第50話 ライブ配信はダンジョンで

 俺はライブを初めて、最初で話す事を話したいと、来た人達に向かって伝えた。

 当然、罵詈雑言が返って来て、俺の行為を認める人は誰一人としていなかった。

 だけど、この場では認めて貰う。


 その為のダンジョンだ。


 「誘い込んだ形ですが、少しばかり、従って貰います」


 この場はメイによって大量の一級メイドに囲まれている。

 そんな場所で暴れてはいけないと、分かって貰おうか?


 軽く脅すと、黙ってくれた。


 俺はライブを初めて、人が来てから、自分の口であの日の事を語り出す。

 コメントでは、信じてくれる人のコメントはすぐに上に行き、俺を叩くコメントだけ残る。


 それでも俺は語る。

 そして、重要な事を言う。


 「今回の件に関して、リイアさん並びに神楽さんは一切の関係がありません。私との関わりがあるからと言う浅はかな理由で、彼女たちを貶める様なマネは、絶対にしないでください」


 そして、今から始まるのは、質問会だ。

 マスコミとかも徐々に来るだろう。

 人が増えていく。


 「まずは、誰から聞きますか? 私は嘘は言いません。結局、誠、嘘と決めつけるのも、あなた達だ」


 「じゃあ俺から! 探索者を襲って、これからも続ける気?」


 襲って⋯⋯か。

 俺から襲った前提での話だな。


 「私から襲った事実はございません。先程もお話しましたが、襲われたので、反撃したのです。これからも探索者としては続けるつもりです」


 最初はリイアたんにプレゼントをあげるために、配信者始めた。探索者は金稼ぎだ。

 でも、今は純粋に日陰と言う存在を、配信者をやりたいと思っている。


 それから一時間程、質問会は続いた。


 リイアたんの隣に立っていても、おかしくない存在になりたい。

 探索者としても、高ランクのダンジョンを攻略してみたい。


 新たな世界を見たからこそ、新たな目標が出来ている。


 「返り討ちにしては、やりすぎでは?」


 「あの時は、私の背後に戦っていた探索者がいました」


 「守る為に倒したって事? それ、ただの言い訳じゃん」


 「そうかもしれません。ですが、あの場を知らない人に偉そうに言われる筋合いは無い」


 「あなた、反省してるの?」


 反省?

 なんで反省しないといけない。


 壊した事に後悔している。

 こうなっているからな。


 だけど、俺は悪い事をしたとは思ってない。

 襲われたのは事実だし、反撃したのも事実だ。


 「反省? してませんよ。謝罪もしません。私は自分が悪い事をした、そう思ってはいません」


 「自己中すぎんだろ! お前は二人のアバターを破壊しているんだぞ! 自分の自己満のために、人を傷つけて、良いと思っているのか!」


 「それは相手に言ってください。確かにやりすぎたと思ってます。ですが、あの時、ああしていなかったら、彼らは私を倒していた」


 「嘘を言うな!」


 「嘘と決めつけないでいただきたいんですがね⋯⋯」


 俺は攻撃的な姿勢を見せる。


 「私が自ら、人を襲った証拠があるのですか? 確かに、倒した決定的な瞬間の情報が出回っておりますが、私から襲った証拠は出てませんよね?」


 ま、こんな事言ったって意味が無いけどね。


 『日陰が探索者を倒した』と言う事実は存在する。

 しかし、どちらが襲ったかは結局、証拠は無いのだ。

 ただし、被害者がそう言う事で、被害者の味方をする人が真実だと盲信する。


 「私は事実しか言っていない。だけど、私がいくら言ったところで、君達は私の言葉を信じない」


 「だったら、この場なんて意味は無かっただろ」


 「バカじゃないのか?」


 「そうかもしれない」


 確かに、こんな時間は酷く、無意味なのかもしれない。

 世間的には、さっさと謝って身を隠せば良いと思うだろう。


 さらに言えば、俺の広まっている見た目はアバターなので、変えてしまえば逃げられる。

 だけど、俺はそれをしない。いや、出来ない。


 俺はアバターを変える事が出来ない。

 配信者を辞めたとしても、この見た目がずっと足を引っ張るだろう。


 何よりも、俺は間違った情報を世界に与えたくない。

 モコモコがしているのは、俺を堕とすための行動だ。


 イベントを断ったのも、クランへの誘いも断ったのも、彼女のプライドを攻撃した行為なんだろう。

 俺は配信者として甘く、このような事態になった。


 「未来を考えて行動していたら、もっと違う選択肢があったかもしれない。だけど、人間そんな優れてない。未来は誰にも分からない」


 「何を⋯⋯」


 「私は、リイアさんが、リイアたんが好きだ。ずっと、追いかけて来た」


 「急に何言ってんだよ!」


 「彼女は、曲がった事が嫌いだ。弱者を攻撃する事を、何よりも嫌う。弱者を守るのが、彼女の信念だ」


 「だから何を⋯⋯」


 「私はそんな彼女が、悲しむようなマネは絶対にしない!」


 俺のライブを見てくれているリイアファンなら分かる筈だ。

 彼女の動画を追いかけて、沢山見ている、真のオタクなら。

 俺がリイアのファンを公言してまで、語る言葉の重みを。


 「だから言おう、私は間違った事をした覚えは無い。探索者を攻撃したのは事実だ。アバターを破壊したのも事実だ! 対して、私が受けたのは腕に一発の弾丸だ」


 つり合わないダメージ。


 「反撃にしてはオーバー過ぎるのかもしれない。撃たれたのも、守ろうとしたつもりだったからだ。だから冷静に位置関係を考えて欲しい」


 教室で俺はヒントと覚悟を得た。

 少しでも俺を信じてくれる人の存在を、きちんと自覚した。

 俺のせいで、リイアファンや神楽ファンが不愉快な思いをしている。


 リイアファンの俺だから、その思いは痛い程分かる。

 俺がなにかしないと、この状況は何も変わらない。

 ネットでファンやアンチ達の無謀な論争が続くだけだ。


 「撮影権利を持っている人なら分かる筈だ。例の写真、私とモンスター、そして被害者の位置を。考えられる距離を!」


 そう、あの写真には違和感が複数個存在する。

 まずは角度だ。


 あの角度で撮影する事は可能だけど、一切のブレが無かった。

 あれは固定カメラで撮っているようなモノだ。

 でも、ダンジョンにカメラはない。


 だけど、権利はある。

 権利があれば、探索者がカメラとなる。

 被害者があそこまで正確に撮影は出来ない。


 何よりも、距離だ。


 俺や被害者では、俺、モンスター、被害者、全てを写した状態で写真は撮れない。

 そこで生まれる当然な疑問、脆い真実の綻び。


 『誰がこのピンポイントの場所を撮影した?』


 さらに言えば、決定的な瞬間のみしか出てないのも違和感がある。

 まるで、そのタイミングが来るのを待っていたかのように。


 「伝えたい事は言いました。質問も⋯⋯同じような内容ですかね? 確かに意味は無い。今日はこの辺で終わりましょう。最後にもう一度言います」


 深呼吸する。


 「私は自分が間違った事をしたとは思ってない。事実だけは認めます。ですが、悪意を持って、彼らを攻撃した事実は絶対にございません」


 意味のある時間だったかは分からない。

 でも、俺の考えは世間に広まっただろう。


 火に油を注ぐ行為だろうと、必ず何らかの結果は生み出す。

 疑問の種は与えた。


 それが実るか、回収されるかは、相手の出方次第だろう。

 俺は家に帰った。


 「日向くん。見たよ」


 「ああ。結構、疲れた。ハゲそうだよ」


 「安心して、私が支えるから。晩御飯、食べに行こ」


 「ああ」


 俺を追って出て来る人が多くて、歩道が埋まり始めた。

 その調整なのか、違うところからかも人が出て来る。

 当然、誰も日陰の存在を見つける事は出来ないでいる。


 愛梨に話しかける人が数人居たけど、声が全然違う。

 幸いなのが、リイアファンが居ない事だった。


 「リイアたんのファンが居たら、愛梨の声だけで気づく」


 「日向くんは気づかなかったけどね(半ギレ)」




【あとがき】

50話到達!ありがとうございます!

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