第45話☆ジャックの勘 ☆日陰への畏怖

 「おいジャック。現状なんの成果も無いじゃないか!」


 「そう怒るな。ハゲるぞ。成果はあるだろ?」


 俺が調べて作ってやった資料を揺らす。

 その態度に腹を立てたのか、ゼクトが奪い取り、ビリビリに破きやがった。

 なんてことをする。


 「何をする」


 「日陰の剣術が霧外流だからなんだと言うんだ!」


 「確実に関係者だから、見張るべき場所は確定しただろ?」


 「じゃあなんで見張らない!」


 「バレてしまうからだ」


 あの道場で剣術を教えていた男、アイツは危険だ。

 握手するまで、その恐ろしさに全く気づかなかった程に危険人物だ。

 だからなるべく目立つような動きはしたくない。


 「もう一つ収穫はあったろ?」


 「リイアのリアルを発見しても意味が無いだろ! 既に断られているんだから!」


 「対面で話したら、受けてくれるかもしれないだろ?」


 「そんな訳あるか」


 「まぁそんなに怒るな」


 ちなみに鑑定は使っている。

 〈鑑定妨害〉があるせいで、あまり見ることは出来なかった。

 日向と言う少年の模擬戦は楽しかった。


 あの程度では正直負ける要素はなかったが、運動エネルギーを溜めて放つ、一時的な瞬発力の超上昇は見るべき点だ。

 剣術単体で相手するなら手強いだろうが、俺の強みはそこじゃない。


 俺のユニークスキルは幅広くスキルを手に入れる事が出来るのだ。

 その為に、様々な武器を扱う特訓をした。


 俺は誰にも負けないとは思わないが、あまり負けはしない。

 アメリカに帰る前に、もう一度日向とは再戦するつもりだ。

 アイツは強くなる。短期間でな。


 「霧外の当主だっけか? そんなに危険なのか?」


 「ああ。無害そうに俺は見ていた。だが、握手して感じたんだ。あの重みを」


 「重み?」


 「ああ」


 今でもあの人の顔を思い出せば感じられる、あの重圧。

 漏れ出る覇気を完璧に抑え、触れなければその驚異には気づけない。


 「完璧に風格を消し去り、気配すらも消していた。ある程度の気配を感じれたのは、あの人がそのように調節しているからだ。俺が全力で戦っても、現実世界では勝てない」


 「お前にそこまで言わせるとは、相当な実力者なんだな」


 「ああ」


 霧外流がなにかは、あの模擬戦である程度は分かっている。

 だからこそ、俺は日向との再戦は絶対にやると決めている。

 彼は短時間でかなりの成長をする筈だ。


 「それじゃ、どうする? あの場には日陰らしき人は居なかったんだろ?」


 「いや、そうでも無い」


 「ん?」


 「母親の方だ。当主の妻と言うべきか。その人も同じように霧外流を使う。この俺が確信しているんだから間違いは無い。リイアとも仲が良さそうだし、無い線では無い」


 しかし、師匠側と生徒側で、あそこまで仲良さそうに出来るのか?

 その点が不可解だ。


 それだけじゃない。

 確かに、リイアと日陰とでは技術の差があった。

 しかし、崖のように高く離れているようには見えなかった。


 あの男と同程度かそれより少し低い程度の技術だったとしても、全力の俺と互角には成れる。もちろん現実世界での話だ。

 その点を踏まえると、あの女性が日陰な可能性は低い。


 「もう一人、弟子が居るようだったが、剣術をまだ教わってない素人の中学生だった。日陰の可能性は低い」


 「銀髪女子が日陰って路線は?」


 「それは百パーない。あの人はリイアだ。立方、動き方、構え方、全てがリイアと一致する。それに声もな」


 声⋯⋯そう言えば、日陰に近い声は大人の女性の方だった。

 ⋯⋯もしかして!


 「そうか。その路線を考えてなかった」


 「どうした?」


 「日陰の声は、女性の方の先生に似ている。血縁の可能性は高い。となると、日向の妹か姉の可能性があるって事だ」


 「居るの?」


 「居ないとも限らない。俺達では発見出来てない所で教わっている可能性はある。日向との兄妹関係にあるなら、リイアとも仲が良いのは頷ける」


 「なぜ?」


 「リイア本人が日向を好いているからだ。日向の両親も自覚して応援していた。つまり、日向本人はリイアからの好意に気づいてないが、その他は気づいているんだ。周りは応援している」


 もう少し厳密に調べるべきか。

 兄妹関係は未だに出て来てはいない。

 金ならあるし、情報屋を頼るのも一つの手だろう。


 「そんで、今後はどうする?」


 「待機だ。簡単には日陰に接触出来ない。確実に日陰と接触出来るのはダンジョンなのは変わりない。ダンジョンで日陰と接触するまで、待機だ」


 「そうか。接触出来たとして、どうする? 簡単には交渉出来んだろ?」


 「そうだな。幸いな事に、日陰は配信者だ」


 「だから?」


 「配信者だからこそ、起こりうるモノがあるんだよ。そして、そう言ったバカは確実に現れる。そのチャンスを、待つんだ」


 「はぁ。早く終わりてぇ」


 ◆視点変更◆


 アタシは日本ギルド本部長を務めている。

 今は怪しげな資料に目を通している状態だ。


 「豊田支部に一級モンスターカードのオークションが短期間に二回行われ、その出展者が同じ人⋯⋯配信者の日陰か」


 これだけ見たら、あまり怪しさはないのかもしれない。

 なぜなら、配信者の日陰は自ら複数枚の高ランクモンスターカードを使用しており、国内イベントはルールを崩壊させるような力を見せて来た。


 それだけで、常人では想像も出来ない程の数、モンスターカードを所持していると思って、間違いない。

 だからこその不安点がある。


 日陰の使い方寄っては、日本は上に行くか下に行くか決まる。

 たった一人の判断でだ。


 どうにかして、本部との繋がりが欲しい。

 支部長に求めても、本人が忙しいだのなんだの、理由を付けて断られている。


 「花蓮、調べて貰えるか?」


 「何を?」


 「当然日陰についてだ。ここまで、アタシと日陰との接触を拒んで来る理由を知りたい。⋯⋯防犯カメラ映像も、改竄された形跡があったからあまり使い物にはならない」


 「ギルド職員から情報は聞いたんですか?」


 「聞いたさ。だけど、誰も口を割らなかった」


 何かを知っているが、黙っている感じがした。

 あそこは人との繋がりを大切にしているから、仲間意識がとにかく高い。

 だから、若い子を狙って聞いたんだが、教えてくれなかった。


 何かしらの感情があるのか、あるいは金で黙らされているか。

 まぁ何でも良いがな。

 重要なのは、口を割らない事だ。


 「日陰の持つ、メイと言うカードだけはどうにかして抑えたい」


 「やはり、ルールを壊すからですか?」


 「あぁ。モンスターカードを使用出来るモンスターなんて前代未聞だ。一人四つしか使えないルールを逸脱し過ぎている」


 「日陰にしか使えないと思うけどね」


 それはそうだな。

 どれもメイド服を着用しているところから、何かしらの制限はあると見ても良いだろう。

 同系列の種類を大量に所持しているのはきっと、使用者の日陰くらいだ。


 「だけど、危険な物は素早く対処しておくに限る」


 「分かった」


 「⋯⋯上司相手なんだからさ、敬語くらい使ったら?」


 「面倒」


 「そう」


 この人の妹は素直なのに。

 素直と言っても、アタシに対してではないけどね。


 さて、一番疑わしいのは、本当に日陰がオークションを開いているのか、と言う点だ。

 今まで自分で使用していたのに、いつの間にか売り出している。


 三級をギルドに直接売った人物は日陰じゃないのは確定している。

 ⋯⋯日陰がオークションに出したと、こちらにもデータが届いてはいる。


 でも、どうにも腑に落ちないんだよ。

 こう、すぐに何でもかんでも疑ってしまう。勘ぐってしまうのだ。


 「年かな」


 「そうかも?」


 「コロがすぞ」


 「冗談冗談」

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