第29話 ケジメつけます
イベント後のオークションは話題になったが、イベントの余韻が大きかったのか、誰が売ったのかは情報が出ていなかった。
ただ、噂では日陰がオークションに出していると言われている。
ありがたい勘違いだ。
神楽には編集のやり方を教えて持っている関係である。
未だに父から剣術を学ぶ、昔のような関係には戻れていなかった。
愛梨からは戻らないのかと言う催促や神楽との関係を沢山聞かれた。
そして、俺は現在、芹沢達に呼び出されている。
「そんじゃ、いつものやるかぁ。きちんと立場を教えないとな」
愛梨と並んで登校したせいで、芹沢達の反感を買ったようだ。
他の人達はあまり気にしてはいなかった。
こいつらも、あまり俺と愛梨の関係を知らないだろうし、難癖だろう。
まぁ理由は良い。
「もう止めてくれないか?」
「あぁん?」
胸ぐらを掴まれる。
俺が反抗的な態度を取ったせいで、火に油を注ぐ結果となったらしい。
だけど、構わない。
「もう止めて欲しい。迷惑だ。毎日毎日。制服が汚れるんだよ!」
「どうしたの急に? 豚がちょーし乗ってるの?」
阿久津が薄ら笑いを浮かべながらそう言って来る。
「お前は俺らのサンドバッグをしているのがちょうど良いの。適材適所。わかるかな? 豚語じゃないと分からいかな? ブヒブヒ」
「芹沢⋯⋯俺は本気だ。迷惑だから、もう止めて貰いたい」
「うーん。考えてあげなくもないよ?」
芹沢の返答を待っていると、鼻笑いを浮かべてから言葉を出す。
「お前が十億持って来たらな!」
十億か。持ってるけど。
「⋯⋯だったら、データPVPで俺が勝ったら、止めてくれるか?」
俺がそう言い放つと、三人が同時に腹を抱えて笑い出した。
まるで俺がありえない事を口走ったかのように。
実際、教室にいる豚が運動部でもありダンジョンで金を稼いだりしているコイツらに勝てるかは怪しい。
スキルの性能で普通に負けれるのだ。
だから俺が仕掛けるのは⋯⋯前回のイベントよりも平等性を意識したルールだ。
こいつらならその条件を呑むはずだ。
俺を格下と見ているから。
「ルールは俺が決めていいだろ? レベルは均一、スキルの使用は不可、モンカド使用不可、痛覚50パーセント」
本来なら、腕を斬られても、少し痛む程度しか痛覚を感じない。
しかし、今回のルールでは実際に与えられる痛覚の半分を受ける様にする。
これは餌だ。
俺に苦痛を与えたいこいつらの考えを汲み取っての結果だ。
100パーセントは出せない。そう言う仕様だ。最大50。
もしも100でやった場合で殺した時、現実世界に戻ると殺された感覚が全て脳に流れ込み、普通に死ぬらしい。
「どうする?」
「お前、本気で言ってるんだな?」
「ああ」
「良いぜ。阿久津、我妻、良いだろ?」
「ああ!」
「もちろん」
「タイマン三回勝負、一回戦目で終わらせてやるよ。せいぜい楽しませろよ!」
PVPを承諾し、専用のフィールドに転移する。
当然、データ世界なので体がアバターとなる。
あまり苦しませない様に終わらせないと。
俺は別に、アイツらに恨みがある訳じゃないしね。
俺の装備は全身を隠せるローブに声を変えられるごっついマスクだ。
作り物のイケボを出せる。
「なんじゃそりゃ! お前、アバター改造してんのかよ! 痩せてる体で全身隠すって、厨二かよ!」
おまっ、こう言う格好の人全員に謝れよ。
気配を消して戦う、アサシン的な人は全身隠すだろ。
十秒後に体は動けるようになり、芹沢が駆け出す。
「ぶっ刺してやる!」
芹沢の武器は槍だった。
「槍との戦いはもう、慣れた!」
俺も踏み込む。
相手はフェイントも何もしない。本当に刺す気のようだ。
俺を随分と下に見ているらしい。
当然と言えば当然だ。
暴力、暴言、色々として来たのに反抗がなかった。
ダンジョンでそれなりに稼いで、優越感に浸っていたのだろう。
俺を格下と侮るのも仕方ない事だ。
「アバターを壊されるよりは良いだろ」
俺は攻撃を潜り込みながら回避して、両手を切断させる。
これで相手は武器を握れない。
「うああああああああああ! 手があああああ! いでぇえええええ!」
刹那、芹沢から絶叫が響き渡る。
50と言う最大の数位。餌にしたが、流石に下げるべきだった。
今からでも変えられないだろうか?
両手を切断されて、半分の痛みと言えど耐え難い苦痛なのは間違いないだろう。
さっきまで気持ちで優勢であり、高ぶっていた芹沢。
それが一瞬にして覆されたのだ。
ま、そんな事を考えるよりも痛みに耐えるのに必死だろうけど。
「嘘だ。嘘だ嘘だ! お前のような豚に俺が負ける筈ないんだ! お前、ふ、不正しただろ! ふざけるな! こんな試合は無能だ無効! さっさとリタイアしろ!」
「俺は不正なんてしてないさ。芹沢の攻撃を避けたのも、両手を切断したのも、俺だ」
「嘘だ。ぶ、豚なんかに⋯⋯」
「ここはデータだ。現実世界の身体能力は一切加味しない。この場で頼れるのは、戦闘センスと戦闘技術。その両方が、お前には欠けていたんだよ」
「そ、そうだ! それが悪いんだ! 現実なら、お前は、お前なんかが俺に勝てる筈ないんだああああ!」
叫びながら迫り来る。
降参すれば、修繕費だけで良かったのに。
「芹沢、教えてやる。霧外流の真髄を」
俺は構えた。
素人相手に、ましてや喧嘩のために流派の剣術を使うなど愚の骨頂。
先祖に顔向けできない行為だ。
しかし、この場で芹沢を一番納得させる方法を取りたい。
そうなると相手に死という恐怖を与えてしまう。
だが、それを与えない。
霧は遠くから見たら、白い空間が広がっている。
しかし、中に入って自分の近くでは霧を見る事が出来ない。
或いは認識していないのか。
霧外流の真髄はそこにある。
近くにあると認識出来ない霧のような剣術。
それが俺の家が紡いだ剣術だ。
斬られた事すら認識させない。剣を振るった事すら相手には分からない。
暗殺、殺人、その為だけに開発され研究され進化させられた剣術。
モンスターよりも人間相手の方が俺は、強い。
「霧外流、水霧」
切り上げの斬撃で芹沢の首を刎ねる。
その後、勝利を確定させるウィンドウが現れたので、そこを操作して一千万払う。
「次はどっちだ?」
「それは⋯⋯」
阿久津が名乗りを上げようとしたのを我妻が止めて、入って来る。
次は我妻だ。
武器は戦斧。
「どんな小細工をしたかは分からないが、俺には通じねぇぞ! お前は豚らしく、俺らのストレス発散道具が似合ってんだよ! 大人しく死んどけ!」
「我妻、なんでお前らは俺に目をつけた?」
「は? 簡単な理由だよ! お前がデブスだから、それ以外に理由がいるかよばーか!」
「そう」
俺は既に肉薄していた。
「なんっ!」
「喋っている時に警戒心が解けてしまうとは、まだまだだな」
俺は痛みを与えない様に我妻を殺した。
芹沢を見た感じ、降参する事はしないだろう。
だったらさっさと終わらせてやるのが一番だ。
安くない出費を支払う事にはなるけどね。
「一体⋯⋯何が起こってるんだよ」
「さぁ最後だ阿久津。お前らが格下と見ていた豚の、下克上だ」
「じょ、上等だよこの野郎! ルックスの良いアバターにしたんだろうがなぁ、中身はあの豚なんだよ! 見た目を装ってもそれは変わらねぇ! 身体能力が同じだからって、勝てるとか慢心してんじゃねぇぞ!」
「余裕が無いな」
最後の阿久津。
阿久津の武器は青龍刀である。
「死ねええええ!」
バカの一つ覚えのように、激昂して直線的に攻めて来る。
間合いを考えながら戦うのが対人戦の基本⋯⋯それが母の教えである。
リーチは俺の方が上だ。つまり、俺の方がこの場においては有利。
相手が迫って来たらバックステップで逃げる。
「クソがっ! 逃げてんじゃねぇぞクソ豚が! 正々堂々と戦えや!」
「現実世界で正々堂々が成立していたら、お前らは俺に暴力を振るっていたか?」
「⋯⋯ッ!」
「そう言う事だ。世の中に正々堂々なんてのはないんだよ。才能、運、努力、それらが秀でた者が上に立つんだ。世界は理不尽の塊なんだよ阿久津! もう俺に、他の人にも、同じような真似はするんじゃねえ!」
俺は阿久津の攻撃後のタイミングを見計らい、殺した。
現実世界に戻る。
三人は倒れ込み、絶望したような顔をしていた。
何が起こったのか分かってない。
分かってはいるが理解したくない。
自分らが下に見ていた相手に負けてしまったと言う事実を受け入れたくない。
そのような感情がきっと、三人にはあるのだろう。
「もう、いつものような事はするなよ。金が欲しけらば、ダンジョンに行けば良いだろ。今時、小学生でも大金を稼げる時代なんだから」
俺は教室に戻った。
もう、あいつらは俺に関わって来ないだろう。
現実世界で再び襲って来るなら、反撃する。
データ世界の方がまだ勝ち目があるのだが、それにアイツらは気づかない。
「過去を忘れる事は出来ない。でも、過去の後悔を未来に繋げる事は出来る⋯⋯今日から剣術、学び直すか」
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