第35話 神楽と楽しくコラボライブ!

 現在俺はVダンジョンへと来ている。


 「それでは、よろしくお願いします」


 「こっちこそ」


 俺は神楽と一緒にダンジョンに入っている。

 リアルで会う事はなく、データ世界で会っている。

 神楽は普段、もっと上のランクをメインにしているらしいが、今回は俺のレベルに合わせて貰っている。


 「日陰さんの動画、かなりの反響ありますよね。自重を辞めたって」


 「ほんとね。びっくりよ」


 今回は生配信をするらしく、俺は少しだけ緊張していた。

 ダンジョン攻略では生配信の方が、緊迫感が伝わって伸びやすいらしい。

 神楽が自嘲気味に話してくれたので、実際のところは不明だ。


 俺や神楽はコラボライブをSNSに挙げているので、少しだけでも人が来てくれる事を祈っておく。

 そして、同時にライブ配信を始める。


 これも現実とは違う点。

 別々のチャンネルでライブを始めても、合体しているかのように、視聴者は同じになる。

 二つの画面を切り替えしながら見れて、コメントを残せる。


 二人で一つのライブをやっている感じ?

 上手く言語化は出来ない。

 強いて言うなら、神ってスゲー。


 「イベントで出会った僕と日陰さんっす! みんなよろしくね!」


 かなりの同接だな。


 「日陰さんは今回、どんなメイドを使うんっすか?」


 「メイド限定って言うのが少しだけ癪に障るけど、事実だから言い返せない。せっかくのコラボだからね。二人で目立ちたい。なので、今回は!」


 『三級支援メイド』を二人、『三級防御メイド』を一人、『三級索敵メイド』を一人用意する。

 支援メイドにより神楽の火力を大きく上げ、防御メイドに神楽の護衛をさせ、索敵特化のメイドでエネミーを沢山把握する。


 遠距離超火力コンセプトだ。


 「三級なのは何か意味あるんっすか?」


 「数的な感じだね」


 「日陰さんは何をするんっすか?」


 「敵のヘイトを集める。基本は神楽の遠距離で終わらせるけど、耐えられた場合などだね」


 「なるほどっす。トラップに気をつけて、目標のボス討伐行くっすよ!」


 「おー!」


 俺達は移動を始めた。


 メイを使わないかと聞かれたが、色々な事情があり使えないとだけ伝える。

 使っても良いが、そうなると俺達の出番が無くなる。

 純粋に動画としてつまらなくなるのだ。


 「お、見えた」


 今回のエネミーは蜘蛛型のモンスターだ。

 ボス部屋はまだ発見されてないが、だいぶマップが出回っているので、今日中に発見出来る事を祈っている。

 見つからないならそれで終わりだ。


 「メイド達、神楽にバフを!」


 「お、おお! 力がみなぎっているのかが全然分からない!」


 「なら言うなよ」


 神楽が杖を向ける。後ろにはイフリートだ。


 「フェアリーフレイム!」


 巨大な炎の海が蜘蛛を包み込みに向かう。


 蜘蛛は気がついて、糸を出すが当然燃え尽きる。

 今回のダンジョンは神楽との相性が良さそうである。

 抵抗虚しく完全に消失した蜘蛛。

 俺には何も入らない。


 「で、バフの効果は如何様に?」


 「範囲は変わっていませんし、さっきの魔法ならあれくらいはワンパンするので、いまいち分かりませんね。もっと弱い魔法で試してみます」


 「ボス戦に備えて、こっちもヘイトを集める練習をするね」


 次に見つける蜘蛛は俺が先行してヘイトを集める事にした。

 とにかく糸に捕まらない事が重要だ。

 レベル差があるので、神楽と俺はパーティを組んでいないので、下手を打つとフレンドリーファイアがある。


 糸なんて燃え移るし、余計に危険だ。


 「ほら、こっち」


 「ファイヤーボール!」


 精霊魔法ではなく、神楽自身の魔法を使って蜘蛛に攻撃する。

 避けないように俺は攻撃を加えてから、距離をとる。

 蜘蛛は断末魔を上げながら火に燃やされていく。


 「うん。こんな感じかな?」


 「イベントで協力しただけあって、案外まとまった連携っすね」


 「ほんとね。あの時に裏切られなければ、もっとポイント集めれていたかも?」


 「いじわるっすね。その場合、リイアさんに斬られてそうですけど」


 「否定できないわね」


 俺との戦いに水を刺す危険性のある神楽をあの時の愛梨は容赦なく倒していただろう。


 「で、バフの感想は?」


 「良いっすね。ファイヤーボールが通常の二倍くらいの火力は出てたっす」


 「それは良かった。それじゃ、本格的にボス部屋を探しますか」


 「はいっす!」


 暇なのでコメント欄を見る事にした。


 『よく戦えている』

 『強い!』

 『神楽って誰よ?』


 などなど、叩く感じのコメントは見えなかった。

 俺からも神楽の方を確認出来るので、する事にした。

 俺の方から見に来たという報告コメントが複数見れたが、元々の神楽ファンのコメントも見られた。

 少しだけ神楽がほっこりしている。


 見てくれる人は見てくれる。

 それを体現しているかのようだった。


 俺もコメントを今後は見ないとな。


 「あ、日陰さん。そこトラップ」


 「え?」


 トラップは見た目などを覚えていれば、案外避けれるのが探索者の常識となっている。

 俺はそれが上手く出来ない。


 足元が見にくいのだ。

 このアバターのせいでね。


 さて、今回のトラップは⋯⋯後ろか。


 「日陰さんって、ヤラセ無しでトラップに引っかかるんすね」


 「嬉しくない。いつも真面目にやってるよ。と言うか、走るよ!」


 後ろから迫る球体から逃げる為に走る。

 数分走って逃げていると、俺が落とし穴のトラップを発動させ、イフリートに助けられた。

 球体は落とし穴に落ちていく。


 「神楽の方が速い⋯⋯」


 「レベル差っすね。強化系のスキル獲得すると、すぐに抜けるっすよ。今の落とし穴はわざと⋯⋯」


 「だと思う?」


 「すごいっすね」


 「素直に喜べない。ありがとうね、イフリート」


 イフリートにお礼を述べて、再び移動を再開する。

 蜘蛛の糸が張り巡らされた道や蜘蛛の巣もあったけど、もれなく神楽が焼却している。

 火炎系の魔法って便利ね。


 そして俺達は、二時間でボス部屋に到着した。


 「マッピングしている人も居ただろうし、攻略しても文句言われないわよね?」


 「大丈夫っすよ。ボスは早い者勝ち、攻略されてもダンジョンは沢山あるっすからね。行きますか?」


 「もちろん。そのためのライブだからね」


 全力で行ったらすぐに終わるので、程々で頑張ろうでは無いか。

 視聴者の応援コメントに軽く返事をして、俺達は中に入る。


 中は、臭かった。


 「めっちゃ臭いな」


 「なんっすかね」


 地面はネチョネチョだし。

 壁にも蜘蛛の糸が張り巡らされている。

 上から糸を使ってゆっくりと降りてくる巨大な蜘蛛。


 「ブラッティスパイダーっすね」


 「うわー怖い」


 「糸に捕まったら終わりだと思ってっす」


 「大丈夫。元々その予定」


 蜘蛛の糸が斬れるかは不明。

 だけど、今回の俺達の戦い方なら問題ない。


 信頼しているぜ、神楽。


 俺は駆け出す。

 まずは俺にヘイトを集める。


 「そらっ!」


 相手の身体を攻撃してヘイトをこっちに向ける。

 放たれる毒液と糸はしっかりと回避する。

 メイドの全力バフで神楽の火力は上がる。

 そしてイフリートの炎も増す。


 神楽とイフリートの精霊魔法、そのための準備時間を俺が稼ぐ。

 今は索敵の必要は無い。


 「『三級防御メイド』召喚サモン、あいつの注意を神楽達に向けさせるな!」


 今、召喚した防御メイドのスキルは対象の気配を薄くするのがある。

 これで神楽の存在を薄くする。


 「上に逃げられたら追いかけられない」


 地面のネチョネチョでも動きは遅くなっているし、壁の糸はもっと危険だ。

 壁を登れるとは思えない。


 だから、上がるんじゃあねぇ!

 正々堂々と戦えや!


 「一か八か、運任せは得意分野」


 逆手持ちに切り替える。


 「行っけええええ!」


 俺は刀をまっすぐ投擲する。

 しかし、蜘蛛の前足によってそれは弾かれた。

 だけど、問題は無い。


 少しでも遅らせれた。


 「行くよ、イフリート」


 『グオオオ』


 「黎明!」


 巨大な炎の球体がブラッティスパイダーを包み込んだ。

 バフによって大幅強化を受けた『黎明』は俺が知っている火力では無い。

 お陰様で、衝撃がえぐい。


 あー目が回る。

 酔いそう。吐きそう。演技を忘れそう。


 壁で止まる。

 気持ち悪いネバネバが絡み付く。


 「勝ったのに、喜べねー」


 神楽がイフリートの体から出ている炎を使って助けてくれる。

 報酬の宝箱を開けると、中から出て来たのは『ブラッティスパイダーの糸で出来たローブ』だった。

 ぶっちゃけ要らないけど、俺自身が初めてボス戦を行い、倒したのだ。少し特別な感情は出る。


 パーティで組んでないし、活躍もいまいちだったのか、俺に配分された経験値は少なかった。

 神楽に至っては、経験値があるかも不明だ。


 まぁ、何より、勝利は勝利だ。


 「おつかれ」


 「おつかれっす」


 俺達は手を合わせて、配信を終わらせ、各々別々に帰った。

 リアルで会いたくない。


 「楽しかったな〜」


 「それは良かったね〜」


 家に帰ると、半ギレの愛梨が居ました。

 なぜか説教と晩飯抜きの罰を受けました。

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