第31話 日陰さん本格始動

 今後の事を神楽に相談する事にする。

 何故か分からないが、愛梨に相談しなかった事を彼女に伝えると恐ろしい感じがしたので、ちゃんと相談する。

 理由は簡単で、撮影の仕方に関係する。


 愛梨は一人称の攻略を撮影した後に、Vとして解説していく形を取っている。

 俺は三人称で、撮影と解説を同時に行っている。神楽も同じだ。

 まぁただ、俺の場合はトラップに引っかかって慌てたり、モンスターに助けられたり、エネミーをボッコると言った単純な動画しかないけど。


 「さて。編集のやり方を教えてくれてありがとう、今後の事をどうしたら良いのか相談したい、と」


 俺はメッセージを送信する。

 現実のアプリだと名前バレとかが怖いので、異世界データのメッセージ機能を使っている。

 フレンドとならそのような事も可能なのだ。


 『まずは方針を決めたらどうですか?』


 「なるほど」


 愛梨は高ランクの攻略の実況解説。

 主にソロでの立ち回りが基本であり、探索者として観て来る人は少ないらしい。

 やっぱリイアたんは凄い。


 神楽は初心者向けの攻略解説や魔術士の戦術を色々とやっている。

 キャラ付けとして、明るい陽気な女の子、というのがある。

 語尾に『す』をつけるのがその証拠らしい。


 俺もキャラだけは付けている。

 クール剣士をイメージしている。

 次は方針。


 「俺だけの強み。神楽の場合はイフリート、リイアたんの場合は実力の高さ」


 愛梨が自分の事を指さしているけど無視する。

 ガン見だ。


 俺だけの強みと言ったら、バズった原因でもあるモンスターカードだろう。

 自慢する分なら問題ない⋯⋯神だってそう言っていた。

 寧ろ一喜一憂する俺はおもちゃとして見られている可能性だってある。


 「どうせただドロップしたとは思われてないだろうし、良いかね。俺はモンスターカードの数で勝負する!」


 その旨を神楽に伝える。


 『羨ましいですね! でも、良いと思いますよ。それですごく話題を集めているのに、勿体ないです!』


 でも、少しだけ不安もあるんだよな。

 それが圧倒的アンチの存在。

 神楽のような存在が現れないとも限らない。


 それだけじゃない。

 日陰の持つ力を調べてやろうって言う人も現れるだろう。

 つーか、既に何人かは知っている。よく見るもん。


 「人に会ったらすぐに現実世界に逃げるか。早速、今日やってみるかね」


 そんなわけで愛梨を置いてダンジョンにやって来ました!

 当人は凄くゴネて来たけど、流石に助っ人はもう十分だ。


 こっからだ。

 ここから日陰としての人生が⋯⋯始まって良いのかな?

 ま、良いや。


 「いずれチャンネル名もそれっぽい感じにしよー」


 ダンジョンに入って、俺はすぐに4枚のカードを取り出す。

 そろそろイベントが切り替わりそうなので、メイド補充をしておこう。


 「ポイント集めで全力出すと、俺の方針と合わないよね。先に撮影からやるか」


 今回用意するのは三級メイドの四名だ。

 Uランクのダンジョンなので、三級で十分である。


 「召喚!」


 今回用意したメイドは、三級盗賊メイド、三級斧士メイド、三級回復メイド、三級召喚メイドである。

 召喚メイドが召喚するモンスターは馬である。


 「さて、撮影開始だ!」


 俺は日陰のキャラをイメージする。


 「どうも日陰です。今回はメイドパーティをご紹介します!」


 俺の強みを生かした配信スタイル、それはモンスターカードでパーティを形成する事だ。

 そこにコンセプトを用意して実況する。


 「今回のコンセプトは、題して、敵を見つけて高速高火力で瞬殺チーム(保険あり)!」


 盗賊メイドにより索敵やトラップを把握し、召喚メイドが呼び出す馬で斧士メイドを高速で移動させる、そして叩き込む強い一撃。

 それが今回のパーティだ。

 回復メイドが居るのは純粋な保険となる。


 メイド達は役職外のところがめっぽう弱く、斧士に関しても、攻撃を受けたら大ダメージとなる。

 Uランクダンジョンで一番注意する事は、俺がエネミーの攻撃を受けない事だ。


 「なんやかんやで私が一番弱いのか」


 とりあえず、召喚メイドの呼び出す馬に乗って移動する。

 俺のだけ黒い色の馬で、他は白馬だった。


 「それじゃ、真っ直ぐ出発!」


 すると、馬は目の前を通らないように回り込んで、移動した。

 何故かと振り返ると、盗賊メイドがトラップを起動してくれた。


 「なるほど。トラップがあったのか⋯⋯あのまま進んでたらまた、トラップに引っかかってたの?」


 入ったところからすぐにトラップってなんか、運があるな。

 だけど盗賊メイドが居る限り、俺はトラップに引っかからない!


 そしてエネミーを発見して、特攻させ、瞬殺する。

 それを繰り返してレベル上げと撮影を繰り返した。


 「中々良い感じじゃないか? 特に面白い絵は撮れなかったけど」


 強いて言うなら、モンスタートラップに引っかかって全滅仕掛けた時か。

 盗賊メイドの妨害スキルでなんとか切り抜けたけど、かなりヒヤッとした。

 三級メイドは喋らないから、俺とは意思疎通が取れない。


 なので、盗賊メイドが意図しないトラップを俺が何回か起動している。

 その度に怒りの感情を向けられた気がするけど、きっと気のせいだろう。

 冷や汗が止まらないのは、きっと死にかけせいだ。


 「さて、この辺で良いかな」


 俺は撮影を終えて、メイド達を戻した。


 「お疲れ様」


 そしてメイを呼び出す。

 代理召喚で二級以上のメイドを呼び出す。


 「これより、ガチャポイントを全力で貯める! メイド軍よ、ダンジョンのエネミーを殲滅しろ! 他の探索者の邪魔はするな!」


 「マスター命令発動、全軍出撃!」


 「あ、メイの護衛は三級メイドに任せるね」


 さて、俺は俺で自分の腕を下げない為にエネミーを探す事にする。

 モンスター相手と人間相手では刀の扱いが変わる。

 この体ではモンスター相手に、日向では人間相手に、そのように切り替えていきたい。


 神が主催するイベントなら参加出来るが、配信者や国が行うイベントには参加出来ない。

 リアルバレがある可能性があるから。

 データ世界集合なら、参加出来る。


 神が主催するイベントにはモンスターが絡む事が多い。

 その時のためにも、備えておく必要はある。


 「お、見つけた見つけた」


 見た目はゴリラのエネミー。

 メイドとの戦いを見て、相手の戦い方は学習している。

 殆どが瞬殺されていたけど、反撃して来たゴリラも居る。

 だから分かる。


 ゴリラの主な攻撃方法はパンチだ。

 その速度はかなり速かったが、目で追えない速さではない。

 刀を抜き取り、構える。


 ここには俺を護衛してくれるメイドは居ない。

 俺が自分一人の力で、誰の助けも無い状態で戦いたいから。

 メイドが近くにいると、助けがあると安心してしまう。


 「そんじゃ、ゴリラさんよ。狩らせてもらうぜ!」


 俺は突き進んだ。

 気づいたゴリラも負けじと特攻してくる。

 速いな。


 「でも、オーガよりも威圧感は無い」


 まずは相手の攻撃をギリギリまで引き付けて避け、反撃の刃を与える。

 うん。全然動ける。


 動けないのは現実の体だ。

 あぁ、なんか悲しくなって来た。


 「リアルの方でも、体の動かし方を覚えないとな。デブにはデブなりの動き方があるって、見せてやる」


 ゴリラの攻撃は大振りなので、一度回避したらコツを掴めた。

 もうゴリラの攻撃は当たらない。

 後は、俺がゴリラを倒すだけ。


 そこで俺は良い事を思い出した。

 スキルは買えるが、熟練度とやらでも手に入る。

 俺の初期以外のスキルがそれに当たる。

 〈作業厨〉だけはスキルかは怪しいけどね。


 うんじゃ、何らかのスキルを狙って攻撃をしていきますか。


 ゴリラを倒した時に得られたのは、ゴリラの皮膚と経験値、お金にポイントだった。

 スキル? なにそれ美味しいの?


 「さーて、ゴリラ相手に一時間も試行錯誤しながら戦闘したし、疲れたなー。帰るか」


 ポイント集めでの放置する時は、何かしら欲しいな。

 退屈だ。


 俺は帰る事にした。


 現実世界に戻る。


 「結構頑張ったんじゃないか? 後は長い録画データを編集して、公開するだけ」


 帰ろうとすると、俺と同じダンジョンに潜って居ただろう人が、虚空から現れる。

 ダンジョンから出るってあんな感じなのか。


 ふしぎー。


 「くっそ。日陰はどこに行った!」


 そんな外国人風のイケメン男が叫び、俺はビクッとした。

 叫びにびっくりしたのもそうなのだが、俺の事を呼んだのも驚いた。


 あ、やべ。

 目があった。


 すぐに逸らされた。

 そ、それもそうか。

 このイケメンくんが用あるの、俺じゃなくて日陰さんだもんね。


 なんで場所バレたんだろ。

 誰かが勝手にメイドの目撃情報をネットに流して、追いかけて来た⋯⋯ないか。そう信じてこ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る