡だったが、徐々にモコモコの不自然さを疑い始めた。
誰もが普通と思う事をしていなかったのだ。
当たり前だろう。
焦り、そのような感情から相手の目から分かる。
この場はモコモコの不利になり始めている。
場を逆転させるために、ここにいる桃桜メンバーで俺に総攻撃を仕掛ける場合、品位を落とす結果となる。
敵陣へと乗り込んだ日陰に対して、ピンチになったからリンチにしたモコモコ、前提の理由がどうであれ、この結果は大きく左右する。
モコモコの自尊心の高さは容易に想像出来る。
彼女は俺に対して『二度も』と口にしていた。
それだけで、一度断られた事を根に持っいる事に他ならない。
自分が誘っているのに、断るのはおかしい⋯⋯そう言いたいかのような自尊心の高さ。
悪いとは言わないさ。ただ、それで面倒事を起こさないで欲しい。
「貴女には疑うべき点が沢山ある。一つの少ない証拠で私を攻めるのは良いですけど、もう少し賢くやったらどうですか?」
「なんだって?」
「貴女のせいで、何万人と言う人が不快な思いをしているんですよ」
「ん?」
分かってないのか、それともそう言う演技なのか。
俺には判別が出来ない。
しかし、やはり本人にはこれを言わないと気が済まない。
俺の方が徐々に有利になり、心に余裕が出来た。
「今回の事とは全く関係ない、私と親しくしてくれた神楽や、私の推しであるリイアさんにヘイトが向いた事ですよ! ご本人も不快になるし、ファンだって不快だ!」
「だから⋯⋯」
「だからなんだとは言わせない! ギルドを通して解決すれば良い話だ。それでも私は正当防衛と主張する! 事実だから! 今回、私を陥れる為に、ネットに晒した。その結果が神楽やリイアさんの二次被害だ!」
その人達も見に来ていたのか、賛同するコメントが沢山見られた。
そうだよな、我が同志よ。
俺とは全く関係ないのに、飛び火で炎上するなんておかしな話だ。
とにかく、それが許せない。
「辛い辛いと貴女の口から聞いても、意味が無い。なぜ、被害者を教えない! 晒すのが嫌なら、私だけにログを見せれば良いでしょうが。それすら、恐れた」
「何を⋯⋯」
「一度整理しましょう」
私は深く椅子に座る。
「私は撮影終わりだったタイミングで二人のペアに襲われた。一人は二丁拳銃、一人は双剣だ。二人とも、スキルを使わず、全力を出さずに、一定距離を保ちながら私を追って、攻撃して来た」
その時点で分かる事が一つ、俺よりもレベルが高いと言う事。
しかも、かなり。
「そんなレベルの探索者がなぜ、二人だけで、私が居たTランクダンジョンに居たんですか? 桃桜のクランホームともかなり離れているのにも、関わらず」
Tランクダンジョンに入った証明なら、ログで可能だ。
「私は交戦を避けて、逃げた。私に攻撃を当てる気がなかったのか、銃弾は明後日の方向に進み、当てる気は無さそうだった。そして、他の探索者が巻き添えを受けそうだったから、私はその人達を倒した。撃たれたのでね、反撃しました」
事実をそのまま伝える。
俺が自ら攻撃した訳では無いこと、巻き添えを受けてしまう探索者が居たことも。
それでも「違う」と言い張るのはモコモコには出来ない。
だって彼女は、その現場を見た訳じゃないから。
いくら被害者から聞いたとしても、モコモコの口から出ているのは、彼女がその場で作った嘘かもしれない。
どうする?
俺がネットでいくら言っても聞く耳を持たなくても、本人との対話で信憑性を高める。
この場で俺を断罪したかったかもしれないが、俺がそれを利用する。
そもそも、この場を用意しのも、最近の特定班が真実に近づいてきているから、焦ったのだろう。
いくつもの綻びが浮き彫りになれば、モコモコが『悪』となる。
それを防ぐために、素早くこの場を用意した。
俺が『謝罪』して、自分が悪いと認めさせたら、特定班がいくら何をしようとも意味が無くなるから。
本人が認めているのだからな。
しかし、俺は認めない。
どれだけ、ネットで誹謗中傷されようが、関係ない。
俺がたった一つ、『俺と日陰は別人』と思えば暗い気持ちなんて出ない。
どうするよ、モコモコさん。
アンタの負けだと思うぜ。
何が目的だったかはこの際どうでも良い。
関係ないところでリイアたんや神楽が叩かれた⋯⋯その事実が一番許せないんだよ。
認めろ。
全部、お前が仕組んだって事をな。
「⋯⋯このまま話し合っても、平行線。こうしませんか?」
「ん?」
「一週間後、代表同士の一騎打ち、権利の使用禁止、その他の制限無し⋯⋯で」
「ふざけないでいただきたい。その場合、レベルもスキルも私の方が低いんですよ? 勝ち目なんてない」
「貴女には、常識に囚われないモンスターカードがありますよね? 十分フェアな気がしますよ?」
コメント欄も増長し始めた。
そんなにバトルが見たいんか?
「口で決まらないのなら、武で決めましょう。きっと、正しい方が勝つんですから」
どんな理屈だよ。
「⋯⋯分かりました。私が勝った場合、被害者と当時のログを確認させてくださいね」
「ではこちらは、誠心誠意の謝罪を求めますよ」
そして、俺は帰った。
なんか腑に落ちねええええええ!
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