第19話 神楽を攻略

 俺は神楽を全く知らなかった。

 運だけで追い抜かされた人と一緒に戦って、守り守られていた。

 打算があったのだろうけど、耐えられなくなった。


 抜かされたら辛さ、裏切る辛さ、止めるにしても辛いのだろう。

 神楽の辛さは俺には全く理解出来ない。


 それが俺と言う、運だけで有名になった人間だから。


 でも、神楽は違う。

 努力の塊だ。夢を追いかけて努力の出来る立派な人間だ。


 俺のように、怖くて、辛くて、逃げ出したような男とは違う。


 「イフリート、フレアボム! フレアショット!」


 逃げ出して、辞めた身だけど。

 再び一度、習った剣術を使う。

 今までの俺は結局基礎で戦っていた。

 その状態では神楽には届かない。


 だから一度も見せてない、昔の俺として戦わないといけない。

 生き残りたいのもあるけど、神楽には勝ちたい。

 純粋な力の強さでは俺の方が上だと、思わせる。


 「霧外流、蜃気楼」


 俺は神楽の背後に移動した。

 神楽は正面をずっと見ており魔法をそっちに放っている。

 狙いは首だ。


 「まじかっ!」


 刀で受け流しながら後ろに下がる。


 「嘘⋯⋯なんで」


 神楽が驚いたかのように俺の方を見る。

 先程の歩行技術は一人を対象としているからイフリートには通用しなかったか。

 或いは精霊だからか。


 「私は、配信者として、探索者として、とても未熟だよ。努力はしてないし、試行錯誤もしてない。後先も考えてない。なんか適当に撮った動画が有名になった」


 「嫌味っすか?」


 「いーや事実だよ。皮肉とか、煽りに聞こえるかもしれないけど、神楽の努力を尊敬しているのは事実だ。だからこそ、こうして魔法を向けるんだよね」


 「ええ。だから裏切る計画を考えた⋯⋯誤算としては、貴女が優しい事ですね」


 「そう言ってくれてありがとうね。⋯⋯俺のようなクズを」


 「ん?」


 最後の呟いた言葉は俺でも無意識だった。

 聞こえてないようだったので安心だ。


 「でも、負けないさ。このイベントは配信者としての努力が力に成る訳じゃないからね」


 「だろうね。イフリート⋯⋯」


 「遅い!」


 イフリートは主の防御の時に魔法は使わずに殴って来た。

 つまり、命令しないと魔法を使わない。

 物理攻撃なら避ける事は簡単だ。


 そこに勝機は存在する。


 命令してからの魔法のタイムラグ、神楽の中にある俺には分からない葛藤による精神力の低下。

 刀一本で勝てる要素は存在する。


 「霧外流、水霧すいむ


 イフリートの物理攻撃を避けて、流れるように切り上げる。

 深く入る。魔法をメインに扱う神楽ではいなせない。

 確実にこの一撃で仕留める!


 「速いっ!」


 速いと言うより、会話の中で俺は神楽に近づいていた。

 歩き方により、相手が空気のように俺を認識して、近づいている事に気づいていなかったのだ。

 霧のように薄く、認識した時には既に死んでいる。


 それが俺の家の剣術、霧外きりがい流だ。


 「なぁ、神楽のイフリートズルくない?」


 イフリートに引っ張られた神楽は俺の斬撃を受けなかった。


 「運で登録者僕の三倍になるのはズルくないんっすか?」


 「お、言い返すねぇ。やっと笑みを浮かべたね」


 「ええ、少しだけ気分が楽に成りましたよ。全力を見せてください!」


 「⋯⋯見せてる」


 「モンカド使えよ」


 「⋯⋯断る!」


 本当に現状の条件が悪すぎるんだよ!


 イフリートをどうにしかしないと、神楽には勝てない。

 イフリートは地面から少し浮いている。


 どうすれば良いんだよ。


 「イフリート、フレアサークル!」


 これなら後ろに跳べば⋯⋯凄く違う。

 俺の本能が違うと告げている。


 「横っ!」


 俺は横に大きくステップし、とおり過ぎる魔法は炎の矢。


 「ちぃ」


 「ま、まさか」


 「あーはい。イフリートに命令して魔法を出させる、アレは嘘です」


 「ま、まじかぁ」


 確実に俺を裏切る準備をしていたし、完璧に騙されていた。

 段々と勘を取り戻していたからこそ、なんとか回避出来た。

 でもどうする?


 俺、その命令を聞いて避けるのに慣れてたんだけど?


 「イフリート、お願いね。霊装付与」


 炎の衣に神楽が包まれる。


 「フィールドカード『炎国』発動!」


 地面から熱気が登る。


 「精霊の炎ガイストフレア!」


 「おいおい」


 神楽からは紅の炎が噴射され、イフリートは複数の炎の球体を放って来る。

 あれが精霊魔法なのか? さっきまで見ていた魔法の威力が段違いだ。

 『黎明』とは違う、二人が違う種類の魔法を使っての攻撃。


 「避ける? いや、斬る!」


 俺は魔法に向かって突き進む。

 避けた所で数が多すぎる。

 だったら、必要分だけを破壊して近づく方が良い。


 だけど、それはイフリートの球体のみに言える事であり、神楽から噴射される炎は違う。

 だから、それは避ける。


 イフリートを倒さない限り神楽は倒せない。


 俺が狙うのはイフリートだ。

 勝算がある訳では無い。あくまで希望的予測。

 俺の手札は例のお助けアイテム一つ。

 これに賭ける。


 それを使って、イフリートを倒す。

 逆に言えば、それが出来なかった場合は俺の負けだ。


 「霧外流、輻射霧ふくしゃぎり


 風に飛ばされてしまうかのような軽くも荒い斬撃の数々、それにより炎の球体は斬られる。

 やはり真の剣術を使う場合、少しだけ体に鈍さを感じる。

 女の体だからかは分からないけどね。


 炎のお陰で相手との視界が遮られた。今のうちにインベントリを操作。


 「嘘、なんで止まらないの!」


 「君を倒す!」


 「⋯⋯くっ、ぼ、僕の想いは簡単には負けない! イフリート!」


 彼女との絆が深いイフリートは、神楽の想いの叫びに応えるかのように燃え上がる。

 放たれる魔法の熱は周囲の瓦礫を溶かす。


 あんなのは⋯⋯斬れない。


 絆の力で魔法の威力が上がる、それが本当の精霊魔法だったりしてな。

 ま、そんな事はないと思うけど。

 一部のスキルに裏設定はあると思うけどね。


 ガチャのスキル説明にイベントガチャなんてなかったし。


 「イフリート、こっちはお前を倒すんだよ!」


 お前の優先順位は自分の命よりも神楽の命だろう。

 神楽への危機的攻撃に敏感に反応するよな。

 それは先程までの行動でなんとなく理解している。


 だから、まずは神楽を攻撃する。


 「霧外流、ただの投擲!」


 「流派は?!」


 突き飛ばした刀は神楽を捉えている。

 イフリートはそれを腕で弾く。

 その刀は真っ黒な刀で、俺が一番最初に使っていた刀。


 その刀では精霊のイフリートには攻撃を与えられない。

 だから捨て身に使わせた。


 守りの体勢に入ったイフリートが魔法を使うためには確実にタイムラグが存在する。

 それは何故か、イフリートは魔法を使う度に手を向けていたからだ。


 それが癖か条件か分からない。

 ただ、神楽も含めて、魔法を使う時に魔法陣と接続されている部分を向けて来る。

 それが出せない今は魔法を使えない。


 神楽の盾になって守った。

 神楽は俺を見えていない。

 魔法を使えない。


 コレが俺の最初で最後のチャンス。

 最後のピースを使うぜ。


 「頼む、通用しろよ! トラップカード『確実に滑らせるバナナの皮』!」


 それを浮いているイフリートの足場にシュート!

 確実に滑らせる、条件不明。

 でも、確実ならイフリートにも通用してくれよ!


 踏むの条件じゃなくて、上にいる事が条件であれ!

 これが俺に出来る、最大限の悪足掻きであり切り札だ!


 『グオ!』


 「えっ」


 「きったあああああああ!」


 俺はイフリートの上に飛び乗る。

 制限時間はたったの三秒。


 「あっつ!」


 この新しく買った刀を抜いて地面を弾き、加速する。


 「おー、滑る滑る」


 足に感じる熱と共に、イフリートが高速で滑る。


 「ちょっとイフリートとデートして来ますよ!」


 神楽と10メートル一気に離れる。

 この10メートルが重要だ。召喚解除の範囲外!


 「魔法使われる前に倒させて貰う」


 三秒は経過した。

 俺は高く跳ぶ。


 「霧外流、夜霧よぎり!」


 縦一文字の真っ直ぐな一閃がイフリートを分ける。

 炎の粒子となり、イフリートが消えて行く。

 予想以上に脆い⋯⋯神楽と離れるとステータスがダウンするのか?


 「嘘、でしょ」


 「ふぅ。まぁ、こっちの勝ちね」


 俺は倒れ込んだ神楽に近づく。


 「いずれ一緒にダンジョン攻略しようね」


 「僕の動画、見てくださいね」


 「見ますとも。それじゃ、楽しかったよ」


 情けは与えない。その場合、同情したと思われるから。

 ここは潔く、俺が勝ったと思って貰う。


 「さようなら」


 俺は刀を振り下ろした。





【あとがき】

お陰様で総合ランキングに載る事が出来ました!ありがとうございます!久しぶりのランキングで作者はワクワクしております!

感想待ってます。

ハートや星をくれると励みに繋がります。

明日も7時代に投稿したいと思ってます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る