第47話 火種
俺は忘れていた、ギルマスとの契約を愛梨に相談した。
一人て背負わない、そう言う約束をしているからだ。
「なるほどね。最初に脅したの、性格悪いね」
「仕方ないだろ、あれで下に見られるのも嫌だったし」
「そっか」
ギルマスとの契約で俺は最初、本当にクズっぽい性格発言をしている。
ありのままを愛梨に話している。
「そっか。一応助けられてるんだよね」
「そうだね。日陰がオークションに出しているって、噂を流してくれたのは、あのギルマスだろうから」
その事を考えたら、助けられたのは間違いないだろう。
そもそも、俺の体型とか色々あり、三級の直売は既に話題になってない。
完全に世間からは、三級をギルドに売った少年は消えている。
「これからオークションに出す時は、日陰と言う事になる。ギルマスとの契約だからね」
「そっか。クエストとか、来るの?」
「そう言うのは、貢献度って言う、ギルド内の評価で決まるらしいよ。日陰はオークションで大金をギルドに与えてくれたから、クエストは無いってさ」
「良かったね」
「うん」
クエストとか、面倒だ。
「ま、何はともあれ、何かあったら言ってね? 手伝うからさ。約束、覚えているよね」
「ああ、もちろん」
「一緒に言ってみよ?」
「「一人で背負わない」」
罪も何もかも。
辛いくて、それを一人で抱えると、結局不幸は二人に降り注ぐ。
だからこそ、一緒に背負うと言う約束をしている。
「そんじゃ、俺は撮影の為にダンジョンに行くか」
「私も行く!」
「自分のレベルに合ったところに行けよ」
そして、再び俺は前回と同じTランクのダンジョンに来ている。
さて、今回のコンセプトはどうしようかな。
「夏ガチャは水着以外も出ているし、そいつらを使おうかな」
なるべく三級を使いところだ。
メイド以外を見せるのもアレだと思うが、美人メイドばかり使っていると、『中身男説』が永遠に減らない。
ここは一つ、男っぽいモンカドを使って、俺が男じゃないって証明しないといけない。
「なんかそれはそれで、虚しくなるな」
夏のガチャで出た、ザモンスターって感じのカードを使い、撮影を開始した。
俺一人では、少しばかり(見栄っ張り)苦労するリザードマンだが、モンカドパーティなら余裕で勝てる。
それをとにかく実況した。
三級は同じ種類のガチャで出たモンスターなら意思疎通出来るが、違うと俺が中継役をしないといけない。
例えば夏モンスターとメイドモンスターでは、一級以上じゃないと互いに意思疎通が出来ない。
言葉を話さないので、それが原因だと思われる。
別に問題ないし、動画的にはそっちの方が見栄えは良いかもしれない。
それから二時間程探索をして、撮影を終了させた。
後は良い所を編集するだけだ。
リザードマンのために、床は薄く一面に水が敷いてある。
それは夏モンスター達にも有利に働く。
こいつら、基本的に水系の魔法を得意として、地形を利用すると魔法の威力が上がるのだ。
逆にメイドは魔法ってよりも肉弾の方が強く、このフィールドでは少しだけ機動力が落ちていた。
問題があるのは、夏モンスターに盗賊系のモンスターが居ない事だ。
トラップを見つけれないと、俺がとても辛かった。
どうして、ここまでトラップを起動してしまうのか、俺には分からない。
水関係のトラップが多い。
上から水は落ちて来るし、落とし穴の奥は沼だったし。
濁流のような水は押し寄せて来るし。
水のせいでスピードが落ちて、その時は本気で死にかけた。
「なんか、日陰さんの動画はモンスターよりも、どんなトラップに引っかかるかが、楽しまれている気がする⋯⋯気のせいか」
一部界隈では、日陰ちゃんとか呼ばれているけど、気のせいだ。
トラップハンターとか、言われてるけど、気のせいだ。
「さーて、今日はこの辺で帰ろうかな」
俺がスマホを取り出し、操作すると、銃撃音が聞こえる。
刹那、俺のスマホが貫かれた。
スマホは光の粒子となり、俺のポッケに入る。
「なんですか!」
高速の切り替え演技! 撮影直後だから、まだ大丈夫。
現れたのは、二名の探索者だ。
二人とも男、二丁拳銃と双剣か。
「いや〜ちょっとね」
めんどくさい。
ここでストーカーっぽい人と直接対決する事になるなんて、思ってもみなかった。
あまり使いたくなかったけど、しゃーない。
「ログ⋯⋯」
「させねぇよ!」
ハンドガンの射撃が速い。
油断していると、一瞬で脳天撃ち抜かれる。
俺がしようとしたのは、ショートカット退出。
音声システムを使った、ダンジョンから出る方法だ。
瞬時に出られる代わりに、データ通貨を100万消費する必要がある。
金が勿体ない。
でも、争いが長くなると、素を出してしまう可能性がある。
だから、さっさと逃げたかった。
しかし、それは問屋が卸さないようだ。
「とりあえず、距離を離す!」
俺は走った。
「そりゃあ逃げるよな」
「アイツ、良く避けれたな。腕落ちたか?」
「うんなわけ?」
俺を追いかけてくる素振りはなく、ただ会話をしていた。
しかし、ある程度の距離が出来ると、アイツらは足を動かした。
そのスピードは⋯⋯とても速かった。
だけど、一定の距離を保っている感じだ。
「ほらほら、死ね!」
銃弾が放たれるが、大きな驚異にはならない。
どことなく、避けやすい位置に撃たれるのだ。
なんだ。何を考えている。
「なんで攻撃して来る!」
「殺すのに理由が居るかよばーか!」
コイツ、ただの殺人鬼か?
だけど、さっきから誘導されているように感じるのはなんでだ?
殺すとか言いながら、全く俺を殺す気迫を感じない。
「こっちも忘れるなよ!」
「ちぃ!」
双剣の方は急接近して来て、俺を襲う。
だけど、コイツも強くはなかった。
でもさ、コイツら。
使ってないよな?
スキル⋯⋯。
純粋な身体能力で追い付かれ、一定の距離をキープされている。
それは、相手の方が上だと言う証明だ。
「遊ばれてんな」
そうして逃げていると、目の前にリザードマンと交戦中の人達を見かけた。
「まずい!」
このままだと、意味の無い犠牲が増えてしまう。
どうにかして軌道修正を⋯⋯分かれ道がない!
「ひぃ」
ハンドガンを持つ男が、鬼のような笑みを浮かべながら、銃口を目の前の探索者に向ける。
さっきとは違い、今回は正確な狙いだ。
しかも、後衛職の方を狙ってやがる。
避けられない自信があるからこそ、余裕の笑みを浮かべている。
「どうする?」
斬るか?
だけど、アイツは二つ所持している。
一個を防げとしても、二個目は防げない。
「⋯⋯仕方ない」
構えているのが一つなら、こっちにも考えはあるんだよ。
本当の狙いは俺だろうからな。
「ここだ!」
撃たれた瞬間、俺は自分の腕を突き出した。
「くっ」
少しばかりの痛みを感じるが、我慢しようとしたら簡単に我慢出来る程度だ。
腕が貫かれた。
「乱射行くぜ!」
「させるか!」
こいつらは探索者狩りだろ?
だったら、文句ないよな?
狩るなら、狩られる覚悟もあるよな?
「先に攻撃して来たのは、そっちだからな!」
俺は一級の水着を着たモンスターを召喚した。
一級の中でも強い部類であり、見た目は人間にそっくりだ。
「殺れ!」
「来た来た」
「負けない!」
交戦が始まる。そこそこ戦えるだろうな。
しかし、予想に反して、呆気なく勝敗は決した。
モンスターの圧勝だ。
一級が強いのは知っているが、ここまでの強さがあるのか?
「⋯⋯いやでも、ありえない。アイツら、結局一度もスキルを使ってないじゃないか」
なんだ、この拭えない違和感は。
嫌な感じ⋯⋯それもとてつもなく嫌な感じがする。
それが何かは分からないし、言葉にする事も出来ない。
だけど、何か悪い事の前兆な気がして、気が気では無かった。
【あとがき】
日向側のログ、モンスターを使い、ユーザーを倒しました。
やられた側のログ、ユーザーネーム『日陰』が使用するモンスターにより、倒されました。
相手のステータス名を知っている場合は、その名前か出るシステム。
名前と見た目が一致して知っている場合に限る。
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