第49話 勇気を貰ったよ

 教室は、普段よりも慌ただしく騒がしかった。

 誰も彼もがダンジョンネットニュース、DNNを見ていた。


 「ついに本性出したって感じだよな。そもそも、あんなにモンカド持ってるのに、自重していたのがおかしいんだよ」


 「本人も慣れたって感じじゃないか? 神が人間に与えている力だってのに、人様を襲うのに使うか? 頭やべぇだろ」


 などなど、日陰への誹謗中傷が多かった。

 そこまで情報は与えられてないのに、DNNでは大きく取り上げられていた。


 有名配信者、日陰がモンスターを使って、探索者を攻撃した。


 そんなタイトルの記述だ。

 内容はとにかく広げようとしている感じだった。


 日陰は今回の事を認めようとはせず、否定を続けている。


 俺の投稿した文章は掲載されずに、その事だけを言ってる。

 これは、モコモコのメンバーが完全な被害者として、俺は加害者と言う前提を世間に与える。

 なぜなら、俺が反省の色も見せず、『否定』している事になっているから。


 「俺結構、日陰好きだったのに、これでかなり冷めたわ。流石に、他の探索者襲うとか無いって。しかもさ、認めてないんだろ?」


 「襲われたから反撃した〜って絶対に嘘だろ。どう見ても、日陰のモンスターが襲ってるじゃんか」


 「ホントな。バカバカしいにも程がある。さっさと謝罪しろよ。モコモコが可哀想だ」


 これが格上配信者の力って事か?

 教室の中で、耳を傾けているだけで、色々な声が聞こえる。

 殆どが、日陰を卑下し、モコモコを庇う発言だ。


 襲われた事になっているのは、モコモコのクランメンバーであり、本人ではないのに、だ。

 SNSも、ネットニュースも、日陰が探索者狩りと言う悪人に挙げられている。

 そのように扱っているんだ。


 誰も日陰を信じようとはしない。

 最初の印象と情報だけで真実を決定し、日陰を悪とする。


 ふざけんじゃねぇ。

 こんなの、あんまりだろ。


 あの時、腕で庇うんじゃなくて、あの時に俺が死んでいたら⋯⋯そしたらここまで発展する事は無かった。

 俺が独りよがりで助けたつもりの探索者達はグルだったし。


 もう、どうすりゃ良いんだよ。


 「俺は日陰を信じるぜ! 演技だけであそこまでのトラップには引っかからない。あれは才能だ。あんなにクール気取ってるのに、抜けている部分が、本当に素直な子だろ。そんな人が、こんな行為しねぇよ」


 以外にも、一番日陰を信じていたのは、芹沢だった。

 阿久津と我妻も同意していた。


 「情報を整理しようぜ? 俺達に出来る事は少ないかもだけどさ、これだと日陰も可哀想だ」


 阿久津の発言で、芹沢達が必死にスマホに食らいついた。

 ネットにある情報は俺を悪とするものだけ。


 「まずは日陰を励まさないとな」


 芹沢達がスマホを操作して数秒後、俺は自身のSNSアカウントを開いた。

 アンチコメントがうざくて、通知は切っていた。


 励ますコメントが並んで三件⋯⋯芹沢達だろう。

 目を向けると、数多くある『配信者辞めろ』『探索者辞めろ』などなどのコメントの中に、僅かに、『俺は信じてるから!』『日陰はそんな奴じゃないよな!』などなど、励ましのコメントもあった。


 俺は視聴者に何かをした覚えはない。

 動画もそこまで多い訳じゃない。

 モンカドの話題性だけで、ここまで来たんだ。


 だけど、例えそれが『自分優しい子アピール』でも、凄く心に染みた。


 そうだよな。

 俺がこんなに悩んでどうするよ。

 数少ないファンの為にも、俺は真剣に向き合って、この炎上を解決するしかないじゃないか。


 「そう言えばさ、この襲ったタイミングでこの写真撮ってるの、誰?」


 クラスメイトの一人が呟いた。

 その瞬間、クラスの時間が止まった。


 俺に出来る事の一つが見つかった。

 まずはこのクラスに信じて貰おう。


 教室の隅にいる、置物の豚って言う俺の常識を、日常を壊してでも。

 俺から歩み寄らないと、誰も気づいてはくれない。


 絞りだせ。見つけ出せ。

 俺も出来る事を。


 「確かにそうだよな。誰だろ? 近くにもう一人居た?」


 「襲われた二人が権利使って撮ったとしたら、冷静な判断過ぎん?」


 「つーか、これTランクだろ? 撮影権利買えるくらいなら、こんなダンジョン居ねぇよ。日陰は例外だけど」


 「モコモコが撮影の為に買わせた⋯⋯ってなると、モコモコが信頼の置いている相手じゃないと、納得つーか理解出来ないよな?」


 その疑問の波紋は驚く様に広がった。

 モコモコアンチもその事に気づいているのか、SNSの発言を引用して発言していた。

 アンチにはモコモコファンが反撃、さらにはリイアファン、神楽ファンもモコモコファンと対立する。


 神楽とのコラボ、リイアとのイベントでの激戦と共闘、それにより二つの勢力は微力な日陰ファンに力を貸していた。

 リイアのファンの力は強かった。


 我が同志でもある。


 教室でも広がっている、誰がコレ撮影している問題が出ている。

 それだけじゃない。


 俺の発言が正しい照明として、腕に銃弾を受けたエフェクトがある事を指摘していた。


 「つーか、今更日陰襲うって、本当に調子に乗ったからか?」


 芹沢達が自分たちのグループでも会話を始める。


 「今までそんな事なかったのに、いきなり?」


 「純粋に証拠が無かっただけかも。イベントでは、かなり強かったじゃん」


 「確かに」


 イベント⋯⋯その時の映像により、俺はリイアとの関係が濃密であり、ファンであると知られた。

 同時に今回の炎上で、探索者狩りの印象を強く与える結果にも繋がっている。


 泥沼だ。


 どちらかが非を認めない限り、この炎上は終わらない。

 続くのはショート動画などで、色々と言われるだけだ。


 「行動しないと、何も変わらない」


 結局クラスで発言は何も出来なかった。


 家のテレビでも、日陰の事は出ていた。

 モンカドの利用方法への問いかけなどなど。

 ここでも、俺を悪人として取り上げていた。

 俺と言うか、日陰を。


 この問題をネタにした討論会も行われている。

 『日陰ヤバすぎる』と言う解説動画もある。


 それも、炎上に便乗した数字稼ぎだ。

 今回の炎上で本気で激怒しているのは、本気で探索者をやっている人達だろう。後はモコモコファンか。


 「うっし。行くか」


 「どこ行くの、日向くん」


 「愛梨か。ちょっとダンジョンに」


 「今は良くないんじゃない?」


 「データ世界だと、俺の不利な条件でPvPを挑まれる可能性がある。だから、ダンジョンなんだ。あそこなら、条件は決まってる」


 「⋯⋯まさかっ! ライブするつもり? ダメだよ!」


 「そんなの分かってる! でも、俺が何かしなくちゃいけないんだ。なんでも良いとは思わない。でも、何かをしないと、行動しないと、俺を信じてくれている人達が、悲しむだろ」


 「⋯⋯」


 「愛梨、絶対に来るな。見守るのもやめろ。今はただ、信じていてくれ」


 今回は俺の、俺だけの問題じゃない。

 でも、俺がケジメつけないといけない、問題だ。


 俺はTランクのダンジョンにやって来た。

 位置情報をSNSに掲載する。


 「メイ!」


 メイを呼び出し、四級以上のメイドを全部召喚し、等間隔で配置、俺の位置を教えるように指を向けさせる。

 モンスターも、メイド達の索敵範囲に入ったら、倒す。

 後は待つ。


 「面と向かって話そうぜ。世間さんよ」


 罠と分かっても来るであろう、アホは現れる。

 それは見事に的中して、歩いて来る人や、ここに現れる人が居る。


 「本当に日陰居たぞ!」


 「よくもまぁ、ダンジョンに来れたもんだな!」


 「君達はどっちを信じる?」


 「もちろんモコモコだ!」


 「そうだそうだ! このマナー違反野郎!」


 俺が出来る事は限られている。

 ただ、真実を話して、認めて貰うしかない。


 「私は自ら襲ってはいない」


 「その証拠がどこにあるんだよ! お前がモンスターを使って、探索者を襲った瞬間の証拠はあるのによ!」


 「ああ。だから今から、ライブを始める。君たちは思う存分質問してくれ、私はそれに答える」

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