第33話 イベントに誘われたけど、絶対に行かない

 編集をしていると、スマホが通知音を鳴らす。

 DMであり、内容は配信者イベントについてだった。


 「誰だろこの人」


 調べてみると、リイアたんレベルとは言わずとも、かなりの人気な配信者だった。

 イベント内容は、宝探しだった。


 「わざわざ探索者を集めたのにリアルで会うのかよ」


 突然そんなのはお断りだ。

 そもそも探索者がリアルイベントに参加するのだろうか?

 アバターと違う見た目にしている人が多いと思うのだが⋯⋯。


 ま、良いや。

 神楽にも聞いてみようかな。


 『え、その人凄く有名な人じゃないですか! 日陰さんの登録者だと誘わないと思うんですけど⋯⋯やっぱり上昇率にあやがりたいんですかね?』


 そんな⋯⋯こともあるのだろうな。

 俺が何かをしたってだけで、話題になる可能性はある。

 そもそもリアルイベント、これは多分俺を狙っている。


 リアルが現状判明していない日陰のリアルを少しでも暴きたいのだろう。


 神楽の方には誘いはなかったらしい。


 『行かないんですか? さらにチャンネル登録者を伸ばすチャンスですよ? 人気者に誘われたなら、行って数字を貰いましょうよ!』


 神楽は凄いな。


 「リアルバレが嫌だ」


 その旨を送信する。


 『探索者なんですよね? リアルで会って、データ世界でなんかすると思いますよ?』


 でそれだった、データ世界で会えば良くね?

 わざわざ現実で集合する必要は無い。


 『コラボ報告をギリギリまで隠したいからじゃないですか?』


 「そう言う考えもあるのか。俺のリアルを探りたいって目的もあるだろうけど、⋯⋯まぁ、結局は無理だな」


 そもそもこのコラボにはVTuberが来ない。

 つまり、リイアたんが来ない。

 主催者も知らない、推しも居ない、リアルバレの恐れがある。


 はい、行く必要皆無。

 誘いを丁寧にお断りしよう。


 「お誘い頂き、誠に感謝いたします。たいへんありがたいお話ですが、今回はお断りさせていただきます。お誘い頂いた身でありながら、断る事、すみません。また、このような機会があれば、お誘いをいただけると、嬉しく思います」


 俺、断り文のやり方とか知らないし、これで問題ないかも分からない。

 ん〜。ちょっと保留するか。


 「少しだけ、考えるお時間をください」


 告白された時の女の子かっ!


 登校中に俺は愛梨に誘われた事を相談した。


 「あーそれ有名だよ。リアルが判明されてない配信者のリアルを見たいって感じらしいよ。私も誘われた事ある」


 「そうなんだ。ね、その時ってどうやって断ったの?」


 「日向くんも断るよね。うん。良いよ。⋯⋯そうだね。昼休みに一緒にやろっか」


 「なぜ?」


 「良いの」


 そして俺がいつものように学校生活を謳歌する。

 違う事と言えば、芹沢達が絡んで来ない事だろう。

 おかげで、教室に居る豚を超えて空気になりつつある。


 俺のメタボリックボディを持ってしたも空気となる。

 まるで常に霧外流を使っている気分だ。


 「な、なあ霧外」


 「⋯⋯」


 芹沢達が来た。

 だけど、いつもと違って俺の事を苗字で呼んでいる。

 何か悪い物でも食べた様だ。


 「「「今まで悪かった!」」」


 「⋯⋯え」


 クラス全員が静まり、こちらを注目する。

 教室でも目立っていた問題児である芹沢達が俺に頭を下げたのだ。

 当然目立つ。


 「なん⋯⋯」


 「俺は探索者として、そこそこやって来てて、金も稼げて、天狗になってた。自分が他よりも優れていると勘違いして、今までずっと酷い事してた。本当にすまない。お前に負けて気づいたんだ、色々。でも、遅すぎる」


 芹沢が謝罪をもう一度口にした。


 「同じだ。反抗して来ないから、良いんだって無意識に思ってて、ブレーキが効かずにエスカレートして行った。謝っても許される事じゃない。何したって構わない。ただ、本当にすみませんでした」


 阿久津が謝罪する。


 「言い訳を並べても意味無いのはわかってる。でも、本心だから真剣に聞いて欲しい。悪い事をしてもその自覚すら無かった俺らを、正してくれて、ありがとう。今まで、申し訳なかった」


 我妻が、謝罪する。


 なんだこの時間は。

 別に俺は謝罪を求めてはいなかった。


 ⋯⋯違う。

 こいつらもそれは理解しているのかもしれない。

 あの一戦により深く冷静に考え、自分の事を振り返って、出した決断が謝罪なのだろう。


 「君らは、俺以外にも同じような事を、過去にして来たか?」


 「いや、してない」


 嘘じゃ無さそうだな。


 「なら問題ない。今後は気をつけな」


 「え、そ、それだけか?」


 「あーうん。俺は別段君らを恨んでいる訳じゃないよ。暴力も対して痛くなかったし」


 それだけ言って、次の授業の準備をしようとする。


 「絶対に、返すから」


 「何を?」


 俺、こいつらに金を与えた覚えはないぞ?

 初めてカツアゲされた時は財布に普通に金なかったし、それ以降は財布を持って来てすらない。

 何かを貸した覚えも、あげた覚えもない。


 なのに何を返すのか?


 「アバターの復活代、絶対に返す」


 「あーそう言えばしてたね。うん。良いよ別に。気にしてない」


 「そうはいかない。一千万は大金だ。俺ら三人で三千万だぞ! 霧外は強いから一千万すぐに稼げたのかもしれないけど、俺達じゃそうはいかない」


 別に強さ関係ないただの運だけど?

 そう言われると、めちゃくちゃ心苦しいんだけど?


 物理的暴力よりもダメージの高い攻撃をしてくるなこいつら。


 「だから、絶対に返す」


 「⋯⋯」


 これがこいつらなりのケジメって奴なんだろう。

 だったら、それを受け取るのも俺の役目だろう。


 俺がこいつらを増長させてしまった。

 反省しているようだし、今後の成長も期待出来る。

 そんな人達を蔑ろにするのは、良くない。


 野放しにするのも、見捨てるのも、良くない。

 俺に金を返すと言うなら、それを手網として、しっかりと握っていよう。


 「わかった期待している」


 「「「ああ!」」」


 ⋯⋯一千万を出しても痛まない。

 俺の金銭感覚は完全に狂い出している。

 未来の俺に丸投げ作戦は、これだけには通用しない。


 昔のような感覚を取り戻さないと、俺は道を外してしまいそうだ。

 ⋯⋯俺もオークションに頼らず稼げるように成らないとな。


 配信者日陰として、探索者日陰として、霧外流後継者日向として。

 こっからだ。

 俺の青春は、こっから⋯⋯始まるかな?


 昼休み、芹沢達に食事を誘われたが、俺は愛梨との約束がある為断った。

 愛梨との関係を聞かれたが、のらりくらりと躱している。

 クラス全体の謎になりそうで怖い。


 後は、日陰のチャンネルを凄く推されて心臓の音が聞こえたくらいか。

 そんな普段とは違う日常を謳歌し、今は愛梨と一緒に弁当を食べている。


 「断る時は、気持ちへの感謝とこちらの都合で断る謝罪を入れれば良いよ」


 「やっぱそんなもんだよね。でも不思議だな。顔も本名も知らない相手にいきなり誘われて、断るのにも感謝や謝罪をしないといけないんだから」


 「まぁ、下手打って晒されたら終わりだからね。大炎上だよ。日向くんは痛手無いかもだけさ」


 「いや、炎上は怖いかな。誹謗中傷とかなら耐えられる自信はあるよ? でもさ、これがあるから」


 俺は日陰の事をネタにしたサイトを開いた。


 イベントでの『リイアたん』発言が、日陰をリイアのファンとする記事。


 「助っ人がリイアたんって名言しては無いけど、世間的には確定している。少なくとも世間はそう見ている。完璧なリイアたんでも、アンチは存在する」


 愛梨が自分の事を指さす。

 愛梨とリイアたんは似ているけど、別人である。


 「日陰が炎上したら、リイアたんアンチと言う愚民が飛び付く。嘘で固めて捏造を前提とし、それがあたかも真実のようになる。日陰の炎上だけなら問題ない。問題は、それがリイアたんに飛び火する事だ。それだけは、耐えられない」


 「日向くん⋯⋯それって幼馴染だから? それとも推しだから?」


 「もちろん後者に決まってるだろ?」


 何を言っているのやら。


 「⋯⋯明日から弁当無しね」


 「嘘です。もちろん愛梨の事も心配しております」


 俺は誠心誠意、土下座をした。

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