第34話 動物園に行きます、ストーカーを添えて

 俺は今日、愛梨と動物園に行く約束をしていた。

 前回のリイアたんに迷惑をかけたくない発言に、愛梨が怒ったのがきっかけだ。

 愛梨とリイアを完全に切り離して見ていた俺の失態とも言える。


 なので、文句は無い。


 「はぁ、気が重い」


 「なんでよ」


 「なんでもだ」


 ガチャの方はあと少しでイベントが切り替わる時期となっている。

 次のイベントはなんだろうか。


 夏も近いし⋯⋯水着? それとも祭り関係で浴衣?

 季節は関係ないかもしれない。無限の可能性があるな。


 現在は駅に向かっている。


 「よくよく考えたら、愛梨と二人で出かけるって今回が初じゃないか?」


 「確かにそうだね。昔の日向くんは剣ばっかで、次は引きこもって、次はダンジョンばっか。お金を消費するようなお出かけは、初めてだね」


 旅行は行った事あるけど、俺の両親もその時には居た。

 だから、二人きりでお出かけするのは今回が初めてである。


 「はぁ。気が重い」


 「いやだからなんでよ」


 愛梨の容姿は控えめに言っても抜群に良いと言える。

 それは電車の乗客のチラチラと向けられる視線でなんとなく分かる。

 その隣に居る俺はどうだろうか?


 鏡餅のような胴体を持つこの俺。

 当然、愛梨とのバランスが悪すぎる。

 黙っていれば、俺達は傍から見たら他人となる。


 しかし、このように会話しているせいで、何かしらの関係があると思われる。

 結果的に、愛梨がデブ専かブス専判定を受けてしまう。

 この時だけ、日陰に成りたいと思った事は無い。


 俺的に、幼馴染に身勝手な印象を他人でも持たれたくは無い。

 だから気が重いのだ。


 決して、外を歩くのが面倒だとか、わざわざ休日を潰したくないとか。

 そんな理由では無い。ないったらない。


 「楽しみだな〜。日向くんはどの動物見たい?」


 「犬」


 「⋯⋯そこら中に散歩している人が居るじゃん」


 「動物園の触れ合いコーナーに居る犬は、ペットの犬と違って特別感があるんだよ。見るよりも触った方が良いだろ」


 「日向くんだね〜。私はパンダかな〜」


 「そらまたベタなやつを」


 「良いんだよ。リアルで見た事ないし」


 スマホを操作しながら、今後の事を考えている愛梨。


 「はぁ。帰りたい」


 「ん? なんか言った?」


 「いえ何も」


 つい、ポロッと出た本音を聞かれてしまった。殺気が怖い怖い。


 「男女で行くと、その。デートみたいだね」


 「今からでも父さん達呼ぶか?」


 「冗談だから止めて」


 「確かに。あっちも二人でゆっくりしてるだろうしな。迷惑か」


 「最低」


 「えぇ」


 駅を抜けたら、バスを乗り継ぎ向かう。

 残りは歩きだ。


 「到着! それじゃ、行こっか」


 「おい待て、手を引っ張るな! 走るとすぐに疲れるんだよ〜」


 「しっかり運動しなさいな」


 動物園に入ってから最初に向かう場所はレッサーパンダだった。

 手を伸ばすの禁止などの看板がある。


 「こう言う時に便利だよね撮影権利って」


 「は? 現実でも使えるの? 二億の方買ってるのか」


 「うん。便利だよ? 本来撮れない角度から撮れるからね。この権利を使っている場所もあるんだから。カメラにはカメラの良さがあるけど、私はこれで良いかな」


 「時代って凄いな」


 「時代ってよりも神だけどね」


 編集も出来るようで、俺達とレッサーパンダが良い感じの角度に収まった写真がスマホに送られて来た。

 編集により、他の客は綺麗に消滅している。


 「一緒にホーム画面にする?」


 「しない」


 俺のロック画面もホーム画面も全てがリイアたんで埋まっている。

 リアルの動物なんか、比べ物にならないのだ。


 それから移動して、草食動物が多い場所に向かう。

 結構歩く。広い。帰りたい。

 辛いよー!


 しかも、触れ合いコーナーから離れるように移動しているところがタチ悪い。

 愛梨め。触れ合いコーナーに入ったら帰るまでそこに居座る俺を想像したな。

 流石は幼馴染だぜ。


 「ね、日向くん」


 「あぁ。まだ追ってる」


 家からストーキングして来る奇特な人間が居るようだ。

 俺や愛梨、どっちかを追っているのではなく、二人ともを追っている感じだ。

 気配をある程度消しているが、俺達の前では流石に下手。


 「危害は無さそうだし放置で良いんじゃない? 普通にレッサーパンダで和んでたし」


 あの時、気配消すのを忘れて動物園を満喫していた。

 だから、そこまで警戒する必要は無いだろう。


 「愛梨、俺は後ろに回るから少し離れよう」


 「どっかで休憩するつもりでしょ? 逃がさないよ」


 腕を引っ張られて連れられていく。


 「⋯⋯とりあえず、配信者ってバレないようにしないとな」


 「だね。あ、シマウマだよ!」


 テンションの切り替えよ。

 シマウマ⋯⋯初めて見た。


 象って想像以上に大きいな。

 大抵の動物に勝てる象⋯⋯斬れるかな?


 「日向くん。今、斬れるかな、とか考えた?」


 「なぁ愛梨」


 「なに?」


 「愛梨って心を読めるスキルとかある? 或いは元から持つ特殊能力的な」


 「そんなバカな話ある訳ないでしょ。ほら、次行こ」


 すまない愛梨。

 俺は本気で考えている。

 だってお前、時々俺の心読んで来るじゃん。


 その後も色々と見た。

 猿のトリッキーな動きは中々に良かった。

 現実の俺では無理でも、データの日陰なら出来る動きだ。

 愛梨は撮影していた。


 段々とストーカーさんも動物園の方に集中しだしている気がする。

 もう、ストーキングする気が無いだろうとも思える程に。


 俺は俺で、動物園を楽しんでいる。

 そして驚いている。パンダの人気に。


 「今時、絶滅危惧種も居なければ、絶滅した動物も復活している状態なのに、パンダって人気なんだな。データ世界なら恐竜にも会えるのに」


 「データ世界に入れる人がめっちゃくちゃ多いって思っちゃダメだよ。十億だからね。それに、やっぱりリアルとデータだと少し違うんだよ。感動とかもね」


 「パンダに感動する?」


 今は長蛇の列に並んで、パンダが見れない状態でいる。

 卑しいところは、パンダを見る場所の壁に権利妨害があり、外からでは撮影出来ないところだろう。

 スマホなどのカメラならガラス越しで一応撮れる。あくまで権利が使えない。


 「こう言うところでドロップアイテムの素材が使われてるのか」


 「そうだね。最初の方はダイアなどの価値も暴落して大変だったらしいよ」


 「歴史の授業でやったな〜懐かしい」


 「そんなのやっても意味ねーじゃんって毎回言ってたよね」


 「やめて恥ずかしい」


 「ふふ」


 こんな俺達は周りから浮いていた。

 はぁ、美女と野獣の格差が酷いとここまで周りと浮くのか。


 少し離れた子供は指を向けながらなんか言って、母親に怒られてるし。

 気が重い。


 まぁでも、愛梨が楽しそうだからいっか。


 「この付近ってダンジョンないのかな?」


 「そこら辺は調整されてるでしょ。ヘルプにあるよ」


 ほんまや。

 と、次か。


 パンダのご対面。

 周りがうるさいこった。


 愛梨も撮影に勤しんでる。


 「⋯⋯分かんね〜」


 可愛いと思うよ。うん。終わり!

 特に右側にいる寝ている君とかね。笹を食べた後なのかな?

 下に転がってる。


 次に来ましたは俺が来たかった触れ合いコーナーの犬。

 可愛い。

 小さいのから大きのまで。


 「父さんが犬アレルギーじゃなかったら飼ってるのに。母さんが猫アレルギーじゃなかったら猫飼ってる!」


 やばい。

 もうずっと居られる。

 次は猫行きたいのに、この場所から離れられないよ。

 デブスに撫でられてもしっぽ振ってくれるとか天使かよ。


 「はぁ、動物って良いね」


 「⋯⋯わん」


 「⋯⋯」


 愛梨がポメラニアンを抱えながら小さく呟いた。

 そのつぶらな瞳はなんだ。


 「⋯⋯わ、わん」


 「愛梨、頭大丈夫か?」


 すると、何故か他の犬達に軽く噛まれた。

 担当の人が慌てて来たけど、痛くはない。本当に軽く噛まれた。


 「皆は私の気持ちを察してくれるんだね」


 慰める様に犬達が愛梨の元に集まる。

 その光景は凄く、子供達も静かに見守っていた。


 「何がどうなってるんだよ」


 「うぅ、私、犬派になりそう⋯⋯」


 ポンっと、俺の隣に居た犬が前足を置いて来た。

 なんだよ、その目は。


 昼ご飯となった。


 「昼時だから人が多いな。さっさと食べて移動するか」


 「だね。⋯⋯日向くん、一口ちょうだい?」


 「ん? ああ、ほらよ」


 俺は皿を愛梨に寄せる。


 「いや、そこは、さ? ラノベとか読んでるんだから分かるでしょ? ほ、ほら?」


 「めんどくさいな。別に良いけど」


 俺はスプーンで自分のを掬い、愛梨に近づける。

 愛梨は少し躊躇った後に、口に運んだ。

 お返しは必要なかったので、断った。

 周りの目が嫌だったし。


 午後三時くらいのクレープは一口交換をした。

 そんな感じで、なんやかんや楽しく俺は動物園を過ごしたのだった。


 「土産に色々と買って帰るか。インベントリが欲しいぜ」


 「だね〜」

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