第28話☆ 日陰=霧外の認識

 「どうでした?」


 「ん〜真っ黒」


 「そうですか」


 俺は霧外少年に一つだけ嘘を言っていた。

 それは、俺の鑑定スキルはアイテムにしか使えないと言う事だ。

 俺の鑑定レベルは5であり、少しだけなら人も鑑定出来る。


 見れるのはあくまでステータスだけだけどね。

 ただ、それで見れた改竄されたステータス。

 それだけでもう、彼は黒だと判明した。


 「鑑定妨害のスキルを買っていたら、とか思ってたんだけどね」


 「イベントで日陰の装備を見た感じ、一気に使ってますからね、あれ」


 「だよね。まぁ、高い装備程性能は高くなるし仕方ないのだろう」


 改竄されたステータスの名前は『日陰』だった。

 ファンで同じ名前にする人はいるかもしれない。アバターも似せる人が居るだろう。

 でも、日陰に関してはあまり姿を真似る人は居ない。


 真似たら寄って来る人はモンカドを求めて来るからだ。

 めんどくさいし、すぐに嘘だとバレる。

 それでもやる人は居るだろう。


 彼はその内の一人だろうか?

 俺は違うと思う。


 姿形、声がなんらかの理由で勝手に変更されて、改造が出来ない状態。

 そこで何かしらの理由で配信者を目指す⋯⋯現実リアル異世界データで完全に分けられるなら多少無茶をしても問題無いと思ったんだろう。


 ステータス改竄理由で思い当たる節は主に二つだ。

 俺は賢くないからね。沢山の理由は思いつかない。


 まず一つ、それがモンカドの入手に関係するスキルを隠す事。

 改竄されたステータスを看破するには鑑定スキルのレベルは6が必要となる。

 沢山使って熟練度を上げるか、金で上げるか。

 6まで上げる人は中々居ない。

 6でも、改竄される前の本名は分からない。


 二つ目は純粋に配信者の名前を持つ事だ。

 PVPを挑まれたらステータス表記の名前が相手にバレてしまうから。

 それを見越しての改竄だと思う。


 もちろん、PVPを回避するモノを買えるようにはなっている。

 でも、それは期間が設定されており無限では無い。

 つまり、金が結構かかる。


 「いや、その路線は低いか? そもそも一般的な認識は女性だ。霧外くんに白羽の矢が立つ事は無い。なぜ名前を焦って変える必要がある? スキルは分かるが⋯⋯」


 「中には男だと思っている人も居るらしいですよ。見た目で選んだモンスターメイドのお陰で」


 「メイド⋯⋯あのイベントは凄かったな。もしも本当にモンカドのメイドだった場合、外国も黙ってない。あんなのが国家対抗戦に誘われてみろ、ゲームバランスが崩壊する」


 名前を変える理由。

 何かから防ぐ為だ。


 特に暴力を振るわれている様な痕跡は見られなかった。

 学校で何かがある可能性は高いけど、それだったら名前を変えるんじゃなくて声を変える装備が必要だ。


 「声を⋯⋯なるほど。今回のオークションはそれが狙いか」


 「何か分かったんですか?」


 「これはあくまで俺の仮説だが、PVPをする場合、相手には自分の姿がわかっている。もしかしたら名前も。そうなった場合に必要なのは、声を変えたりアバターを隠す装備だ。今までの仮説が正しいのならね」


 イベントで羽織っていたローブはフードがある。

 姿を隠す為と考えれば納得は行く。

 彼は物を高い物にする傾向がある。

 性能が良いから。


 今回は声を変える装備を購入するためだ。

 なんのために?

 PVPを行う場合、自分が日陰とバレない為に。

 改竄は権利を買えばいくらでも出来るからね。名前も戻せば良い。


 「後は霧外くんとして戦う為の予備装備」


 「名前の改竄はついででしょうか?」


 「⋯⋯西野、お前って時々鋭いよな」


 「え?」


 無意識?


 「名前の改竄はスキルを隠す為のついで、それは絶対に違うぞ」


 「どうしてですか?」


 「わざわざ日陰にする必要が無い。寧ろ疑われる可能性の高い状態にはしない。日陰にする必要があったんだよ」


 鑑定スキルの性能を知らなかったようだし、もしかしたらスキルの改竄こそがついでに行われたモノかもしれない。

 そう考えると、名前を変える事が必要であり重要なことだったとなる。

 何故だ?


 「リイアとの関係もそこにあるのか?」


 「あの、モンカドをオークションに出しますね」


 業務用のスマホの中にデータとして一度入れ、日本中に発信する。

 世界には流さない。

 世界に流した方が大金を得る可能性があるのは確かだ。

 しかし、それは政府から禁止されている。


 データでの戦いは神々が行う『イベント』だけが娯楽じゃない。

 人同士で行うPVPもそうだし、eスポーツの様な扱いにもなったりする。

 全国大会、そのようなモノも存在する。


 だからこそ、日陰のモンカドは日本も外国も喉から手が出る程に欲しい。

 出来ればモンカドの入手手段を発見したいのだろう。


 「だけど、簡単にはやらせない。ここの支部範囲の探索者を守るのが、このギルド支部の役目だ」


 「どうしたんですか?」


 「いや、少し忙しくなると思っただけだ。スキルの場合、アメリカのアイツが危険だ」


 「⋯⋯ジャックですか?」


 「ああ」


 ジャック、アメリカランキングナンバーワン、世界ランキングナンバースリー。

 圧倒的実力とスキルの多様性。

 その沢山のスキルを扱える彼自身のセンス。


 問題は彼が持っているユニークスキルだ。

 表立って公表されては無いが、知っている人は知っている。


 「モンカドを生み出すスキルを『コピー』されたら大変だよ」


 そう、ジャックの持つユニークスキルは《スキルコピー》だ。

 性能が下がった状態で対象のスキルをコピーして入手出来る。

 その使用条件などの詳細は知らない。


 性能が下がるとしても、モンカドを大量に手に入るスキルが手に入れられるのは日本としては痛手だ。


 「ジャックは会いに来ると思いますか?」


 「来るだろうな。現状、ユニークスキルをコピーしたと言う話は聞いた事はないが、その場合は日陰を取り込もうとする」


 「出来ますかね?」


 「どんな性格か分からないけど、あれが彼の性格なら、金に揺らぐ可能性はあるね。アメリカは財力が違う」


 名誉も金も全てを使ってでもあそこは日陰を取り込もうとする。

 それだけモンカドの価値は高い。


 「アメリカは世界ランキングにこだわっているからな。固執していると言っても過言では無い」


 「現在、彼が日陰だと断定して動いているのは私達だけですか?」


 「そうだと、良いな。霧外くん本人に注目している人は少ないよ。頑張って隠してはいるし、何よりも彼自身がパッとしない」


 「⋯⋯」


 西野が考え込むなんて珍しいな。


 「何か思う事があるのか?」


 「あーいえ、ただ、さっき彼の背後に回って声をかけたじゃないですか、一階で」


 「防犯カメラ映像で見てたよ」


 「その時ですね、彼が私を認識した瞬間に殺す勢いの殺気を放って来たんですよね。すぐに止めてくれたので良かったのですが⋯⋯あと一秒長引いていたら私も反撃してました。現実世界で勝てるかは分かりませんが」


 「データ世界では勝てる?」


 「ご冗談を。私に日本で勝てる探索者はリイアだけですよ」


 「クラゲマンは?」


 「彼は⋯⋯勝負の内容によりますね」


 「ふふふ。って、結局名前の改竄理由が皆目検討もつかないな。リイアとの関係、どう思う?」


 「そうですね。イベントの映像的に、かなり慣れ親しんでいると言うか、連携は凄いですよね。そこまで長い間パーティとしてやってる雰囲気はなかったのに。リイアのパーティメンバーよりも息が合っているように感じます」


 「バチバチに斬り合っているけどね。リイアがスキルを封印して戦った理由はそこに関係ありそうだね」


 リア友、正々堂々と戦いたかった?

 リア友である場合、霧外少年が日陰と断定している状態で、男女の友情?

 リア友って言う考えを捨てた場合は恋人か幼馴染か。

 それとも、リイアが女と言う前提が違うのかもしれない。


 彼女のリアルを知るのはパーティメンバーだけだ。


 「リアル、パーティ⋯⋯ログ?」


 「え?」


 「いやでも、パーティを組む必要性はないのか」


 「どうしたんですか?」


 「いや、リイアのパーティにリアルで友好的な霧外くんが入り、そこから日陰バレを恐れて、急いで名前の改竄を行った、ログで分かるから。そのような仮説を立てたんだけど、パーティを組む必要は無いから立証出来ないね」


 「そうですか。色々とめんどくさいですね。辞めて良いですか?」


 「本部に行くの?」


 「フツーに引退」


 「もう少し頑張ろうよ」


 「支部長は引退しないんですか?」


 「しないよ。安定した仕事を約束しているからね。嫁さんや娘達に」


 「そうですか。⋯⋯なら、私ももう少し頑張りますよ」


 「助かる」

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