第20話 激突、幼馴染

 「残り時間は後二時間、回復ポーションも全部使ったし、そろそろ大詰めか?」


 合計ポイントは3042。

 神楽と決別してからは、漁夫の利でポイントを集めていた。

 一人ではだいぶきつい。

 あちこちでチーム戦が行われているからだ。


 特にクランでの団結力が高いところが強かった。

 最終的にクラマスが勝っていれば良いって考えで、命を気にせずに戦いに向かうから。


 「タイミング的にはそろそろ使う時か。安全な場所を探したいけど⋯⋯」


 瓦礫の下から顔を出せば、周囲は殺風景になっている。

 モンスターの破壊力は本当に高く、簡単に建物も破壊する。

 まぁ、プレイヤーも普通に地形破壊するので、一概にモンスターのせいとは言えないけど。


 「これだったら、最初っから使って、どこかの建物を要塞化するべきだった⋯⋯いや、その場合モンカドの数がな⋯⋯」


 そう考えていると、後ろから声が投げられる。


 「いた。見つけたよ日向くん」


 「愛梨⋯⋯ちょうど良かった。一人だときついから一緒に⋯⋯」


 俺は愛梨に近寄った。

 すると、向けられたのは白銀の刃だった。


 「どう言うこと?」


 「不思議なことじゃないよ。ここはソロのバトルロイヤル。戦う事は不思議じゃない」


 「いや、でも⋯⋯」


 「私は本気だよ。私は貴方を倒す」


 愛梨の目は確かに本気だった。

 でも、なんで俺が愛梨と戦わないといけないのか、それが分からなかった。


 高速の袈裟斬りが放たれ、瞬時に防ぐ。


 「日向くんは私と戦えない?」


 「まぁうん」


 「⋯⋯フィールドカード発動『放送禁止エリア』」


 そんなプレイヤーの為に役に立つか分からないお助けアイテムを愛梨は使用した。

 俺なんてバナナの皮しか拾った事ないのに。


 「日向くん。全力で戦おう。互いにレベルは一緒。つまり、身体能力は同じ。アバターも自分に完璧にマッチしている」


 俺は納得てしないけどな。女アバターだし。

 愛梨は現実から少し弄った程度で、体型はあまり変わってない。


 「私はスキルを封印する。剣の技量で貴方と戦う」


 「なんでそこまでして⋯⋯俺、何かしたか?」


 愛梨が震える声で叫ぶ。


 「したよ! 自分だけ悪い風に背負い込んで、自分の想いを踏み潰して、そうやって生きてるんじゃんか!」


 「はぁ?」


 「私知ってるよ。私の部屋から日向くんの庭が見えるから。夜な夜な庭で剣を振るってるの。あの日からもずっと! 剣を忘れられなくて、戻らないと言っておきながら振るい続けている事を!」


 「ッ!」


 愛梨の言っている事は正しかった。


 俺は確かに、毎日のように夜に剣を振るっている。

 過去に未練があるからとかそんな感じではない。

 俺の奥底で、剣が好きなのだ。


 でも、それは良くない。

 だって、俺の剣は⋯⋯。


 「俺の剣は誰かを守る為に振るいたかった。でも、誰かを傷つけてしまった! 相手の方が人数が多かったのに、中には空手部の人だって居たのに、小さな枝だけで全治数ヶ月の怪我を負わせてしまった! 怖いんだよ、そんな自分が」


 「確かに、そのせいで日向くんが剣から離れるようになったのは知ってる。でもさ、私のせいでもあるんだよ。日向くんは私を守る為に振るってくれたじゃん。それを忘れないでよ」


 「ああ、そう言う事か」


 愛梨がずっと俺を剣の道に戻そうとした理由はこれにあったのか。

 俺は人を傷つけた事ばかりに拘っており、愛梨の事が見えていなかった。

 それが彼女にとって、一番辛かったのだろう。


 守られたのに、俺から大切な道を奪ってしまった事が。

 いくら愛梨のせいではないと言えど、実際そうだけど、自分がその要因の一つと考えると苦しいのだろう。


 「だから日向くん、私が貴方を倒して、剣の道に戻させる。私の方がもう強いって、認めさせる。貴方がもう、何も背負う必要は無い。後悔する必要は無い。恐れる必要は無い。やりたい事は素直にやれば良いし、嫌な事は素直に嫌だって言って欲しい!」


 俺は愛梨の目を見た。

 それは、愛梨がいじめられていると知って、助けたあの日からずっと背けていた目。

 サファイアのような蒼い瞳からは想像も出来ない、唐紅の炎に燃えている瞳。


 「また一緒に剣術をお義父さんから習おう、また一緒に剣の道を極めよう。今度は、互いに支え会おうよ。昔は私が全部一人で背負っていたから、結果的に貴方を不幸にした。そして今は、貴方が全部一人で背負って苦しんでいる。そんなのは嫌だ。だからお願い、私が勝ったら、剣で勝ったら、昔のような関係に戻ろうよ!」


 愛梨の思いの丈をぶつけられたせいか、少しだけ足元がふらついた。

 彼女か想っていた事や背負っていたモノが、俺の想定よりも大きかった。


 別に俺の事なんてほっといておけば良い。昔の事だって、愛梨は何も悪くない。

 何も相談出来ないような環境にしてしまった俺のせいだ。

 いじめられている事に気づいてやれずに手を伸ばせなかった俺のせいだ。


 だから、愛梨が後悔する必要なんて⋯⋯あぁ、これが嫌なのか。

 愛梨はこう考える俺が嫌なんだ。

 だから、あの日からいつも以上に剣術に打ち込んでいたのか。


 「愛梨、本気なんだな?」


 「うん。私は日向くんを倒して、超えて、昔のように戻る。大体、あの日だってアイツらが先に沢山の暴力してたじゃん!」


 「でも、俺の方が与えてしまった被害が大きいから」


 「⋯⋯互いに忘れられない後悔の過去だよ。だから一緒に背負おう。一人ではとても重いけど、二人で支え合って行けば、すごく軽くなるよ! 背負わせてよ、一緒に貴方の道を進ませてよ」


 覚悟、決めるか。


 俺は刀を構える。


 「日向くん⋯⋯」


 少し微笑む愛梨。


 「来い愛梨、俺が見ようとしなかったお前の成長をぶつけて見せろ!」


 「うん。行くよ日向くん。貴方の後悔をぶった斬ってあげる。そして私が受け止める。貴方だけが悪い訳じゃないから」


 互いに同じ構えに入る。


 「能力封印スキルロックこれで完全に純粋な剣の戦いになるよ」


 俺も一応やっておこう。集中力強化が無くなる。


 「「霧外流、夜霧!」」


 縦の一閃が交わる。


 そこから互いに弾き、連撃の嵐へと変わる。

 同じ流派の剣術だからこそ、少しのキレの差が大きな力の差になる。


 愛梨は俺よりも長く父から剣術を教わっていたのだろう。

 だけど、愛梨がいつの間にか見ていた通り、俺も結局忘れられずに剣を振るい続けた。


 教えられながらか、独学かの違い。

 才能の違い。


 そこには大きな違いがある。

 才能は俺の方が上だった。

 模擬戦では毎回俺が勝っていた。


 独学で剣に対して未練タラタラで振るっていた時に、自分なりにアレンジや構えの調整を繰り返した。

 教えられたままを吸収した愛梨と創意工夫を繰り返して自分に適した形にした俺。


 そこに大きな違いが存在するんだ。


 「くっ」


 「どうした愛梨、俺を倒すんじゃないのか? 一緒に背負ってくれるんじゃないのか? このままだと、力不足だぞ?」


 「なんで、ここまで差があるのよ。才能だって、言うの?」


 確かに俺のほうが才能は上だったのかもしれない。

 でも、愛梨だって無い訳では無い。


 父に長らく教わっていたんだから、普通なら俺を超えている可能性だってあった。

 ではどこが悪かったのか?


 それは愛梨のアバターが物語っている。


 「現実世界とアバターとでは大きく違う!」


 「⋯⋯ッ!」


 「スキル、レベル、現実世界とは違う力を使い長く活動していたよな? 知ってるぞ俺は。ファンだから、俺の推しだから! 慣れたアバターの体では純粋な対人戦での刀の扱いは違う」


 「まさか⋯⋯」


 「そうだよ。俺は愛梨の成長を見てはいなかった。でも、戦い方は見ていたぞ! 何回もな!」


 この戦いは普通に愛梨の方が不利なんだよ。

 同じ剣術を使いながらも、あっちはダンジョン配信を数年前には始めていた。

 だから戦い方を頭に入れているんだよ、こっちは。


 「モンスターに振るう剣と人間に振るう剣、流派は同じでも扱い方は違う。そこに大きな差があるんだよ! 努力の方向性は違う、才能も違う、でも、お前は既に俺に追いつけている。モンスターとの戦いに慣れたそのアバター、それが俺とお前の最大の違いだ」


 「⋯⋯それでも負けない。助けてくれた恩人に、大切な、家族のような幼馴染に、自分の好きを押し隠してまで過ごして欲しくないから! もっと素直になって、一緒に剣を振るいたいから!」


 「だから」

 「だから!」


 「愛梨、お前では俺に勝てない」

 「絶対、日向くんに勝つんだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る