第16話 断ったよね?

 「ファイヤーボール!」


 その魔法攻撃は敵に当たる事なく、自分の場所を見せつけてしまった。

 魔法をメインに扱う人がたった一人で挑み、不意打ちが失敗に終わる。

 格好の獲物である。


 「俺が貰うからな!」


 ソロは厳しいと判断した人が多く、チームを組む人が多かった。

 今回の相手も六名のチームとなっている。

 近接戦に持ち込んだら倒せると思ったのか、男が一人で近寄って来る。


 「怖いです怖いです。僕、とても怖いです」


 泣き言を言いながら杖を構えて、戦いの意思を示している。

 あと少しで相手の間合いに入る⋯⋯そのタイミングで気配を殺していた俺が飛び出る。


 「なにっ!」


 「油断し過ぎだぞ!」


 魔法をメインに扱う人が一人でこんな風に攻撃はしないし、外す様な真似はしない。

 完全な罠だと言うのに、あっさりと来やがった。

 なんとも扱いやすい敵である。


 「ちくしょう⋯⋯」


 「フレア」


 炎で足を切断されて動けない敵が焼かれていく。

 残りの五名も気づいて、こちらに迫って来る。

 虎のようなモンスターが二体いるので、二人がモンカドを使っている。


 「流石に面倒だな」


 リーダーが存在しない寄せ集めのチームの連携力は弱いだろう。

 だからこそ、戦いにくい。

 連携が無いからこそ出来る、無茶苦茶な戦い方が時に厄介なのだ。


 「逃げるよ」


 「あいあいさー!」


 俺達は全力で回れ右をして逃げ出した。

 流石に追いつかれそうだったので、モンカドを適当に出して見せつけたら、相手は怯んだ。

 これが正しい有名人の使い方だ。


 俺の事を知っている人はモンカドを見たら何が来ると思うだろう。それを狙った。

 当然、こんなタイミングで『アレ』を使う事はない。

 今は早いとかではなく、危険すぎるからだ。


 「少しは壁になってくれ」


 適当な電柱やら建物やらを斬って、障害物にして逃げ隠れる。

 ただ、逃げただけで終わるつもりは無い。


 「日陰さんの判断力は凄いっすね」


 「魔法を見せてくれてありがとうよ」


 なんで俺はこの人と行動を共にしているんだろうか?

 俺は先程助けた人と一緒に行動をして、先程のような騙し討ちで互いにポイントを貯めていた。

 炎系の魔法が使えるらしい。


 「にしても日陰さんのアバター⋯⋯胸が大きくないですか? 動きにくくないです?」


 「そうでも無いよ。そう言う神楽かぐらもビジュアル重視してない?」


 「魔法少女っすから!」


 確かに、後衛なら見た目重視でも良いのか。

 前衛は動きやすさを重視するけど。俺はこれが一番動きやすいそうだぞ。

 悲しいな。


 「参考になる」


 「え、そうですか?」


 さて、物陰から相手を確認する。

 密集しているのは面倒だ。


 「日陰さん、モンカドを使わないんですか? 噂ではメイドって聞くんですけど。どんな感じです?」


 「秘密、アレ分裂させられない?」


 「二秒ください」


 「なら問題ない。行く」


 俺は飛び出して進む。


 「了解っす」


 俺が出て敵達が警戒を示し、二秒が経過した。


 「フレアフォール!」


 炎の壁が一人の敵を囲んだ。そいつは槍。

 歩き方、視線⋯⋯負ける気がしない。


 「スキル発動!」


 槍が二本に見える。

 速い!

 これが攻撃系のスキルか⋯⋯羨ましいな!


 「ここぞって時に身を削れるのが剣士の覚悟だ!」


 一本は避けて、一本は腕で防いで突き刺さる。

 痛みは少し感じるけど、筋肉を固められる事は確認済み。


 「な、抜けない!」


 「逃がさない!」


 槍の方がリーチが長い。

 無駄に距離を取られたらこっちが不利なんだ。

 だからこそ、肉薄して一瞬で決める。


 片手の居合は少し勢いが落ちるけど、仕方ない。

 俺は鞘から引き抜き薙ぐ。

 首を浅く切り裂き、持ち手を切り替え逆手持ちにし、横首と肩の隙間目掛けて、突き刺す。

 グルっと動かして抉り、引っこ抜くと相手が倒れて消える。


 「そろそろ炎の壁が消えるっす!」


 「おーけー」


 残りは四人だろ?

 集中力を高める。

 『道』は必要ない。


 勘だ。

 本能だ。

 闘争本能、戦闘本能、生存本能、何でも良い。

 野生としての本能を高めて、相手がどこにいるのかを考えだせ。


 予測。

 完全なる不意打ちは壁が消えた瞬間に攻撃を仕掛けること。

 その一撃でもう一人を落とす。


 防御に使った左腕が使えない。

 左側の攻撃に気をつける。


 「今っす!」


 「シィィィィ」


 壁が消えたん瞬間、俺は近くにいた敵に肉薄した。


 「嘘っ!」


 防御体勢にはなれない。完全に構えていた。

 反撃も怯んだその瞬間では、瞬時には行えない。

 確実な不意打ちが決まった。


 「くたばれ!」


 心臓を突き刺しグルリと回して、蹴飛ばした。

 残り三人。


 「な、なんなんだコイツ」


 「日陰ってこんなに強いの!」


 「ちょ、モンスター行け!」


 さっき倒した奴が一人のモンカド使用者であり、残りの一人が俺に虎を仕向ける。

 横側から攻撃したら倒せる可能性はあるけど⋯⋯階級によっては負ける。

 何よりも、虎に集中してしまい、攻撃を受けるのが怖い。


 なら取れる選択肢は⋯⋯攻撃ではなく逃走。

 俺には剣士としてのプライドが無いのでね!

 全力で逃げるさ!


 「ちょ、逃げるの!」


 誰かがサブウェポンに持っていたであろうハンドガンを取り出して、俺に放って来る。

 分かりやすい攻撃⋯⋯それくらいなら、横ステップで避けられる。


 「ここよ!」


 ジャンプして俺は壁に足を着ける。

 そのまま跳躍して高く跳ぶ。


 「エンチャントフレア!」


 神楽の魔法が俺の刀に宿り、炎が灯る。


 「そらよ!」


 着地と同時に横薙ぎに全力で振るい、炎の斬撃を放つ。

 虎は死んだけど、プレイヤーには浅い攻撃しか与えられなかった。

 炎症ダメージがどれだけか分からないけど。


 「日陰さん」


 俺がバックステップで神楽に近づき、ポーションで左腕を回復させてくれる。

 迫り来る敵。


 「ファイヤーランス!」


 魔法が飛ぶ。

 それを盾持ちが防いだ。


 「なんで視界塞ぐんだよ」


 魔法と同時に俺は動いていた。

 盾持ちが盾を使って防ぐと言うタイミングを狙っていた。


 神楽と俺は中々の連携が出来ていると思う。

 なんと言うか、動きが分かりやすいのだ。


 「速いっ!」


 「多分、スキル量はこっちの方が少ないよ」


 相手の腕を切断、片足を切断して倒す。トドメは神楽に譲る。

 今は、神楽を優先的に倒そうしている残り二名を殺す。


 「ファイヤーフォール」


 「火の壁で、攻撃が防げると思うな! マナブレイド!」


 輝く剣が展開した魔法の壁を切断した。


 「⋯⋯ッ!」


 「ナイスだ神楽。防げなくても、時間稼ぎが出来る!」


 二秒近くで接近出来る距離なら、その攻撃時間が致命的となる。

 コイツらの敗因はただ一つ、最初の人が油断し過ぎたせいだ。

 仲間となった人のいきなりの死はそれだけで、相手に混乱を生み出す。

 混乱は判断力を鈍らせる!


 「残念だったね!」


 二人の腕を切断して攻撃方法を失わさせる。

 口での攻撃をして来たら蹴飛ばして転けさせて踏みつけて拘束する。

 ポイントは神楽に譲る。


 ⋯⋯神楽が付いて来たから一緒に行動しているけど、正解だったかもしれない。

 プレイヤーを見つけたら、大抵は誰かとチームを組んでいる。

 それに、モンスターを連れている奴らが増え始めている。


 「厳しくなって来た」


 燃やされていく人達を見ながらそう思う。


 「日陰さんがここまで強いと、モンスターを使う機会がないかもしれませんね!」


 「はは。あんまり期待を寄せるな。ギリギリまで出さないよ」


 「凄く気になります!」


 「はいはい」


 なんか妹が出来たかのような感覚になるな。

 声が子供のように高いせいか?


 「どうする? 休憩する?」


 「いえ。僕は全然平気ですので、次行きましょう次! ⋯⋯この辺は止めた方が良いでしょうけどね」


 「逃げるのに必死過ぎて斬りすぎた」


 遮蔽物になる様な物が崩れてしまったので、離れる事にした。

 そしてエンカウントしたのはなんか強そうな人だった。


 「あれ? またあちらから餌が来たよ」


 「寒いな」


 「まぁ、見るからに氷結男子ですからね」


 目の前の地形がカチコチに凍っている。


 「さぁ、戦おうか」


 隠れる事をしないで堂々と一人で外にいる。

 それだけの信頼があるのだろう⋯⋯あのモンスターに。


 「雪女って所ですかね?」


 「だと思うよ」


 俺は刀を抜いた。


 「相性は良さそうじゃん?」


 「そうっすね!」


 「舐められたモノだね。行こう、雪姫。狩りの時間だ」

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