第48話 日陰、炎上した

 俺は何となくで、SNSを開いた。

 配信者として活動してから、やけにSNSを開く癖がついている。


 「お、日陰がトレンド入りしとる」


 最近は同じネタを擦っているので、入っても、すぐに消える程度だった。

 しかし、今回はかなり占領している。


 だけど、その内容は俺の想像を遥かに超えた。


 「なんだよ、これ」


 『日陰暴走』『探索者狩り日陰』などなど、俺が探索者を倒している人のような扱いになっていた。

 すぐさまエゴサを始める。


 一番話題になっていたのは、俺をイベントに誘ってくれた大人気配信者のSNSだった。

 自分のクランメンバーが日陰に襲われて⋯⋯殺された?


 「ふざけんなよ。俺は、攻撃されたから反撃しただけで⋯⋯確かに倒し⋯⋯そうか。そう言う事か」


 桜モコモコ、こいつは一度俺に直接接触している。

 その時に『二度』と言う言葉を口にしていた。

 興味なくて忘れていたけど、この配信者がイベントに誘って来た相手で、クランへの誘いもコイツだ。


 「くっそ油断した!」


 クラゲマンが忠告してくれた通りになったじゃんか。

 でも、どうする?

 俺を襲って来た相手の素性が出れば、俺の無実は証明される。

 アイツらのレベルは俺とは釣り合わないから。


 だが、モコモコが出しているのは、俺が召喚したモンスターが襲った、その決定的な一枚の写真だけ。

 世界に出ているのは、『攻撃されたから反撃した日陰』ではなく、『探索者を襲った日陰』になっている。


 マスコミのようだ。


 事実をありのまま全てを報道する訳ではなく、数字が取れるように嘘を言わず、真実を少し隠し、印象を与える。

 時には誇張した発言だってする。


 「クランメンバーが探索中、日陰に襲われた、か」


 どのメンバーが襲われたかは載せてない。

 襲われた瞬間にギリギリ映っているから、そこから嘘がバレるのを防ぐ為か?


 ふざけんじゃね。


 「どうする? 俺には、無実を証明する証拠が、無い」


 撮影を終えたタイミングで来たのは、狙われていたのかもしれない。


 「てか、なんかおかしいぞ」


 なんでこんな決定的な瞬間が、綺麗に撮影出来ている?

 偶然たまたま見かけたなら、もう少しあっても良いと思うぞ?

 わざわざ、コイツらの方があたかも被害者のように見えるような写真だけ⋯⋯まさかっ!


 「あの時に居た、探索者達はグルだったのか」


 あそこに居て、このアングルなら、それが正しい筈だ。

 ふざけるなよ。

 俺が何したって言うんだ。


 誘いを断っただけで、ここまでするかよ。


 「日向くん。朝ごはん出来てる⋯⋯よ。どうしたの!」


 「後で話す、今は、朝食に行こう。父さん達が心配する」


 顔色が悪くなっていたのか、愛梨が心配してくれた。

 行儀が悪いが、朝食中も俺はスマホを見ていた。

 自分の動画のコメント欄、DMにも大量にアンチが湧いている。


 それだけじゃない。

 ファンを辞める発言も複数見られる。


 『いつかすると思ってた』『調子に乗りすぎ』『モンスターで強い癖に、イキリ過ぎ』などなど。

 純粋な誹謗中傷も見受けられる。


 たった一つの事実でここまで、広がるのか。


 朝食を終えたら、すぐに部屋に入った。

 とにかく、今後の事を考えないと。


 「まずはどうする? 謝罪文か? でも、何を謝れって言うんだよ。こっちは反撃しただけだぞ? 探索者狩りを撃退するなんて、普通にある話だろ! なんで、⋯⋯クソっ!」


 理由が分かっているからこそ、腹が立つ。

 どうしようも出来ない事に、腹が立つ。


 金でも、モンカドでも、どうにも出来ない事だ。

 世間の炎上は簡単に消せない。


 「日向くん、入るよ」


 「愛梨⋯⋯」


 俺は愛梨に炎上している事、その内容を伝える。

 言い訳っぽく聞こえてしまうが、俺はありのままの事実を全て話した。


 「私は日向くんを信じるよ。嘘つかないって、信じてる。だから今は、どうするか一緒に考えよ?」


 「ありがとう」


 正直、日陰についてだけならいくら言われても構わない。

 問題は⋯⋯これだ。


 『日陰がこれなら、リア友のリイアも同じかもな』

 『あの強さはユーザーキラーの賜物だった!』


 少なくも多くもないチャンネル登録者の俺はリイアとリア友認定を受けている。

 その繋がりでリイアが悪く言われる。

 それが俺にとって、一番耐えられない結果だ。


 しかも、神楽にも飛び火している。

 偽りの俺と友達の、神楽にも。


 今回の事とリイアや神楽は一切関係ない。

 故に、アンチとリイアファン、神楽ファン、俺の数少ないファンが争い始める。


 「ん?」


 神楽から連絡が入る。


 『大丈夫ですか?』


 大丈夫に見えるか?

 いや、神楽が心配してくれて、メッセージをくれたんだ。

 冷静になれ、少しはさ。


 「心配してくれてありがとう。少しキツい。どうしたら良いと思う?」


 『何があったんですか?』


 すぐに返信が来る。


 「神楽は信じてくれる?」


 『はい!』


 俺は神楽に真実を伝えた。

 すると、すぐに返信が来る。


 『僕も一度、ありましたよそう言うの。イフリートが守ってくれたから、すぐに退出して逃げたので、決定的な瞬間は撮れず、諦めてくれました』


 「俺が色々と未熟だから、こんなにあっさりと」


 配信者として全力を出す事を決めた神楽だったから、その時は対処出来たのだろう。

 アドバイスを求める。


 『謝罪はダメですよ。今回は悪くないです。真実を伝えましょう。謝罪したら、悪いと認めるのと同じです。ですので、絶対にしてはなりません!』


 それでも、絶対に世間は信じてくれない。

 だけど、神楽のお陰で幾分か気分は楽になった。


 「どうにかしないと」


 俺は屈しないぞ。

 信じてくれる人が、二人も居るんだ。

 それに、日陰を好きで居てくれる人も居る。


 「愛梨には、迷惑かけないから」


 「違うよ日向くん。良いんだよ。何かあったら、一人で抱え込まず、支え合うって決めたじゃん」


 愛梨の笑顔が眩しかった。


 「ありがと」


 俺は急いで、それでいて丁寧な文章を作り上げた。

 炎上騒動について、詳しくまとめた。


 相手は嘘を言ってない。少し曲げているんだ。

 だから俺も嘘は言わない。そして俺は、隠しもしない。


 襲って来た相手の特徴、タイミング、武器や推定レベル。

 俺の使ったモンカド、使ったタイミング、その時の状況を思い出して、全てを細かく記載した。

 その文章を画像として、SNSに載せた。


 結果は、一瞬で広まる事になる。

 コメントには、アンチの嵐だ。


 「この速度、絶対に読んでないだろ」


 「そう言う人が大半だろうね。アンチは叩く事が好きなだけだよ。真意なんて関係ない。叩ける理由があれば、叩く。それが有名人であればある程、楽しむ傾向にある」


 「そうだな。あるいはスキルの速読か。なんにせよ、良い結果とは言えない」


 「そうだね」


 俺は悪い事をしたとは思ってない。でも、決断を誤った。

 もっと冷静に対処していたら、あそこで撮影権利を使っていたら、そんな後悔が出て来る。


 「もっと真剣に、クラゲマンさんの言葉を、考えていれば⋯⋯」


 今とは少し違った結果になっただろう。

 俺の抱える問題は、俺一人では到底解決出来ない。

 ただの高校生の俺がだ。


 神に認めれ、スキルとなった才能は剣術と物騒な才能だけ。

 それ以外の才能は俺にない。


 剣ではどうにもならない。殺人が引き金となっている。


 「⋯⋯足りない。俺を無実にする証拠が。俺の言葉じゃ、世界は動かない」


 耳を、傾けてはくれない。

 どうする?

 どうすれば良いんだよ!


 「ちくしょうが」


 モンスターを使って襲ったのは間違いない。反撃とは言えど、その事実は間違いないんだから。

 前後関係さえ、世界に信じさせる事が出来れば。


 「神楽も俺も、他の配信者の繋がりがない。神楽は俺とコラボした仲だ。火に油を注ぐ結果になりかねない。神楽の他にも被害者が居れば⋯⋯」


 居ないか。

 そんなのが続けば、あっちのアンチが黙ちゃ居ない。

 人気の裏には確実にアンチが存在するんだから。


 「アンチ⋯⋯か」


 「日向くん?」


 「いや、それより学校に行く準備をしよう」


 「そうだね。⋯⋯私の方でも何かを言おうか?」


 「いや。愛梨は何も知らないで行こう。なるべく、俺との関係は近づけちゃいけない」


 リイアの方が鎮静したら、俺も安心出来る。

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