第46話 モコモコと言う謎の人

 ついにこの時が来た。


 日陰(霧外日向)

レベル:40

称号:なし(《ガチャ中毒者》)〈モンスターコレクター〉

スキル:(【データ転性】《モンスターカードガチャ》)〈剣技.7〉〈剣術の才〉〈殺人の才〉〈作業厨.1〉〈集中力強化.3〉〈攻撃力強化.3〉〈敏捷力強化.2〉〈精神力強化.6〉〈斬撃数増加.1〉〈剣の舞.2〉〈刀の心得.5〉〈防御姿勢.2〉〈回避.2〉〈鑑定妨害.2〉

魔法:なし


 「行くぜ、Tランクダンジョン!」


 俺一人では歯も立たなかったモンスターが蔓延るTランクダンジョン。

 レベルアップと多少のスキル増加とレベルアップ。

 今なら行ける気がする。


 装備は新調してない。

 そもそも、現装備ならTランクダンジョンに問題ない性能は持っている。


 「行くか」


 中に入り、俺は日陰となる。

 すぐさまメイドと水着モンスターを召喚する。

 護衛の為だ。


 『水着魔法:一級』を二人、『三級盗賊メイド』『三級防御メイド』である。

 水着とメイドでもパーティ的な事が出来るかの検証も兼ねている。

 水着を着た、二足歩行のカジキマグロ。


 この二人? 二匹? は水系の魔法を得意として使える。

 メインは俺が戦うので、サポート的な感じで用意した。

 撮影はしない。


 「そんじゃ、行きますか」


 得体の知れないモンスター2つとメイド二人を連れて、俺は奥に進む。

 すると、すぐさまトラップを発見して、メイドの力で見事に回避する。

 撮影してないのにこれである。嫌になる。


 トラップを掻い潜り、進んでいると、トカゲのようなモンスターを見かける。

 二足歩行のトカゲが槍を持っている。三叉槍だ。


 「リザードマンだっけ? 相手にとって不足無し」


 地面に少しだけ水が張っている理由が判明した。

 リザードマンの特徴を生かすために、ダンジョンがそのような変化をしているのだろう。

 水に足を取られる程、深いわけじゃない。


 靴も濡れないので、問題ない。


 「手を出すなよ」


 俺は居合の構えをする。


 「霧外流抜刀術、移流霧!」


 先手必勝は戦闘の基本だ。

 しかし、やはりと言うべきか、防がれた。


 だけど、レベル的には戦えるラインには居る。

 そのまま押し切る。


 前のミノタウロスとは違い、防御力よりも機動力の方が高いリザードマン。

 壁を縦横無尽に駆け回る。


 鱗でこちらの方が硬そうだが、ここまでの機動力があれば、そこまで防御力は高くないだろう。

 そうであって欲しい。


 「くっ」


 突然放たれる突きは絶対に受けないようにしないと。

 攻撃されたタイミングで⋯⋯反撃の一撃!

 浅い⋯⋯けど、ダメージは与えている。


 なら問題ない。

 地道に繰り返せば倒せるんだ。

 邪魔が入る場合は、モンスター達に倒して貰う。


 「俺も、壁は使うぞ!」


 地面ばかりに居ては時間が余計にかかる。

 俺も壁を登ったり蹴ったりして、相手に攻撃を仕掛ける。

 しかし、相手の方がスピードは上のようで、俺の刃は見事に空振りに終わる。


 「霧外流、蜃気楼」


 一瞬で気配を偽り、相手の背後に移動する。

 リザードマンは命の危険でも感じたのか、柄の部分を俺の方に伸ばして来る。

 体をねじってギリギリで避け、刃を突き立てる。


 「逸れた!」


 相手の蹴りを腕で受け止める。


 やっぱり、手強い。

 しかし、倒せない相手では無い。


 レベルによって、身体能力が上がっている。

 それを実感出来る。


 「水面を走る事でスピードを上げるリザードマン、ここはお前らにとって最高の場所なんだろう」


 リザードマンは俺の言葉には耳を貸さずに攻撃を仕掛けて来る。


 「だけどな、俺達、霧外流にとっても良き場所なんだよ」


 俺はバックステップでリザードマンとの距離を急激に離して、刀を構える。

 地面に向かって高速の斬撃を浴びせる。


 意味が無いと思われてしまう様なこの行動、もちろん意味はある。

 これにより霧を無理矢理発生させるのだ。


 霧の中で使われる霧外流は最強の暗殺術になる、両親から最近教わった。

 現実の俺では無理だが、日陰の身体能力を持ってすれば、造作もない。


 理屈なんて関係ない。

 出来るんだから出来るんだ。

 神が居て、ダンジョンがある世界では、時に常識では理解出来ない事も簡単に起こる。


 リザードマン、お前らの得意なフィールドから、俺の得意なフィールドに成ったぜ。

 水面を走るスピードは確かに速い。

 人間では出せないスピードだ。


 しかし、それには一つだけ決定的に悪い点が存在する。

 それは何か、簡単だ。

 足音がする。


 気配を気薄にしても、足音を消せないでは意味が無い。

 音があれば、敵の位置なんてのは簡単に把握出来るんだよ。


 「霧外流、滑昇霧!」


 俺は壁に足を着けて移動するので、足音は出ない。

 水を蹴ってしまうと音は出るが、壁に水はない。


 霧の中では俺の気配を完全に認識出来ない。

 不意の一撃で命を刈り取る。

 お前は何が起こったかも分からない状態で、死ぬんだ。


 『じゃっ!』


 「嘘だろおい!」


 俺が未熟だったようで、リザードマンを囲むように水が上に伸びて来る。

 それは針の柱。


 刀で弾く事で窮地を脱した。


 「そりゃ魔法くらい使えるよな」


 完全に盲点だった。

 槍で攻撃してくるもんだから、いつの間にか槍での攻撃が普通だと思っていた。

 魔法、使うよな。


 今はまた霧に隠れたているから良いが、この無理矢理作った霧はそう長くは持たない。

 そろそろ勝負を決める必要がある。


 相手は生存本能が高く、命の危険があるとすぐに反応できるタイプだ。

 背後に回った時も、霧の中の完全な不意打ちも、こいつは乗り切っている。

 だったら、俺のやるべき事はアレだ。


 神楽の時同様の事をすれば良い。


 最初に使っていた刀を取り出す。

 鞘から抜き取り、逆手持ちでリザードマンに向ける。


 「場所は分かっている。だから、行けるよな!」


 俺はリザードマンの頭目掛けて、刀を投擲した。

 生存本能の高いアイツは感覚的に、無意識で体が動かくはずだ。

 避ける事はしないだろう。


 アイツは無意識で動いた時、何かしらの防御的行動をする。

 魔法か、槍か、はたまた体術か。


 なんでも良い。

 ただ、攻撃したその瞬間、大きな隙を俺は狙う。


 カキン、弾く音が聞こえた。


 「シィ」


 『ジャッ!』


 「遅い!」


 最初の方の軽めのダメージは蓄積されている。

 その切り傷を狙って、俺は強い一撃を叩き込む。

 防いだ後の体勢では、この攻撃は防げれない。


 リザードマンに深い傷を与えた。


 ようやく。

 明確に致命傷になるダメージを与えられた。


 「どうだ!」


 これでもまだ槍を構えるか。

 しかし、足元がぐらついている。


 トドメ⋯⋯刺した。


 「これで、終わりだ」


 ログも確認してしっかりと、勝った事を証明した。


 「勝った。勝ったぞ! リベンジ達成だ! 少しだけ違うけど!」


 俺が喜んでいると、拍手しながらこちらに近寄って来る存在に気づく。

 見た瞬間に分かる。

 このダンジョンには似つかわしくない存在だ。


 つまり、俺よりも格上の探索者。


 「見事です日陰さん」


 「だ⋯⋯どちらま様ですか?」


 人前では日陰人前では日陰。

 私は日陰。クールな剣士、日陰さん。


 「これは失礼。わたくし、クラン【桃桜】のマスター、桜モコモコです」


 「そうですか」


 誰?


 「おや? 日本有数の大型クラン、桃桜を知りませんか?」


 メガネをクイッと上げる。

 もちろん、知りません。


 「すみません。あまりクランなどに興味が無いものでして⋯⋯。スカウトならお断りします」


 「まぁまぁそう言わずに、お話だけでもどうですか? ここでは目立ちますので、リアルの方で⋯⋯」


 「尚の事、お断りします。大型クランだろうが、日本一のクランだろうが、現在私はクランに入る気は無いです」


 「良いんですか? わたくしの誘いを二度も断って? 調子に乗り過ぎると、後悔しますよ?」


 「二度? 後悔しない選択をしたいんです」


 その人は別れを言って、去って行った。

 俺も帰る。

 なんだったんだ?

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